ママと少女と少女のママと
映画「秘密の森の、その向こう」
一昨年見たセリーヌ・シアマ監督の「燃ゆる女の肖像」は、いま思い出してもオロオロしてしまうくらい衝撃的でした。あの、ドレスの裾が燃ゆる立ち姿が鮮烈すぎて。だから、新作も絶対衝撃的だろうと予想はしていましたが、前作とは全く趣の異なる衝撃でした。今回のは、まったりと、胸の奥がとろけるような衝撃とでもいいますか。
「秘密の森の、その向こう」と邦題がつけられており、まったく筋違いなタイトルではありませんが、やはり原題の「Petite Maman」のほうが作品にぴったりです。
8歳のネリーは、亡くなったお祖母さんのおうちの片づけをするお母さんに付いて、森の中にあるお祖母さんの家にやってきました。でも、お母さんは悲しみに暮れて出ていってしまい、ネリーは片づけが終わるまでお父さんと二人で滞在することに。
ネリーが一人、庭で遊んでいると、ボールが森の奥に飛んでいってしまい、ボールを探しに森を歩くうちに、同い年くらいの少女に出会いました。少女は、森の中に秘密基地を造っています。少女はネリーのお母さんと同じマリオンといい、マリオンのおうちは亡くなったネリーのお祖母さんの家と同じ家です。
ネリーとマリオンは仲良くなります。お祖母さんの家を発つ日がマリオンの誕生日と知ったネリーはお父さんにお願いして、マリオンの8歳の誕生日をマリオンの家で、マリオンのお母さんと一緒にお祝いします。
片づけは終わったから家に帰ろうというお父さんに、「招待されたから、お泊りさせて」とお願いするネリーが、たまらなく可愛いです。しかも、初めてのお泊りのご招待がマリオンの誕生日だから、「わたしは行かなくてはならないの」と、きちんと責任感を持っています。
ネリーとマリオンは本当にそっくり。ネリーは紺、マリオンは赤を基調とした洋服を通しで着てくれなければ、見分けがつきませんでした。
「燃ゆる女の肖像」も、衣装の色使いが印象的で、わたしのお気に入りは画家のマリアンヌが美術展で着ていたブルーのケープとドレス。今作のネリーも、ブルゾンやパジャマ、タオルやブランケットにいたるまでブルー系で徹底されていました。こうした、鑑賞している時間だけは現実のあれやこれやから隔離され、幻想の世界にいざなってくれる映画が大好きです。