映画感想文「名もなく貧しく美しく」(1961年の邦画です)
某有料衛星放送の配信で「名もなく貧しく美しく」を鑑賞しました。
63年前の1961年作品でモノクロ。
監督は松山善三さん、主演は高峰秀子さん、小林桂樹さん。
感想を書いてみようと思います。
と、いつもならここでどこぞのサイトからあらすじを引用するのだけど、なかなかよいあらすじがなくて断念。
今日は自分で書いてみまっす。
※激しいネタバレあります。注意⚠️
そして、あらすじ長いっす。
***
主人公はろう者の女性。時代は戦中から始まり、すぐ戦後へ。
お寺に嫁いでいたのだけど、夫が病気で死ぬと、ろう者ということもあってすぐさま離縁される。(←ひどい)
主人公は実家に帰るのだけど、姉や弟は戦後の貧しい環境もあって、良い顔をしない。
でもお母さんだけはとっても優しくて、離縁される時も「失礼じゃないか」と啖呵を切ってくれた。
主人公はろう学校の同窓会である男性と知り合い、結婚。
主人公は幼い時に高熱で耳が聞こえなくなってしまったため、少しは発語できる。一方夫となった男性は生まれつき耳が聞こえなかったため、言葉は話せない。
夫婦はともにろう者であることから子どもを作ることをためらう。
(ためらうことは全くないのだけど)子どもがろうであったらどうしよう、また自分たちに子育てができるだろうか、という理由から2人は悩む。
主人公に優しい母親でさえ、子育ては無理だと止める。(←ひどい)
でも2人は自分たちの気持ちを尊重して子どもを作り、赤ん坊が無事生まれる。
音に反応することから赤ん坊の耳が聞こえることに大喜びする夫婦。
けれどもある夜赤ん坊が大泣きしているのにも夫婦は気づかず、赤ん坊を亡くしてしまう。自分たちを責める夫婦。
夫婦は悲しみを抱えながらも、靴磨きなどをしながら糊口をしのぐ。
夫婦は再び赤ん坊を授かる。
そんな時やくざっぽい弟が実家の資産を勝手に売り払ってしまったため、母親が主人公夫婦の家に転がり込んできて、共同生活が始まる。
無事に赤ん坊が生まれ、耳が聞こえることが分かる。
今度は母親が隣の部屋で寝ているため、赤ん坊が夜泣きしたら、ひもに付けたやかんを夫婦の身体の上に落として知らせる仕掛けを作った。
夫は植字工として工場で働き、主人公は母親のなけなしのお金で買ったミシンで内職を始める。4人の生活が貧しいながらも軌道に乗り始める。
ただ息子は成長するにつれて、ろう者である両親を恥ずかしがるようになる。(←そんなことはまったくない)
追い打ちをかけるように、弟が家に乗り込んできて金欲しさのためミシンを奪っていく。
絶望した主人公は置手紙を残して家を飛び出すのだけど、夫が必死に説得する。
息子は一生懸命働く両親を見るにつれ考えを改め、母親の裁縫の賃金がろう者であるがゆえに安いと雇い主に詰め寄り、雇い主に謝罪させる。
気持ちの優しい子に育ってくれたことに安どする主人公。自分がろう者ゆえに性格が悪くなってしまったのではないかと悩んでいたのだ。(←これもそんなことはまったくない)
そんな折、主人公は戦中、孤児と少しの間一緒に暮らしていたのだけど、前夫の義理の両親が主人公が留守の間に警察に届けてしまい、離れ離れになってしまっていた。
その孤児が立派に成長し主人公の家を訪ねてきたのだ。知らせを聞いて、出かけ先から走って家に戻る主人公。
大通りを車を避けながら渡ろうとするのだがーーーー。
***
長くなってしまいましたが、これがあらすじのほとんど。
ラストシーンだけはさすがにぼかしましたが、まあ想像ついちゃいますよね。ネタバレ全開ですみません。。。
ただこの映画、良作です。
63年前の作品だし、モノクロだし、派手なアクションシーンがあるわけでもない。128分あります。
でもスッと観られちゃう。
確かに時代の限界はあります。
あらすじの中でも突っ込んでるけど、今から見ると「ひどいなあ。とんでもないなあ」って描写はあります。
でもその当時の当たり前の感覚だったのでしょう。
さらに言えば、主人公たちも自分たちで何とかしようと必死で、社会の無理解・不寛容にもっと怒っていいと思うし、大きな視点で障がい者を取り巻く制度・環境を変えていくべきだと思うのだけど、まだそこまで行きついていない。
劇中で夫が「僕たちはもっといろいろなことを知らなくてはいけない」と言っているので、その萌芽はあるのだけど、日本の悪習で家族内でなんとかなってしまっている。
これがアメリカなら夫婦でろう者の権利を拡大する運動に身を投じたとか、協力してくれる人が出てきそうだけど、そうならないのが悪い意味で日本。
あと、主人公夫婦がとっても性格の良い人たちなので、障がい者がちょっと美化されているんですよね。
主人公が最後○○なのも、存在が結晶化されてしまって、いわゆるお涙ちょうだい話に感じちゃう。
主人公の弟なんか実家や姉夫婦に金をたかりにくるどうしようもない奴なのだけど、夫婦はピュアで一生懸命。
夫婦喧嘩はあるっちゃあるけど、かわいいものです。
とまあいろいろ言ったけど、上記で書いたように良作です。
当時のろう者(障がい者)の方の悩みが等身大で描かれているし、きっとその当時の限界のちょっと上をいっているのだと思います。
何より映像表現としてカット割りが良いのです。自然なんだよなあ。
だから派手なシーンはなくても観ていられる。
お話の中身も良いのだけど、シナリオもさっぱりしててストーリーが前にとんとん進むからベタつかない。(ラストは個人的に好みじゃないけど)
ただ見せたい場面はしっかり見せる、ドラマをきちっと盛り上げる。
エンタメとしてバランスが良いのです。
オススメですよー。
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