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五月雨

閉め切った部屋の中のムンムンとした空気に嫌気がさす。明らかに先週までの空気とは違うことがわかる。

どうやら僕の住む東海地方は、数日前に記録的な早さで梅雨入りしたらしい。異常気象なのだろうか。年々夏が長くなっている気がする。春が一番好きなのにな…ほんとうに五月雨の漢字がピッタリになってしまった。

汗を滲ませながら、参考書に向き合っていたが、もう我慢できない。席から立ち、窓を開ける。雨で冷えた空気がふわっと肌に触れる。少々雨が降り込んでくるが、随分ましになるだろうと、また参考書に目を落とす。

網戸越しに先程より大きな雨音が、耳に流れ込んでくる。室外機に屋根を伝う大きな雨粒が落ちる音、濡れた道路を車が走る音。不思議と集中は乱されない。少し雑音がある方が、人は集中できるんだっけ。

しばらく集中して参考書を読み進めるも、別のことが僕の集中を乱し始めた。なんで思い出したんだろう。もう何年経ったろう。それはあなたとの高校時代の雨の日の思い出。


その日も雨だった。グラウンドの片隅の土臭いバスケ部の部室で僕は着替えていた。コンクリートの床と壁の小さな部室は、雨の日は空気がひんやりとして心地がよい。グラウンドにできた水溜りを眺めて、部活が休みになった野球部の連中を憎む。どんな天候でもバスケ部に休みはないのだ。

傘を持って部室を出ると、階段からクラスメイトの女の子が下りてきた。クラスメイトの女の子の中では、仲が良かった彼女と少ししゃべる。まだ付き合う前の僕らだった。彼女はサッカー部のマネージャーで、サッカー部は体育館の横で筋トレメニューらしい。

彼女は傘を持ってなかったから、傘を顎で指し、「体育館まで一緒に入ってく?」なんて提案する。スマートに誘えていただろうか。この頃から気になっていたかはわからない。なにせ何月のことかも覚えていない。

いつも教室で喋っているはずなのに、緊張する。「相合傘」なんて言葉があるからか、彼女の長い髪から香るシャンプーの匂いのせいだろうか。なにを話したかは覚えていない。ただ、体育館までの道のりはいつもより短かった気がする。


そんなことを雨の日は思い出す。

いつも左隣を大きな声で笑いながら歩いてくれていた君はもう別の人の左隣が定位置だ。

少し抜けている君は、梅雨でも傘を家に忘れたりするんだろ。

新しい彼も自分の右肩をびしょ濡れにしているのだろうか。


※だいぶフィクション


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junya
スキしてもらえると喜びの舞を踊ります。