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【読書感想】『少年と犬』を読んで犬の歴史を感じる。
『少年と犬』という本を読みました。
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馳 星週
文春文庫
この本は犬を中心に描かれている物語。犬が旅をし、その旅の途中で出会う人々との物語を詰めた短編集。
私、犬が出てくるお話って苦手なんですよね。正確に言えば「犬が可哀想な目に遭いそうなお話」って苦手。嫌いとかではなく、苦手。
読みながら感情移入し過ぎてしまうから、中々読み進められれない。「この子(犬)だけは酷い目に遭わないで」と常に思いながら読んでしまうからハラハラして疲れてしまう。だから、嫌いなわけではないけど苦手なんです。
今回読んだ本もまさにそういう話でした。最初の話『男と犬』は東日本大震災が起きてから少し経った頃の話で全体的に何となく暗い雰囲気。そんな中、冒頭から『多聞』という犬が登場する。
その時点で「あぁー苦手かもー」と思ったけれど、先が気になるのでノロノロと最後まで読み進めた。そして、読み終わった。
読んでる途中で一回泣き、終盤でもう一回泣きました。私の人生で二番目に泣いた小説です。(ちなみに一番泣いた小説は『君の膵臓をたべたい』です)
この本、全ての短編で共通していることは、『犬による人の変化』だった。犬によって生活に色が生まれ、犬によって崖っぷちで踏みとどまり、犬によって踏み出す。そんな人々が描かれている。
(この小説の設定上、この感想文では登場する犬を『多聞』とは呼ばず『犬』と呼びます。多聞というのはある人にとっての名前でしかないから)
作中を通して犬は果てしなく長い旅をしている。きっとこの本にも描かれていない物語もあるのだろうと、確信できるほど長い旅だ。その旅自体に現実味はないけれど、犬と犬に出会った人が織りなす物語には現実味がある。
基本的にこの本に登場する人物は、犬の出会ってから分かれるまでの間しか描かれない。その人物のこれまでの人生は説明でしか触れられないし、これからの人生は一切分からない。
でも、そんな短い間であっても、その人の人生が分かる。
最初の話、『男と犬』では生活と家族のために働く男のこれまでの苦労や悩みを感じることができ、『少女と犬』では少女が経験した苦痛の日々を感じることができ、『老人と犬』では老人の生き方や住んでいる土地での立場を感じることが出来る。
短編なのに、描かれているのは放浪する犬と一緒にいる間だけなのに、その人物の生きる道が分かる、感じることができる。短編だけれど、厚く、深い。そんな魅力に溢れている。
そして、そんな登場人物はみんな犬に支えられている。犬との出会い方、持っている過去、住んでいる場所、性別、年齢、何もかも違う人物たちが同じ一匹の犬に支えられている。
その様子を見ると、やっぱり犬と人間の間には特別な絆があるんじゃないかという気持ちになる。ネコやハムスターやインコやキンギョなどなど、ペットというものは色々いるけれど、やっぱり犬は特別だ。人類史の中に入り込み、昔から人間と共に暮らしてきた歴史がある。そんな歴史をこの本に描かれた、たった一匹の犬から感じてしまう。
この本の魅力の一つに、『犬に関する描写の細かさ・正確さ』というものがあると思う。
この本を読んでいると、犬の動きや感情、表情までもがありありと脳裏に浮かんでくる。犬が嬉しがっている時、心配してる時、諦めた時、悲しがってる時、そういった様々な場面の犬の動きが繊細に描写されている。
私は生まれた時から家に犬がいて、今現在も犬と共に暮らしているけれど、「確かにこういう動きするな」「こういう顔の時あるな」と思う文章がいくつもあった。
作者の馳 星周という方はきっと犬のことがとても好きで詳しくて、もしかしたら自分と同じように犬と暮らしてきたんじゃないかと思う。この方の作品は初めて読んだけれど、他の小説にも犬が登場するのだろうか。
そういった犬に関する造詣の深さというのも、この本から犬の歴史すら感じる所以だ。
色んな立場・境遇の人が犬に支えられ人生を変える話でありながら、たった一匹の犬が長い道のりを旅する話でもある。人目線で読めば大いなる感動、犬目線で読めば一途な想いに従った苦労話。
犬がある一方向を見続ける理由を知った時は自然と涙が溢れてきました。
『少年と犬』、我が人生最大級の感動作です。
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