検査値の読み方:ルーチン検査①「肝・胆道系の病態」 医学生・医療従事者向け
こんにちは.今回は医療系学生(主に医学生)や医学に関心のある方向けに,検査値についてお話しようと思います.病院にかかったり,また病院で医療に従事するうえで,臨床検査と関わらないことはおそらくないのではないでしょうか.ここからいくつかの記事に分け,病院で行われる検査のなかでも,ルーチン検査についてお話しようと思います.検査値が読めるようになると,病気に対する理解が一気に深まり,医学生ならば臨床実習が一層楽しいものになること間違いなしだと思います.
・ルーチン検査とは
まずルーチン検査とは何かを簡単に説明します.病院ではいろいろな検査が行われていますね.検査は大きく,臨床検査と画像検査に分けられます.臨床検査とは何かというと,呼吸機能などを見る「生理機能検査」,さらに検体を扱う「検体検査」に分けられます.検体検査で扱う検体にはどのような物があるでしょうか.尿や便,血液,遺伝子,組織などが想像できるのではないでしょうか.ルーチン検査とは,尿や便を検体とする一般検査,採血によって得られる血液を検体とした,血液検査,生化学検査,免疫血清検査など,初診時や入院時に行う検体検査のことを指します.生化学検査には様々な項目があり,それらを読むことで,肝臓の状態,腎臓の状態,全身の栄養状態,細菌感染の重症度などを知ることができます.
今回は肝・胆道系の病態を知るための検査項目についてお話しようと思います.
・肝胆道系の病態.
まず検査値についてお話する前に,肝・胆道系の病態についてお話します.
肝臓の病態
肝臓は蛋白質や脂質,胆汁酸などを合成したり,それらを貯蔵する臓器です.また,身体にとって不要なものを無毒化したり排泄しやすい形に変える(代謝する)役割もあります.これらの機能が果たされているかという点で考えるとわかりやすいです.また,もう一つ大事な見方として,肝細胞自体が傷害されている場合にも結果として肝臓の機能を果たせなくなります.
そのため,肝臓の病態を考える際には,肝細胞傷害,肝合成能障害および肝代謝能障害の 3つに分けて考えると理解がしやすいです.
胆道の病態
肝細胞で作られた胆汁は,毛細血管に流れ込み,肝管,総胆管へと流れていきます.その後,Vater乳頭から十二指腸に排出されます.胆道の病態を考える際には,この排出の過程が傷害されていないかというポイントで評価していくことが大事です.
・肝胆道系の評価
ではここから具体的な評価項目を見ていきましょう.肝胆道系の評価項目には次のようなものがあるので,目を通してみてください.
評価する項目:アルブミン,総コレステロール,AST,ALT,γ-GT,ビリルビン,ALP,コリンエステラーゼ,アンモニア,PT,APTT,フィブリノゲン.
まずは肝臓の評価からです.上でお話したように,肝臓の評価は肝細胞障害,肝合成能障害,肝代謝障害の3つに分けて考えるのでした.
①肝細胞障害の評価項目
肝細胞を評価する項目には,ASTとALTがあります.これらは肝細胞内に含まれる酵素で,細胞が傷害されると血中に漏れ出る(逸脱する)ため,検査値で高値を示します.肝細胞が多数傷害されるほど,検査値も高値になります.これらの逸脱酵素について説明していきます.
ASTは,肝細胞だけでなく多くの組織の細胞に含まれる酵素です.つまり特異度は低いです.一方ALTは肝臓特異度が高いため,ASTが高く,ALTが低いといった場合には,肝臓以外の障害を考えるといったように読めると良いでしょう.もう少し詳しく見ていきましょう.
肝細胞障害があると,ASTとALTはともに上昇するのですが,上で挙げたように,病態によって上昇の仕方が違います.単純に肝細胞障害が起こったとき,ASTとALTは同じような上昇の仕方を示しますが,ASTの半減期が約1日,ALTの半減期が約2日であるので,肝細胞障害時には,ALT>ASTとなることが多いです.
一方,AST優位な上昇を示す場合もあります.1つ目は肝細胞以外の細胞障害が合併しているときです.すでに述べましたが,ASTは肝細胞以外にも含まれているので,他の細胞障害があった場合には,程度に応じてASTが上昇します.このときは,別の細胞障害マーカーであるLDの値なども参考にすると良いでしょう.
2つ目は,アルコール性肝障害のときです.これは,ASTとALTの肝細胞内における分布域の違いからくるもので,ASTは中心静脈領域に,ALTは門脈域に多いとされています.アルコール性肝障害は,肝小葉中心静脈領域を中心に起こるため,またアルコールは,ASTよりもALTの酵素活性を優位に低下させるため,AST優位の上昇となるのです.3つ目は劇症肝炎など肝細胞障害の程度が強い場合には,ミトコンドリア内に含まれるASTまで逸脱してくるのでAST>ALTとなります.しかし,半減期の関係で2−3日でALTが優位となってきます.
ここまで肝細胞障害の評価項目それぞれについて話してきましたが,重要なポイントがあります.それは,ASTやALTは肝予備能を反映しているわけではないということです.肝臓には,代謝,合成という機能がありました.ASTやALTは細胞がどれだけ傷害されているかを表すものであり,どれだけ肝臓の機能が残っているかを表すものではない点に注意が必要です.次からは,この肝臓の機能(予備能)を評価する項目についてお話したいと思います.
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