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メグレ長編56『メグレと老外交官の死』Maigret et les Vieillards(1960)紹介と感想
ジョルジュ・シムノン 長島良三訳『メグレと老外交官の死』グーテンベルク21, 2004
あらすじ
5月のある日、外務省に呼び出されたメグレは、元大使のサン・ティレール伯爵が銃殺されたことを知らされる。
伯爵は四発の銃弾を撃たれていたが、一発目で死んでいる事は間違いなかった。
現在の伯爵は何十年も付き添っている家政婦と二人暮らしをしながら規則正しい生活をしており、敵はいないとの話だった。
また、伯爵には結婚はできなかったがお互い一途に思い続けている若い頃からの恋人がおり、相手の夫も公認の中で何十年も文通を重ねていた。
普段とは違う上流階級の空気感に戸惑い、御伽話のような恋愛話や、不思議な殺人現場に悩まされるメグレは、非協力的な家政婦に手を焼きつつも、関係者へ話を聞いていく。
紹介と感想
今回の事件は、動機が分かるまでを描いた物語でした。
動機が明らかになることで、事件の真相や現場の違和感が全て氷解する内容になっており、基本はメグレが関係者に順番に話を聞いていくだけの構成になっていますが、意外と面白く読めました。
それは、この事件に関わるメグレの態度や思考の面白さと同意だと思われました。
メグレは、上流階級の振舞いや考え方が理解できず、まるで現実感のないサン・ティレールとイザベルの恋愛にも苛立ちが起こってしまいます。
また、これらの階級との付き合いの中で、サン・フィアクル村での幼い頃のことをなんども思い出すメグレも何処か物語に味を出していました。
というか、自分はメグレが子供の頃や学生時代を昔を思い出す描写が好きなんだと思います。
ジャンヴィエを筆頭に、デュプーやボンフィスなどメグレ班の出番が多かったり、メグレとは初対面のユルヴァン・ド・シェゾー予審判事が話の分かる人だったりと、警察チーム側の描写が多いのも嬉しかったです。
純粋な愛と、逃れられない義務と、本能的な肉欲と、様々なものが絡み合いながらも、最終的には自分自身の悩みに囚われてしまう人間の弱さが描かれた物語。
傑作とは言えませんが、第六章の冒頭で展開されるメグレの夢の描写もお勧めの、シリーズに慣れてから読むと面白く感じる物語だと思います。
スーツや、コートや、靴を買うたびに、メグレはまず夕方にそれを身につけて、妻といっしょに近くの通りを散歩したり、映画に行ったりする。
「慣れる必要があるからね……」と、メグレは夫人に弁解するのだが、夫人はそういう夫をやさしくからかう。
メグレが新しい捜査に没頭するときも同様だった。どっしりした姿や、自信と取り違えられる平静な顔付きのおかげで、他の人々には気づかれなかったが、実際にはやや長いためらいの時期、不安への時期、さらには優柔不断の時期さえ経ているのだ。
「第二章」より, レストランで考えに没頭するメグレの様子
映像化
ルパート・デイヴィス主演(英)
シリーズ3 第1話『Voices from the Past』(1962) ※日本未紹介
ジャン・リシャール主演(仏)
第47話『Maigret et l'ambassadeur』(1980)※日本未紹介
ブリュノ・クレメール主演(仏)
第42話『メグレと老外交官の死』(2003)
メグレシリーズ 既読作品リスト
現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。
長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
☆09.男の首(1931)
14.サン・フィアクル殺人事件(1932)
☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)
☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆41.メグレとベンチの男(1952)
〇42.メグレの途中下車(1953)
〇43.メグレ間違う(1953)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
〇48.メグレと首なし死体(1955)
☆53.メグレと口の固い証人たち(1958)
〇56.メグレと老外交官の死(1960)
62.メグレと幽霊(1964)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
73.メグレとひとりぼっちの男(1971)
中短編
01.首吊り船(1936)
02.ポールマルシェ大通りの事件(1936)
03.開いた窓(1936)
04.月曜日の男(1936)
05.停車──五十一分間(1936)
☆06.死刑(1936)
07.蠟のしずく(1936)
〇08.ピガール通り(1936)
☆09.メグレの失敗(1937)
☆10.メグレ夫人の恋人(1939)
☆11.バイユーの老婦人(1939)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆13.殺し屋スタン(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)
20.愚かな取引(1939)
☆21.街中の男(1940)
☆24.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆25.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇26.世界一ねばった客(1946)
〇27.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆28.メグレ警視のクリスマス(1950)
☆29.メグレとパリの通り魔(1951)