私の奈良旅①:鳥と先輩に会いに
いつも誕生日のご褒美として、夏季休暇を遅めにとる私。
今年は久しぶりに奈良を訪れることにした。
私は2014年頃に奈良にはまり、3年連続で秋に奈良を訪れたことがある。
きっかけはこの本だった。
当時は寺巡り、御朱印集めに夢中になっていた。
京都の寺院に比べると、どこか素朴で昔の時代に想いを馳せることができる奈良。
JR奈良駅前のホテルに泊まり、バスや電車で奈良中を歩いて回った。
2017年以降は仕事が忙しくなり、さらにはコロナ禍を経て現在はインバウンド地獄。
地元の京都の寺院は観光地化が進み、心を癒してくれる役割がおざなりになりつつあることに寂しさを感じた。
どの寺院を訪れても人だらけ。
わざわざ人を見に行かんでも、と次第に足が遠のいてしまった。
あれから10年近く経った奈良。今どうなっているんだろう。
京都と同様にインバウンドで溢れているんだろうか。
あれから野鳥観察が新たな趣味となった私。
自然があふれていた奈良にどんな鳥たちがいるのかも気になる。
あまり野鳥には会えない季節ではあるが、奈良の野鳥観察スポット4カ所をピックアップ。
せっかくの奈良だから、記憶に残る寺院ももう一度ゆっくり訪ねてみたい。
午前は野鳥観察、午後は寺院を訪ねようと考えた。
昔お世話になったホテルも、幸い空いている。
3泊して奈良を楽しもう。
休み初日。朝一番の新幹線に飛び乗る。
さあ、仕事を忘れて奈良で非日常の時間を過ごそう。
奈良駅には朝9時に到着。
この日は関東と九州地方近くを台風が通り、奈良も少し蒸し暑い。
曇りで雨がぱらつく中、まずは一つ目の野鳥スポット、奈良盆地の北にある平城宮跡を目指す。
広々とした敷地に建物が点在する。
どこかで野焼きしている、懐かしい匂い。
空気が明らかに東京と異なり、緑に囲まれている安心感がある。
平城宮はバーダーにとって、7~9月にかけて夕暮れ時の「ツバメのねぐら入り」が有名だ。
近くにいたスタッフの方に野鳥観察スポットをお聞きすると、平城宮の北東の水上池でよく観察会をしているとのこと。
以前訪れた時と比べ、敷地内に観光客向けの綺麗な建物がいくつも作られている。
この日は既に観光客があちこち歩き回っており、野鳥たちはいないかも。
歩きながら水上池まで足を延ばしてみよう。
茂みからキジとおぼしき「ケーン」という鳴き声が聞こえたが、背丈を超える茂みでその姿は見えない。
てくてく歩いていると、あちこちで「キィーキィーキィー」とモズの高鳴きが聞こえる。
この日は時折小雨が降る曇天。
カメラでしっかり彼の姿をとらえるのが難しいが、久々にモズに会えて顔がほころぶ。
群れずに一人で狩りをするモズ。
大好きな鳥のひとつだ。
君が縄張り宣言するってことは、秋が来たということだね。
あちこちでモズが高鳴き。
そんな中を素早く飛んでいく小さな小鳥たち。
カメラに収められなかったが、セッカだったようだ。
こちらみたいにのんびりした小鳥なら私でも撮れるんだけどな。
平城宮を北へ通り抜け、水上池に行ってみる。
まだ昼間は30℃近くまで上がる奈良。
渡り鳥はそれほど訪れていないようだ。
留鳥のダイサギがのんびりと佇んでいる。
ふと目をやると、茶色いカモたちがプカプカ浮いている。
コガモは冬鳥。
エクリプスとは、オスが繁殖期を終えてこの時期に地味な茶色に換羽したもの。
繁殖期のオスは頭が緑色だ。
繁殖期を終え、のんびりしているように見える。
奈良にも冬鳥が集まりだしたようだ。
遠目でも分かるカンムリカイツブリに、冠羽がなびくキンクロハジロ。
こちらも冬鳥だ。
これからここで冬を過ごすのかな。
奈良県といえば柿。
柿が好きな鳥といえば、ヒヨドリかメジロ。
どちらも果実が好きな甘党だ。
ヒヨドリは奈良滞在中、あちこちでピーピー鳴いていた。
奈良のヒヨドリ、秋はご馳走が多くて幸せなんだろうな。
奈良を歩いていて思うのが、古墳の多さ。
散歩すれば古墳にあたる。
古墳がこれだけたくさんあるのは奈良だけじゃないかと思っていたが、古墳の数は全国で第6位(9663基)らしい。
1位は兵庫県の18,707基。
知らなかった。
池から平城宮へ戻る。
今日は天気に恵まれなかったけれど、モズの高鳴きに秋を感じることができたし、冬を日本で過ごそうと早くも渡ってきたカモ達を見ることができた。
さあ、午後はここから近いお寺を目指そう。
平城宮から大和西大寺駅まで歩き、近鉄橿原線で2駅先の西ノ京駅で降りる。
目指すお寺は歩いてすぐだ。
今回薬師寺に来たかったのは、単純に薬師如来さまにまた会いたかったから。
遠い昔から人々の心や体を癒してきた薬師如来さまを、勝手に私は医師として先輩と思っている。
敷地に入ると、本尊薬師如来の入る金堂を前に左に西塔、右に東塔がそびえている。
730年創建の東塔は、平城京に残る最古の建物。
三重塔だが、6つの屋根を持つ。
大小の屋根が重なるリズミカルな建築美から、「凍れる音楽」とも呼ばれているらしい。
以前訪れた時、改修工事中で見られなかった。
あらためて見ると、西塔より風情あって堂々とし美しい。
解体修理に2009年から2023年までかかったそう。
何度も訪れていたが、やっと見られた。
慈悲深い仏像をじっと見ていると、心が癒える気がする。
前回と異なったのが、溢れんばかりの観光客や修学旅行生に、あちこちから聞こえる法話の声。
あまり落ち着いて拝観することができなかった。
残念だが、人気寺院だから仕方がない。
現在私が使っている御朱印帳が薬師寺のものだと気づいたお寺の方が、にっこり微笑み返してくれる。
薬師寺を後にし、大和西大寺駅へ戻る。
そこからバスですぐのお寺を目指す。
大好きなお寺の一つだ。
ここはいつも観光客が少なく、境内が静かで落ち着ける。
先ほどの薬師寺とは正反対。
飾らず観光客に媚びないところが気に入っている。
秋篠寺は平城京の西北にある奈良時代建立の最後の官寺だ。
本堂は1135年に火災で焼失し、現在の建物は鎌倉時代に再建された。
秋篠寺のご本尊も薬師如来。
薬師如来さまを囲むようにたくさんの仏像が飾られているが、最も有名な仏像は、本堂左端に立つ伎芸天像。
瞑想的な表情と優雅な身のこなし。
そのお姿は「東洋のミューズ」と呼ばれるほど、過去に人々を魅了したそうだ。
堂内は光が制限され、暗い中ぼんやりと仏像たちが浮かび上がる。
床は土間で雰囲気は質素だが、仏たちの魅力で溢れている。
ほぼ人がいない中、一人椅子に腰掛けて静かに仏像たちと対面する。
秋篠寺の薬師如来さまは、薬師寺よりお顔がふっくらしている。
伎芸天さまは芸術の神様。お姿は艶やかだ。
顔は奈良時代に、体は鎌倉時代に作られたそう。
今ほど情報や娯楽が無かった昔。
お美しい姿に皆メロメロになったのかな。
奈良1日目。
もう少し足を延ばそうか考えていたが、昨日までの仕事の疲れもあり「ここでもうやめとけ」と私の足が言っている。
会いたかった薬師如来さまたちにも会えたし、今日はこれくらいにしておこう。
バスに乗り、ホテルのあるJR奈良駅に戻る。
最後に薬師如来さまのご真言。
オンコロコロ センダリ マトウギ ソワカ
2日目以降はこちら