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他者を人間と思えない時ってありますか?
はじめに
私たちの日常生活において、他者をどのように見るかという問題は、想像以上に重要な意味を持っています。単なる物体として扱うのか、それとも一人の人間として接するのか。この視点の違いは、私たちの行動や社会のあり方に大きな影響を与えているのです。
WHO vs WHAT:二つの人間観
他者を見る時、私たちには二つの見方があります。一つは、WHO(誰)として見る方法です。これは、一人の人間として、その人の個性や背景、感情を考慮に入れる見方です。もう一つは、WHAT(何)として見る方法で、単なる物体や道具として、その人の機能や役割だけに注目する見方です。この違いは、私たちの行動や判断に大きな影響を与えます。
日常生活における人間観の影響
日常生活での具体例を考えてみましょう。例えば、コンビニの店員さんとのやりとりを想像してください。WHOとして見る場合、「いつもありがとうございます」と笑顔で声をかけ、相手の表情や様子にも気を配るでしょう。一方、WHATとして見る場合は、無言で商品を差し出し、レジ打ちの機械として扱ってしまうかもしれません。このような小さな違いが、お互いの気分や関係性に影響を与えるのです。
人間観と社会問題の関連性
この「WHO vs WHAT」の見方の違いは、より大きな社会問題にも深く関わっています。例えば、差別は特定の集団を「WHAT」としてのみ見ることで、その人々の人間性を無視してしまう結果生じることがあります。また、戦争においては、敵国の人々を「WHAT」として見ることで、攻撃や殺傷を正当化してしまうことがあります。
ハンナ・アーレントの人間観
哲学者のハンナ・アーレントは「人間の条件」という著書で、人間性について深く考察しています。「人間は人間になる」という言葉がありますが、これは生まれながらにして完全な「人間」ではなく、成長と学びを通じて真の意味での「人間」になっていくという考え方です。
「人間になる」ために必要なもの
では、「人間になる」ために必要なものは何でしょうか。まず、他者への共感、つまり相手の立場に立って考える力が重要です。次に、批判的思考、すなわち自分の偏見や先入観を認識し、見直す姿勢が必要です。そして、多様な背景を持つ人々と積極的にコミュニケーションを取るという対話と交流も欠かせません。
現実的なアプローチ:WHOとしての認識の段階的拡大
ただし、日常生活の中で365日24時間、すべての人に対してWHOとして接することは現実的に不可能です。私たちは日々の生活の中で、多くの人々と接し、様々な状況に直面します。その全てにおいて深い理解や共感を持つことは、時間的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。
しかし、だからといってこの考え方を完全に放棄する必要はありません。むしろ、日々の訓練を通じて、これまでWHATとして捉えていた人々に対する見方を少しずつ変えていく努力が重要です。例えば、普段何気なく接している店員さんや同僚の背景を想像してみたり、可能であれば実際に対話をしたりすることで、WHOとして感じられる場面を少しずつ増やしていくことができるでしょう。
この段階的なアプローチは、私たちの心の余裕を保ちながら、同時により人間的な社会を築いていくための現実的な方法となります。小さな変化の積み重ねが、やがて大きな変革につながるのです。
まとめ:人間的な社会の実現に向けて
他者を「WHO」として見ることの大切さを意識しつつ、現実的な範囲で日々の生活の中で実践していくことが、より良い社会づくりの第一歩となるでしょう。
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野中恒宏