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映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(22)のアクション構造

本作はマルチバースを利用したサプライズに富みながらも、アクション・シークエンスが緻密に構成されていた。
筆者は従来のアクションとは違う計算され尽くしたアクション構造に酔いしれてしまったわけだが、何がこれまでのアクションと違うのか?

●「サプライズに富んだ矢継ぎ早のアクション」×「奥行構図の追いかけっこ」

ドクター・オクトパスが登場するハイウェイシーン。
オクトパスが4本のアームで人を乗せた車を軽々と投げつけてくる。車に乗った人を救出するスパイダーマン。一般的に近年の救出劇は超スローモーションで描かれるが、本作では、最低限のスローモーション(車の中に人がいることがわかる程度)でスピーディに展開し、矢継ぎ早にオクトパスが攻撃をして一切のスローモーションなしに、叩きつけられたり、避けたりする「矢継ぎ早のアクション」でハラハラ感を演出していた。
これは2000〜2010年代に主流となった形式美アクション(『マトリックス』等のワイヤーアクション)よりもデジタル加工された美術の中でリアルタイムの離れ業を披露するアクションが優先される近年のトレンドを取り入れたものではないだろうか。
そうした畳み掛ける「矢継ぎ早のアクション」に加えて人物の立ち位置を利用した奥行構図が素晴らしい。

高架下に落ちようとする車(女性)の救出に向かうシークエンス。
画面の最奥にはコンクリート管を振り回すオクトパス(追う者)。
手前には満身創痍の中で女性の救出に向かうスパイダーマン(追う者)。
さらに画面の手前には観客の想像上で危機に瀕した女性(追いかけられる者)がいる。
そうした奥行き構図を維持しながら、アームをかわしてコンクリート管や車に叩きつけられながらも観客(落ちそうになる車)に向かって走り続け、徐々にスパイダーマンが観客側に近づいてくることで、間に合うかどうかの緊張感がより一層増していく構造になっていた。

コンクリート管を振り回すオクトパス(追う者)。
救出に向かう満身創痍のスパイダーマン(追う者)。
手前に危機に瀕した人(追われる者)が想像できる。
「奥行き構図の追いかけっこ」で緊張感を演出。

さらに凄いのが、「奥行き構図の追いかけっこ」を1つの画面だけで示すことで瞬時にサスペンスを演出しながらも「矢継ぎ早のアクション」を入れこんでいることだ。
オクトパスと距離ができたところを奥行き構図で写しながら、スパイダーマンの背後で車を投げつけてくるオクトパス。観客が危機感を察知したとき、スパイダーマンはバク転で車をかわしていく。最低限のスローモーション(状況が理解できる程度)で写す矢継ぎ早のアクションが絡みながらスパイダーマンは危機に瀕した女性のもとに到着する。

アームで掴んだ車を投げつけてくるシーン。
スパイダーマンが以前より手前に位置することで、
女性に近づいてることがわかる。
投げつけた車を間一髪でかわすスパイダーマン。
状況が理解できる最低限のスローモーション。
「サプライズに富んだ矢継ぎ早のアクション」と「奥行き構図の追いかけっこ」が1つのシークエンスで調和

こうした「サプライズに富んだ矢継ぎ早のアクション」と「奥行き構図の追いかけっこ」をかけ合わせたアクション構図は、本作のアクションシークエンスのほとんどで見られる。
例えばドクターストレンジとスパイダーマンがある装置を奪い合うアクションシークエンスや自由の女神におけるスパイダーマンとヴィラン達とのシークエンスがそれだ。1つのアイテムを追いかけるスパイダーマンと彼を追う者(ヴィランやストレンジ)が、奥行き構図の追いかけっこを維持しながら矢継ぎ早のアクションを展開させる。驚きを与えるアイディアと視覚的な緊張感を1つのシークエンスで見事に調和させていた。

●セカンドチャンスの主題

こうした「サプライズに富んだ矢継ぎ早のアクション」と「奥行き構図の追いかけっこ」の構図は、物語の終盤になるにつれて本作の「セカンドチャンス」という主題とも絡んでくる。同じ過ちを繰り返させないために、追う者・追われる者・妨げる者が奥行きのある構造でアクションを繰り広げる。
主題、緊張、驚きを混在させながら1つのシークエンスとさして違和感なくスピーディーに構成したアクションシークエンス。これを意識しながら再見するとまた違った『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の愉しみが増えるかもしれない。

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