映画感想文「こんにちは、母さん」 バランス良い作品
現在公開中の「こんにちは、母さん」を映画館で鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。
正直に言うと、山田洋次監督の近年の作品「キネマの神様」と「男はつらいよ おかえり 寅さん」にはのれなかった。。。
なので映画館に行こうかどうか迷ってました。配信されてからでもいいかなと。
だけど前回映画館に行ったのが1カ月ぐらい前で、自分としては映画館で映画を観たかった。ムズムズしてました。
そんな時に休日に時間が空き上映時間もちょうどよかったので、そこまで期待せずに観にいきました(言い方悪くてすみません)。
でも今回の「こんにちは、母さん」は山田監督の本来持っている切れ味、家庭劇の中の告発という鋭さがありました。
「最近ちょっとなあ」と迷われてる方がいらっしゃったら、おすすめします。
※ここからネタバレありです。気になる方は退避!
吉永小百合さんがおばあちゃんを演じてることが話題になってますよね。
もちろん吉永さん演じる福江さんの恋が物語の大きないろどりになっているのだけど、ただ老齢の方を持ち上げた映画ではないんです。
老齢の方が恋して元気でいいね、という話だけではない。
おばあちゃんの家に転がり込んでくる孫の告発もあるし、息子の中年サラリーマンの悲哀もある。
福江さんから「老いへの恐怖」という正直な吐露もある。
告発というと少し大げさすぎるかもしれないけど、登場人物みなに思うところがあって、山田監督はそれをちゃんと吐き出させてる。
そこにドキっとしたのです。
山田監督といえば「男はつらいよ」ですよね。
で、「男はつらいよ」は懐かしい雰囲気の家庭劇だと思われがちだけど、その時々の社会問題を取り込んでいます。
もちろん娯楽作品だし喜劇なのだけど、その中に考えさせられるものがある。
今回、吉永さん演じる福江は東京の下町・向島で足袋屋さんをやっていて、いわゆる「男はつらいよ」のフレーム(枠)を踏襲している。
ただ、今回の作品はそこにとどまってないんです。
得意なフレームを使ったセルフオマージュかというと、そうじゃない。昭和風家庭劇の再現ではないのです。
なぜなら、息子・孫がいろいろあって、福江さんの家に上がり込んでくるんだけど、みんなでご飯を食べるシーンはない。
「男はつらいよ」では定番の、寅さんが長台詞をのたまう一家団欒のシーンはないんです。
山田監督は観客の予定調和を今回裏切ってるんですよね。
あと盛大にネタバレしてしまうと、ラストで会社を辞めた息子が実家に戻って一緒に住みたいと言う。
これも「男はつらいよ」との比較だけど、寅さんは実家に戻らず、ラストでどこか旅に出て映画は終わる。
原作の舞台通りなのかもしれないけど、この作品では真逆で、息子が戻ってくる。
自分はそれをただの逆張りだとは感じなかった。自然な流れで家族がまたひとつになるというか。
まあ時代錯誤的なツッコミどころがないかといえばそんなこともない。
でも自分は山田監督の「裏切り」「真逆」に映画作家としての「欲」を感じたんですよね。
今までとは違う自作を見たいと監督自身が欲してるんじゃないかな。
ただ、もちろん「欲」だけじゃありません。
山田監督からの「肩ひじ張らずに、みんなで助け合っていけばいいんじゃない」という柔らかいメッセージも感じました。
今作品はそのバランスが良かったと思います。
公開してるうちにぜひ。
総合評価 ☆☆☆+☆半分(☆5つが最高)
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?