100円で無印良品に救われた話
鉛筆キャップやホルダー、エクステンダーと呼ばれる「鉛筆の芯先を保護したり、鉛筆を延長させる」アクセサリーは、常に新しい機能が付加される文房具の中でも、ほとんど進化のない分野かもしれない。鉛筆の進化そのものがほとんどないといえるから当然だ。
だから友達が3Dプリンターを買ったと聞けば、ファンシーさを払拭した理想の樹脂キャップを形にする夢を描いたり、洒落た雑貨店に輸入文房具があると聞けば、舶来の発想による製品がないかと足を運び、画材店を見ればもしやと寄り道をするなど、探し求める長い徘徊を続けることになった。
本当に長いあいだ探していたので、悲しいことに疲れてあきらめ、いわゆる普通の60点製品を使うことにも慣れて久しかった。しかし貧すれば鈍す。あきらめかけていた理想の延長エクステンダーが、身近な無印良品で販売されていることを今まで知らなかったのだ。
無印良品「両端がつかえる鉛筆キャップ」(100円)である。
考えてみれば、気の利いた発想を実現する無印良品は、豊富な文房具を扱うブランドでもあった。見つけてしまえば、あるべきところにあったのだ。
鉛筆の両端を削って使い進める赤青鉛筆は、赤青バランスよく使っているつもりでも、使い進めるうちに積み上がる小さなかたよりが、赤と青、ふた通りのちびた鉛筆をランダムに生み出してしまう。これらをなるべく上手に使いきることが、ホルダーやエクステンダーなど延長アクセサリーの命題になる。
今までは、冒頭の写真のように両端にねじ込みで固定する金属製のもので妥協していた。このようなよく見かける鉛筆キャップや延長エクステンダーなどは、片側だけを削って使う、いわゆる普通の鉛筆を保持する前提のため、差し込まれる部分まで芯が尖っている赤青鉛筆のようなものは、空間が余るため固定が甘くなりがちだ。
ねじ込みの機構に強度を持たせるせいか重さもあり、鉛筆を削るため、ねじ込みを外さなければならない短さまで辿り着いたときの取り外しと再装着にくるくると手間がかかる。この手のものは、平均点を超えているからと消極的に選ぶ、丈夫さだけが特徴のせいぜい60点製品というわけだ。
では100点の製品、無印良品「両端がつかえる鉛筆キャップ」は何が違うのか。少し細かい話をしよう。全長58mmのこの製品は、中心に4mmの穴が空いた厚み1mmの壁の左右に、奥行20mmと奥行37mmの差し込み部分がふたつに分かれ、触れ込み通り「両端がつかえる」ようになっている。
奥行20mm部分には、使用感から類推すると、およそ半分の10mmから奥が「ゆるい先細りテーパー」による固定感を感じる作りになっていて、削らない頭側なら、フラットな断面が左右を分ける壁に着くまで差し込める。鉛筆削りで尖らせた芯側を差し込む場合なら、左右を分ける壁の中心4mmの穴が尖らせた芯側を受け止めて、壁から反対側の37mm部分へ最大およそ8mm程度飛び出すことで固定される仕組みになっている。
反対側の37mm部分はおよそ10mmから奥が「きつい先細りテーパー」になり、そこまで差し込むと固定感を感じる作りになっている。こちらは、絵画用などで用いるような芯だけ極端に尖らせた鉛筆を差し込める奥行を持っている。また、鉛筆削りで尖らせた芯側なら、左右を分ける壁のおよそ10mm手前で固定される。
10mm手前 - 8mm飛び出し = 2mmの距離
つまり両端から尖らせた芯側を差し込んでも、バッファーを含めたおよそ2mmの空間が残り、芯と芯の接触が無いように作られている。58mmというミニマムな数字の中で、綿密な調整がされているのではと感じさせてくれる設計だ。
先細りテーパーの違いは、差し込んだときに飛び出ている部分の長短を使い分けられるということである。鉛筆とキャップの段差に指がかかることを気にする場合などに使い分けるといいだろう。
また、素材の樹脂は季節に関わらず一定の握り心地を約束してくれる。このキャップを用いて、3面おにぎり型の断面をもつ書きかた鉛筆と、六角形断面の赤青鉛筆を混在して使ってみているが、キャップへの差し込みやすさ/抜きやすさ、大事な要素でもある「抜けにくさ」は、鉛筆断面による違いを感じさせず優れている。
手持ちの鉛筆の種類では、片側に長い鉛筆、反対側に短い鉛筆を差し込んでも、重心は全長の半分の中央およそ±5mmになった。アンバランスな見た目でも、破綻しないバランスは取れていると感じるが、これは握る位置など鉛筆の持ち方の個人差が大きいかもしれない。
こうして、鉛筆の残り長さおよそ24mm前後までこの製品を利用して使い進めることができた。最高である。
まとめると、この両端をつかえるキャップは、差し込み深さの視認性に優れた半透明であり、壁中央の穴や、異なる機能のふたつの差し込み口によって、両端を削って使う赤青鉛筆のパートナーとして格段に優れた特徴を持っている。おまけに安価で軽量、入手も容易と、工業製品において望みうる優れた条件のすべてを兼ね備えている。開発者の握手会があったら並んで直接お礼を述べたいくらいだ。
ちびた鉛筆を捨てられず、【お疲れさまボトル】と呼んでいる容器に保管し続けていたのは、まだ使える残り長さでありながら、使う手間がしんどいという、延長のための文房具に由来する後ろめたい気持ちを、とりあえず保留していたからだった。
今はこの無印良品の製品を介して、過去のちびた赤青鉛筆たちと、もう一度仕事ができる喜びを噛み締めている。線を引き、空間を埋め、ささやかな思いつきを記して、それらはいつかの考えを助ける断片のような存在として現実に残る。
余力を残していた鉛筆たちはボトルより救い出された。それにより、どこか消化できずにいた自分の後ろめたい気持ちも、同時に救い出されたのだ。