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水道水とPFAS汚染③海外ではPFAS汚染にどのように取り組んでいるのか?

引き続きNHK特集から。

NHKスペシャル調査報道新世紀 File8 「追跡“PFAS汚染”」



イタリアのベネト州。
豊富な地下水に恵まれ農業やワインの生産で有名な所です。

しかし、2013年水道水からPFASが検出されました。
汚染源はかつてPFASを製造していたミテーネ社(すでに倒産)。2013年までおよそ50年間PFASを含む水を工場外に排出していました。

事実が発覚したときにはすでに汚染は80を超える町や村に広がっていました。
影響を受けたのはおよそ35万人。
世界最大規模の汚染です。
特に汚染のひどい地域はレッドゾーンと呼ばれ1リットル当たり1214ナノグラムのPFASが検出されています。
レッドゾーンで暮らす住民の血中濃度の平均は約81ng/mLです。
住民たちのデモにより国の全面的な協力の下、ベネト州で大規模な疫学調査が行われ、今年4月にその結果が発表されました。


疫学調査とは集団の健康データを統計的に分析して病気との関連性を探るものです。
過去38年間にわたってレッドゾーンと周辺に住んでいた住民6万人の死亡診断書をもとに死因などを統計的に調べました。
その結果、周辺地域の死亡率に比べてレッドゾーンの死者数は8%ほど多くなっていました。死因で目立ったのは心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患です。想定より12%多く亡くなっていました。
これらの疾患はPFASとの関連が疑われている脂質異常症がリスクを高めます。
大量のPFASに曝露された地域では死亡率が高くなっているのです。
また乳児や胎児への影響もみられました。
ベネト州では10万人のデータが分析され重度の低出生体重児の割合が、周辺地域では平均2.7%。
レッドゾーン地域では3.4%と高くなっています。
母体にPFASがある場合、胎児はどうしてもPFASを共有してしまいます。
母体の中でPFASにさらされてしまうのです。

住民たちは行政とともにPFASを排出した企業の元経営者に対して訴訟をおこしています。
要求しているのは地域の浄化に要する費用です。来年判決が出る予定です。

イタリアでは2023年法的拘束力のある規制を設けました。
欧米各国も規制を強化しています。
米環境保護局(EPA)は2024年4月初めて法的拘束力がある飲み水の基準値を定めました。
代表的な物質PFOAとPFOSについて各1リットルあたり4ナノグラムとしました。
欧州連合(EU)は21年に飲み水に関する指令を改定。
26年1月以降、飲み水1リットルに含まれる計20種類のPFASの合計を100ナノグラムまでに抑えることなどを加盟国に求めました。

日本も規制を強化するべきではないでしょうか?


内閣府の食品安全委員会が今年6月PFASの健康影響評価報告書を公表しましたが、PFASの健康への影響については証拠不十分としています。
理由は日本は疫学調査を重視する欧米とは異なる傾向があるからです。
ヨーロッパ、アメリカそれぞれのリスク評価機関では、最新の疫学研究に基づくデータを重視して、総合的に人の健康を守るという観点から評価しています。
そのときに、欧米では明確な被害が出る前の「予防原則」をベースにしているのです。

現在日本政府は、PFASについて「暫定目標値」から法的拘束力のある基準値に引き上げることを検討しています。

番組では汚泥肥料の一部からPFASが検出されていることを伝えています。
汚泥肥料とは下水処理場にたまる汚泥から作る肥料で、政府が製造を推奨し全国1000カ所以上で作られているものです。
肥料がPFASで汚染されていればそれを使った土壌も汚染され、さらにそこで育った作物も汚染されてしまいます。

知らない間に、地下水や河川、土壌が広範囲で汚染されたら取り返しのつかないことになります。すみやかな調査と対策が求められます。


参考 
NHKスペシャル調査報道新世紀 File8 「追跡“PFAS汚染”」


執筆者、ゆこりん

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