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【読書感想】傲慢と善良とジョジョ

辻村深月さんの『傲慢と善良』を読みました。

傲慢と善良
辻村深月
朝日文庫

 辻村深月さんの小説は、『冷たい校舎の時は止まる』『凍りのくじら』『オーダーメイド殺人クラブ』『かがみの孤城』『青空と逃げる』『琥珀の夏』を読んだことがあり、一番好きなのは『かがみの孤城』です。

 今回の傲慢と善良もかなり話題になっていた作品なので気になってました。やっと読めた。嬉しい。せっかくなので感想を書きます。


※この先ネタバレを含みます※



・嫌さが凄い

 この物語を読んで一番感じたのは人間の“嫌さ”だ。出てくる登場人物がとにかく嫌だ。小説を読んでいると登場人物に共感することがよくあるけれど、この物語に出てくる登場人物には全然共感できない。ほぼ全ての人物に対して「嫌だな〜この人」って思う。

 でも、登場人物たち、実際は捻くれた性格の嫌な人間ばかりというわけではなく、結構普通な人たちだ。「こういう人自分の周りにもいるな・こういう人いそうだな」という人ばかりが出てくる。それなのに全員嫌。

 「自分は察しが良くて全てわかってますよ」みたいな態度をとる友達とか、一つの場所に留まり自分の狭い視野と価値観を押し付けてくる親とか、会話へのやる気を感じなくて口を開いてもボソボソと話して何言ってるのかわからない人とか、みーんな周りにいる or いそう。

 この“嫌さ”は描写の細かさに由来するものだと思う。人の気持ちが手に取るように分かっているかのような話をする人、自分の言っていること、自分の周り、生まれてきた環境が世界のスタンダードだと信じて疑わない人、そういった人たちの話し方や態度、表情の機微まで目に浮かぶような文章だった。

 自分の周りにもいそうな人の現実味のある部分が事細かに書かれているから嫌なのだ。人というものをここまで細かく描ける辻村深月さんのおかげで、嫌だな〜と思っている。


・まさかの真実、2部構成

 この物語、主人公の架の恋人である真実が失踪してしまうところから始まる。その失踪の理由とはどうやら真実に前々から付き纏っていたストーカーが起こしたことらしい。

 その事件が起きてから、架は探偵の如く真実を捜索し始める。真実の周りの人物、過去関わりがあった人物、親、地元の知り合いなどに話を聞き、真実に迫っていく。

 そんな感じで物語が進んでいくからミステリー物だと思うじゃないですか。それがそうじゃないんだよな。それがびっくり。それが面白かった。

 ミステリーと思いきや大恋愛だった。ストーカーなんていなかったし途中から主人公が真実に変わるし真実は自分の意思で架から離れてるし。予想外の急展開が衝撃的だった。

 この衝撃は、ジョジョの奇妙な冒険に受けた衝撃に似ている。ジョジョの奇妙な冒険という漫画は部ごとに主人公や時代が変わる。私が初めて触れたジョジョは3部のアニメだ。

 1部2部を見ずにいきなり3部から見て、ハマった。超面白かった。ジョジョ3部では登場人物たちがスタンドという特殊能力を操ってバトルを繰り広げていく。

 3部を見終わった後、ジョジョの他の部にも興味が湧いて1部と2部を見てみた。

 なんと、主人公が違う上にスタンドが出てこなかった。衝撃である。

 3部と1部では時代が全く違うので主人公が違うというのは受け入れられたが、まさかバトル漫画で戦闘の方法が異なるとは思わなかった。1部と2部ではスタンドではなく波紋という別の特殊能力で戦う。自分的にはバスケ漫画を読んでいたら急にサッカーをし始めたくらいの衝撃だった。

 これと同じ衝撃を今回も受けた。例えが伝わっているか分からないけれど、とにかく衝撃的だったのだ。

 ミステリー物だと思い込んで真実の行方を考えながら読んでいた私は、辻村深月さんの手のひらの上だった。

・対比

 この物語の登場人物はタイトルの通り、みんな傲慢か善良だ。この二つの対立構造が面白かった。

 傲慢と善良の二つ。作中においてこれは常に動かずに対立するものではない。人は傲慢さと善良さを合わせて持っている。

 正義と悪が数値では測れないように、傲慢と善良も単純に分けられるものではない。人は傲慢さと善良さを半分ずつ持っているわけでも2:8の割合で持っているわけでもない。傲慢と善良というのは常に動くのだ。

 人は傲慢にも善良にもなれるし、傲慢にも善良にも見られる。同じ人でも、ある時は傲慢な考えを持っていて、またある時には善良な行動をとる。

 物語の初めは架が傲慢で、真実が善良な人間というように描かれていたけれど、いつの間にかそれが逆転して、架は誰よりも善良な考えを持っていて、真実は誰よりも傲慢な行動を取っていたと感じるようになる。

 この常に変化していく対立構造がとても面白かった。確かに人間ってこうだよなって思える。それも人物描写が細かすぎるほど細かいから感じられることなんだろうなと思う。

 ストーリーの構成が面白くて全体的に人物描写の細かさが凄い! と思える本で面白かった。読んでて気持ちいいかと聞かれると、頷けはしないけど、間違いなく面白い本でした。


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