4 心を売る
現在の日本では、就業者のうちの約9割が会社等に雇用されているサラリーマンです。つまりは、自分自身で最上位の、つまり組織集団の方針を決めない人が9割いるという事になります。そんな状態でよく日本はやって来る事ができたと思わないではありません。ですが、サラリーマンはお金を得るには最も簡単なやり方なので仕方ありません。同じ金額を得るには苦労無く、責任無く、無理無く、労力少なめが一番良いのですから。私もサラリーマン、やっていましたからわかります。場合によっては成果が無いどころか、何もしていなくても給料が貰えました。もちろんそれは誰にも秘密ですが。
そんな簡単なやり方で稼げる事について、誰も疑問には思いません。普通ですし、仲間は労働人口の9割もいます。そんな事に誰も疑問は持ちません。サラリーマンは素晴らしい良いシステムです。
それでは、ここでサラリーマンの親分のお言葉を頂戴しましょう。背筋を伸ばして聞いてください。
最初に言っておきますが、私はトヨタを批判、否定したいと考えてはいません。私企業ですから好きにやっていただければけっこうです。私の視点はいつも個人の方に置いていますから、こうした企業がどう言おうと個人の立場で考えていれば良いのです。ただ危険なのは、注意していたとしても、なぜか私たちはこの手の記事を読んであたかも自分個人と企業が同一の論理で動けるような錯覚に堕ちいってしまう事です。この点はしっかりと自覚しておかなければなりません。
さて、豊田氏の言葉の中で最初に気になるのは、従業員の事を「仲間」と呼んでいる事です。工場を閉鎖して仕事を失うことになった「仲間」。仲間とはいったい何でしょうか? あなたは同じ会社で働いている人を仲間と認識していますか? ここを聞き流してしまえばそれで構わない、聞き流せる事かもしれませんがそれはいけません。同じ会社で働いているというだけで、全員が仲間と感じられるものでしょうか? 自分がトヨタの工場で板金のバリ取りをして給料を貰っていたとして、私はこの演題の上にいる豊田氏を仲間と感じられるでしょうか?
工場閉鎖で仕事を失う仲間がいる一方で、個別の事情で辞めていく人も何人もいます。(日本では民間企業の場合平均15%、新卒では約30%が離職) 工場閉鎖では多数が一度に仕事を失いますが、個別の場合にはたった一人でひっそりと辞めます。退職届を書き、最後の給与明細とその年の支給明細を貰って辞めます。その時、「あの人たちは仲間だったのかな?」と考えます。ひっそりと辞める人、つまり私のような者は彼らから見て仲間ではないでしょう。私側から見てあの人たちも仲間ではありません。
次はいきなり記事の4ページ目まで飛んでください。そこが最も重要です。豊田氏はここで社員の皆さんにお願いしています。自分をサラリーマンだとは思わずにクルマ屋だと考えて欲しい、町一番のクルマ屋目指して努力して欲しい。などなど、他にもいろいろお願いしています。
そこで、私は考えます。(もし私がトヨタの従業員だったとして) 私は何で会社から給料を貰う事ができるのだろうかと。私が優れた組み立て工になる努力をするのは良いです。それで継続して給料が入ります。ですが、社長のこうしたお願いを聞き入れて、私が自分の心の中の事を会社の要求に合わせる事で給料を貰うのでしょうか? これまでに、いくつかの企業を転々としてやってきた中でもこうした演説を何度も聞く機会がありました。言っている事は皆違っていますがどれも似ていました。どういうわけか、具体的な指示よりも「あなたの心の中をどうにかせよ」という言葉が多いのです。つまり、皆同じように考えろ、一つの会社の社員なのだから気持ちを同じにすべきだという事です。皆同じように考えろという事は、逆を言えば、違う事は考えるなに繋がります。
確かに一つの会社の中では個々の仕事は連携して進みます。ですが、確信を持って同じ方向を見るのが良いと、今の私には言えません。なぜなら、そうしていても潰れる会社は潰れてしまいました。潰れるまでにはならなくとも経営が苦しくなってライバル会社の資本を受け入れた会社もありました。そして、仲間だと思っていた者たちは酷い手段をもって追い出されましたし、その時にお互いに手を差し伸べる事はありませんでした。それは多くの会社で起きている悲しい現実です。最後は個別の事情であれ、会社の事情であれ、人は単独個人となってばらばらになって散っていくのです。
若い頃、私は入った会社で自然と会社という人格の思考を身に付けました。つまり会社人間になったのです。だからと言って、そこで私は幸せにはなりませんでした。違和感を感じ始めたら最後でした。すぐに仲間は仲間でなくなりました。退職の手続きは簡単で、すぐに終わりました。終わったのは手続きばかりでなくて、会社人間の思考もでした。
後になって考えますと、悪い事ばかりではありません。会社のようなものはこだわってそこに居続けなければならないほど自分自身の人生にとって重要ではないとわかったからです。そしてもう一つ言える事は会社の求める通りの気持ちを抱いたからと言って、そこからは給料は発生しません。働いた分しかお金に変わらないのです。
ここで注意しておいていただきたいのは、私は結果から逆算して考えているという事です。もしあなたが今、会社員であれば私の言っている言葉はおかしいと感じられるかもしれません。あなたが、自分は会社員であっても心までは売っていないというのならそれは良い事です。もしくは自覚していないという事も考えられます。ただ、ひとつ注意しておくべきなのは、会社で過ごす時間は有限であるという事。必ず終わりの時期が来るという事です。その時、売っていた心を会社は返してはくれません。全部クリアされて終わりになるだけです。それでもあなたが医学的に生きていれば人生は続くのです。心をクリアされたままに。
さて、次ですが、同じ記事からもうひとつ気になるところについて書いておきたいと思います。
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