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✓無人島のふたり

 ▽あらすじ
思いがけない大波にさらわれ、夫とふたりだけで
無人島に流されてしまったかのように、
ある日突然がんと診断され、
コロナ禍の自宅でふたりきりで過ごす
闘病生活がはじまった。
58歳で余命宣告を受け、
それでも書くことを手放さなかった作家が、
最期まで綴っていた日記。

▽印象に残ったフレーズ

「4か月ってたったの120日じゃん」と
唐突に実感が湧いて、涙が止まらなくなった。

アッハッハッハと笑って全部見終わったら
気持ちが無防備になったのか
「あー体だるい。これいつ治るんだろう」
と思ってしまい、
「あ、そういえばもう治らないだった。
悪くなる一方で終わるんだった。」
と気が付いてだーっと泣いてしまった。

思い出は売るほどあり、悔いはない。
悔いはないのにもう十分だと言えないのが
人間は矛盾しているなと思う。

ただ私はがん宣告を受け、
それがもう完治不能と聞いた瞬間に、
「逃げなくちゃ!
あらゆる苦しみから逃げなくちゃ!」
と正直に思った。
それが私にとっての緩和ケアなのかもしれない。
しかし、こう思ったのと同時に、
あらゆる苦しみから逃げるのは不可能である、
ということも分かっていたように思う。 

今、私は痛み止めを飲み、吐き気止めを飲み、
ステロイドを飲み、たまに抗生剤を点滴されたり、
大きい病院で検査を受け、訪問医療の医師に
泣き言を言ったり、冗談を言ったり、
夫の生活の世話をほとんどしてもらったり、
逃げても逃げても、
やがて追いつかれることを知っているけれど、
自分から病の中に入っていこうとは決して思わない。

▽感想
ある日、余命宣告を受けて、
死が目の前に来るまで日記を書けるだろうか。
10年や1年などではない。
4か月、3か月、なのだ。
今度これしようね、これ見たいね。ができない。
山本さんもずっと書いていたけど、
この漫画の発売日、このお菓子の発売日
今自分が手掛けている本の出版、
ドラマは見れない、母より先に死ぬ。
そんな事ばかりなのだ。
自分が思い描いていた最後ではなかった。と。

それを自分にあてはめてみたら
涙が止まらなかった。
死ぬ恐怖、娘を置いていく恐怖
1番に娘のことを考えた。

いつまでも健康なんてきっと
この世で一番普通で贅沢なことなんだ。

旦那さんの様子も書いてあったけれど
ある日突然、栓が外れたように
泣き出してしまったり、
先のことを話していると涙が出たり、
1人になりたいと飲みに出かけたり
(この旦那さんの飲みに行く断り方は
夫婦の信頼あっての断り方だなと思った。
普通というか、最期が迫っている病人を前に
その人の最期を思って泣いたり
1人で飲みに行くことはなかなかできないなと)

闘病している本人もだし
それを支えいる旦那さんも次に辛い。

こんな知り方も悲しいけれど
この作者の山本文緒さんの代表作
『自転しながら公転する』も
読んでみようと思った。

無人島のふたり-120日以上生きなくちゃ日記/山本文緒/新潮社

↳試し読みもありますので、ぜひ


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