綿矢りさ『ひらいて』

綿矢りさ『ひらいて』(新潮文庫)

綿矢りさの作品は、深夜のテンションで一気に読了するに限る。深夜のテンションで書く文章は最低だと大学時代の教授に卒業論文時に指導していただいたことがある。現在深夜3:00。自分に酔った文章ほど恥ずかしいものは無く、これを公開したとたんに猛烈に後悔して恥ずかしさに耐えられずすぐに消しちゃうかもしれないが深夜のテンションで読まなければ綿矢りさ『ひらいて』に詰まっている強烈な感情を処理しきれない。読了後の興奮さめやらぬ時に感想を書く。

(※午前10時、深夜のテンションはなるべく残した状態で感想文を書き足します。スカした自分語りはやっぱり恥ずかしいので消します。)

この物語は高校生の初恋の物語だが、強烈な衝動と痛みを伴って描かれている。主人公の愛はふとしたきっかけで同級生の「たとえ」に恋をする。愛は活発な女の子でたとえを振り向かせようとアプローチをかけるがたとえはなびく様子すらない。たとえには別のクラスに恋人の美雪がいたからだ。たとえに恋人がいると知った時、愛はそれでも諦められないくらいたとえに執着している自分に気がついた。思い通りにならない悔しさとくすぶったまま残る人恋しさを抑えられず、愛は激情のままに行動し自分をどんどん傷つけていく。
それまで自分の欲しいものは順調に手に入れてきた愛は初めて叶わないことに直面し心がえぐられる感覚を何度も味わった。愛は適切な心の慰め方がわからず、こんなことしたくないのに、と思いながら自分の欲求と乖離した行動を続ける。これを人は「やけくそ」と呼ぶのだろう。やけくそだから、もちろん自分が傷つく結果しか返ってこない。心がえぐられる様子が丁寧に描かれ、最後には愛が狂ってしまうんじゃないかと心配になりながら読み進めた。冷静に見ると愛はただの駄々っ子だが、誰かに認められたくてもがいている様子は見ていてつらい。もがいている様子があまりにみじめで、愛が救われてほしいとページをめくる速度が上がる。

「ごめんなさい、うまく説明できなくて。えっとね、溺れる者は藁をも摑むっていうことわざあるでしょ」
「うん」
「あれは合ってはいるけど、私は"溺れる者は藁しか掴めない"の方が正しいんじゃないかと思ってるの。本当は助け上げてくれる力強い腕が良いに決まっているけれど、苦しくて闇雲にもがいているから、本当に強い腕を持っている人はそんな人には関わりたくなくて、摑まれるまえに手を引っこめてしまう。だから沈みかけている人間のそばには役に立たない藁しか浮いていない。結局動転した気持ちをなんとか抑えて落ち着き、恐怖に打ち勝って身体の力を抜いて自分の浮力で浮く以外、助かる方法はないの。(中略)」(85頁)

やけくそ状態のまま愛は美雪に近づく。美雪は糖尿病で、入学当時はクラスに馴染もうと努力していたがどうにも馴染めずに悩んでいた。愛のやけくそなど露知らず、美雪は近づいてきた愛と素直に仲良くなり徐々に心をひらいていく。引用は美雪が愛に語った本音の一節で、強烈な感情が描かれる中で、この文章の落ち着きが妙に目立つ。これこそ愛が救われる方法なのだろうが興奮状態の愛にはこの言葉が響かない。愛は感情を抑えられずにどんどん行動をエスカレートさせ、美雪とたとえを翻弄する。

高校生は自分の気が済むまで我儘に行動できる最後の時間かもしれない。行動はあまりに暴力的だが、最終部で感情をぶつけて全身で傷つく愛に寄り添ってあげたいと思った。
高校時代の自分の恋愛を思い出すと恥ずかしさで身悶えするし、意味不明で一方的なアプローチや無謀な告白を思い出すだけで恥ずかし死にする。大人になったらこれらは「恥ずかしい思い出」として精算してさっさと現実を生きねばならないことを思うと、感受性を無限に高められる・その感情を無理に精算しなくても良い時期というのは尊いものだということを改めて感じた一冊だった。スカッとする内容ではないが読了後の感情の高まりがなんとなく心地よい。感受性を高めたい女性向け(男性は愛に感情移入できるのだろうか?)。深夜に読むことをおすすめしたい。

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