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11 知識は思考の代替品

 これまでは私たちがいかに考えない事に慣らされてきたか、いかに自分自身で思考をしないようにして生きているかを書いてきました。今回はさらにもう一つ、思考しないで済むために使っている方法について書きます。

 もう、タイトルで種明かししてしまっていますが、知識が思考の代替品になる。そして思考力を発揮しないために知識を貯めそれを使っているという事です。

 あなたの会社にも既存の知識だけで長く勤務している人はいませんか? たぶんいます。例えば○○部長はどうでしょうか? △△課長はそんな事ありませんか? 場合によってはあの人に聞けば何でも知っていると言われ、一目置かれている人がそうかもしれません。私の経験では工業系の会社には多いように思います。日本のシステムの中で、工業系の会社では開発や設計等、技術系の部課に長くいる人が組織の長になります。知識が豊富な人が昇進するのです。部下は困った事があると上司に相談に行きますが、知識があるので答える事ができます。ですが、もうその部課長はライン上の仕事をしませんので思考はしません。頼りになるのは知識のみという事になります。残念ですが、睡眠に入るようなものです、高いお給料をもらいながら。

 私が海外の日系企業にいた時もそれがありました。よりによって日本から派遣されてきたその人は開発出身で、しかも現地会社の社長に昇進です。知識はあるのですが、そこにいる間は全く寝ていたようなものでした。結局何もせずに任期を終えて帰国してしまいました。会社は酷いことになりました。

 こういう経験もあります。ある専門的な事を相談しようとコンサルタントを雇った時の事です。そのコンサルタントさんはある事の専門家で、聞けば何でも答えられるほどの知識がありました。ですが、それで全ての問題が解決したかというとその逆です。全く役立たずでした。なぜでしょう? わかりますか? その方に「こんな問題がありますがどうしたら良いですか?」質問しますと、「それはできません」「それは不可能です」という答えが返ってくるだけだからです。こちらとしてはそんな事は検索すればわかるけれど、だからこそそれを乗り越える方法を探していてあなたを雇ったのだと言いたいわけです。ですが、専門家さんは自分に知識がある故に不可能のところで思考が止まってしまってその先を考えないのです。実はよくある事です。

 こうした事は専門家や上司に限りません。私たち誰にもあります。SNSで何か批判している場面はよくありますが、あれも同じ事です。ある事に関して「そんなはずはない!」と言ってそこで終わりです。どこかで浅い知識を先に身につけしまってその知識を盾にして相手を批判します。

 不幸としか言いようがありません。私たちは、教育の中で知識を多く得る事を推奨されてきました。一所懸命いろいろ覚えましたが、その覚える訓練がその後には考えないために利用されてしまうのですから。昔は「知識武装」という言葉がよく言われました。勉強して得るものは知識であり、知っている事がより良いという意味です。知識が思考のための道具であればそれも良かったにですが、知識を思考の代替品にしてしまう事も容易にできてしまう事も考えておかなければなりません。これは本当に要注意事項なのです。



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