野村胡堂『銭形平次捕物控』第21話~第25話 紹介と感想
第21話「雪の精」(『オール讀物號』1932年12月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(八)お珊文身調べ』嶋中書店, 2004, p.291-325
あらすじ
越後屋佐吉と女房・お市が雪の日の夜に酒を飲んでいると、ドアを叩く音が聞こえる。
お市が外へ出てみるが誰もいない。と思う間もなくお市の首が一瞬で切り裂かれた。
現場には下駄の足跡が残っていたが、周囲には誰もいない。
佐吉に直接頼まれた平次は、八五郎へ調べを頼む。
不可解な状況で起こった殺人事件に、平次の明智が光る。
紹介と感想
不可思議状況の演出に全振りした話です。
ミステリーとしては弱めですが、演出の良さがあります。
また、万七の出番が多かったり、石原利助の縄張りの事件の為、お品にも活躍の場があるのも嬉しかった。
事件の解決だけではなく、犯人の心情にも寄り添う平次の本領が発揮されていました。
レギュラー:八五郎、お品、万七
投げ銭:なし
映像化
大川橋蔵・主演 第11話「雨の中の男」(1966)
第22話「名馬罪あり」(『オール讀物』1933年10月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(七)平次女難』嶋中書店, 2004, p.161-195
野村胡堂『銭形平次捕物控傑作選1』文藝春秋, 2014, p.100-132
あらすじ
平次と八五郎が碁を打っているところへ、相沢半之丞の娘・お秀が訪ねて来た。
旗本の大場岩見は、房州の所領に苛斂誅求の訴えがあり東照宮の御墨付を召し上げられていたが、領地の騒ぎも収まりひとまず下げ渡されることになった。
大場岩見の用人である半之丞は、代理として御墨付きを受けとりに行ったが、その帰りに大八車とすれ違った際に落馬し、馬が死んでしまった。
文箱は無事だったが、半之丞が家で身なりを整えてから文箱を見ると、箱が違っており中身も空だった。
このままでは大場家は取潰しとなり、半之丞は腹を切らなければならない。
平次は、事件の裏側まで見通して解決へと導く。
紹介と感想
八が勝てば一日親分になるという、なんとも平和な碁の勝負から始まる物語ですが、事件自体は残念ながら犠牲を出して幕を下ろします。
また、馬好きの人は注意が必要な事件となっています。
平次は、事件自体はすぐに見通しますが、最善の形で収束できるように動いていきます。
一岡っ引の領分超える働きに、法のユートピアとしての銭形平次の世界を垣間見える短編となります。
レギュラー:八五郎、お静
投げ銭:なし
漫画化
石森章太郎プロ シナリオ:大石賢一 第11話「名馬罪あり」
原作に沿いながら、お秀はカットされ半之丞から直接事情を聞く形へ変更されています。お秀への拷問を半之丞ではなく大場岩見自らが行うなど、原作よりも悪辣さが伝わりやすくなっており、平次が直接大場岩見へ仕置きをする場面が描かれているため、より漫画的にスッキリと読み終われるようになっていました。笹野様の出番もあり。
木村直巳 第12話「名馬罪あり」
こちらもお秀の存在はカットされており、代わりに息子が2人います。笹野様と半之丞の2人が囲碁仲間という形で碁は使われており、笹野様の仲介で事件に関わることになります。また、動物愛護のため馬へ仕掛けるトリックもカットされ、東雲と黒助の心が通じている描写が増えています。原作よりも半之丞とお組の関係が強化され、大筋は沿いながらも物語の後味が良くなるように肉付けで改変を行っていました。
第23話「血潮と糠」(『オール讀物』1933年11月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(七)平次女難』嶋中書店, 2004, p.123-160
あらすじ
編笠を被っている若い物貰いが死に、その懐から百両が出てきたと言う話を持ってきた八五郎。
非情に苦しんで死んだ様子で、医者に調べてもらうと毒殺であることが分かった。
この物貰いの所へ若い娘がよく来て食べ物を差し入れていたと聞いた平次は、娘の素性を確かめる。
敵対心むき出しな万七に横やりを入れられながらも、平次は非情な殺人犯を炙り出す。
紹介と感想
殺人を重ねることでボロを出してしまった犯人を描く今回は、「雪の精」で初登場した万七が目立っていました。
万七の子分でお馴染みのお神楽の清吉も初登場し、いきなり八五郎と殴り合いを繰り広げます。
万七がいかんなく誤認逮捕を繰り返しますが、平次は慌てる様子もなく観察を続けます。
物語としては、一応手掛かりもありますが、もう少し見せ方を工夫すれば更に良くなったと思う話でした。
レギュラー:八五郎、お静、笹野、万七、清吉
投げ銭:なし
第24話「平次女難」(『オール讀物』1933年12月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(七)平次女難』嶋中書店, 2004, p.46-82
野村胡堂『銭形平次捕物控傑作選1』文藝春秋, 2014, p.133-168
野村胡堂/著 末國善己/編『櫛の文字 銭形平次ミステリ傑作選』東京創元社, 2019, p.93-126
あらすじ
平次と八は綺麗な月を見ながら歩いていると、橋から女が身投げをするところを目撃した。
急いで平次が川へと飛び込み、近くの月見船の協力もあり船の上へ引き上げた。
女はお楽と言い、半年前に平次が捕まえた大泥棒の一人・香三郎の妹だった。
泥棒の妹として行く当てがないというお楽を平次は家へ引き取るが、その頃からお静の命が狙われ始める。
お楽を追い出して欲しいと頼むお静に、平次は実家へ帰るようにと叱るのだった。
泣きながら出ていくお静を見て怒り心頭の水茶屋時代の友人・お町、更に何者かの手紙に呼び出されたお品も集まり、三人の女性が平次を囲む。
果たして、この騒動はどこへ行きつくのだろうか。
紹介と感想
平次は、お静に厳しい事を言いながらも御用のため、お静の身の安全のために動きます。
万七はここぞとばかりに絡んできますが、平次の明智はサッと犯人を暴いてしまいます。
事件は、いつも通り平次が説明するのを聞くしかありませんが、見所は口の達者なお町さんになると思います。
レギュラー:八五郎、お静、お品、笹野、万七、清吉
投げ銭:あり
映像化
川浪良太郎・主演 第1作『平次の女難』(1939/松竹)
監督:星哲六 脚本: 出演:山路義人、毛利峰子、尾上栄五郎、富本民平、北見礼子ほか
漫画
さとう勝己 第2話「平次女難」
「七人の花嫁」に続く物語で新婚の平次とお静が描かれます。原作に忠実な漫画化ですが、シリーズ全体を通して石原の利助がライバルのため万七の出番はありません。また、利助もお品を大切にしている描写が挟まったり平次をライバル視するも謝ることもできたりと人間の出来た存在として描かれています。
木村直巳 第7話「平次女難」
原作のシナリオに沿っていますが、お町とお品はカットされています。直接的にお静が殺されそうな様子が描写されたり、早めにお楽の口から平次に気があることが描かれるなど、お楽周りのドラマを強めています。
また、万七親分が登場しますが、原作と違い漫画版は平次に協力的な良い親分です。
第25話「兵粮丸秘聞」(『オール讀物』1934年2月号)
野村胡堂『銭形平次捕物控(四)城の絵図面』嶋中書店, 2004, p.44-82
野村胡堂『銭形平次捕物控傑作選1』文藝春秋, 2014, p.169-207
あらすじ
本道であり本草家として有名な一色道庵が行方知らずになった。
昨年の秋辺りから二人の本草学者が行方不明になり、数週間後に殺されているのが発見されており、道庵で三人目だったのだ。
八方手を尽くすが道庵は見つからなかったが、暫く日が経つと道庵が戻って来た。
何があったか言い渋るのを何とか聞き出すと、何処か分からぬ場所に連れ込まれ丸薬を分析し同じものを作れと命じられたとのこと。
何とか一時的に抜け出したが、未だ見張られており命が心配な道庵。
丸薬の中身は何なのか? 平次は謀反の匂いを嗅ぎつけ調べを進めていく。
紹介と感想
医者が連れ去られ殺される理由も中盤で明かされ、ミステリ的な興味は殆どありませんが、兵糧丸にまつわる平次の調査に動きがあり、結構面白く読む事が出来ます。
大捕物もあり、どちらかと言うと映像向きの話だったかもしれません。
レギュラー:八五郎、笹野
投げ銭:あり