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ありがとう『虎に翼』『カーネーション』!極私的2024年朝ドラ総括
今年中にあと1本映画を見たいなあ・・・と思っていたのだが、仕事が1日ずれ込んだことにより、それも難しくなってしまった。でも、今年はなんだかんだずいぶん映像コンテンツを楽しんだ感じがあって、そのひとつは朝ドラで『虎に翼』を見てたからなんだなあ・・・と思ったので、最後にそのはなしを書きたいと思います。
『虎に翼』は面白かったよね!
とにかく盛り上がっていた『虎に翼』。面白かったよね!緻密な脚本、味わい深い人物造形。登場人物がみんな「生きてる!」って感じだった。
放送終了後、次の『おむすび』の波に乗れなかった私は、録画しておいた『虎に翼』を第1回から見直していたんだけど、再発見がいっぱい。
優三さんは、ちゃんと第1回から「寅ちゃんが大好き」という芝居をしているし、花江ちゃんのばあや?の稲さんが「じょんのび、じょんのび」と直明ちゃんをあやしているし、あとから見直すと、「ああ、そういうことだったのか・・・」と思うシーンがいっぱいだ。この深さよ。
とはいえ、そんなすばらしき『虎に翼』も、私はちょっと心離れるかな、という時期があったのです。戦後、寅ちゃんが裁判官となり、そりゃ紆余曲折はあるんだけど、お偉いさんたちに気に入られて順調に出世を重ね、イケメン判事と恋に落ちるに至っては、なんか私はもうねー、遠い世界の話になってしまったなあ・・・と思ったよ。
職場には、ひとりや二人、「なんで?」という意地悪を仕掛けてくる人がいるものだけど(私だけですかね?)、そういう人が全然いない。桂場さん、多岐川さん、久藤さん、おじさまたちみんなにかわいがられて、この時代だから同僚に女性はいないか極端に少ないんだろうけど、それにしてもなんだかね。さすが主人公ですね、スゴイデスネーってなんか棒読みになってしまいますよ感想が。
しかし!我々には、山田よねさんがいたのだった。裕福で理解のある両親と家族に囲まれて育った寅ちゃんとは違い、貧農の家庭から抜け出し、自分で働き、道を切り開いてきたよねさん。
戦後、40歳を過ぎていたんじゃないかと思うが、寅ちゃんが行け行けGOGOになってるときに、司法試験に再挑戦し、突破し、じゃんけんに勝って「山田轟法律事務所」の看板を手に入れたよねさん。後半はこの人が、私にとっての主人公になった。
私にとって主人公は(多くの人にとってそうだろうと思うのだが)、「すでに何者かになりきった人」ではなく「何者かになろうとして苦闘する人」なんだよな。
原爆裁判を闘い、尊属殺人裁判を闘い、自ら壁に書き殴った憲法第14条の精神を地でいこうと仏頂面で苦闘するよねさんはカッコよかった。年とキャリアを重ねても全然いい人にならず、ずっと無愛想でつっけんどんなのもよかった。そういう人もいなくては。人間、いくら年をとったって、そうそう丸くなってはいられませんよ。
寅ちゃんがいて、よねさんもいて、あと梅子さんもヒャンちゃんも、涼子さまもいて、よかったなあ・・・と思える『虎に翼』であった。
『カーネーション』の重厚さと華やかさ
かくして『虎に翼』との蜜月が去り、一応義理立てして(誰に?)『おむすび』も見たわけだが2分で脱落。私はこれからどうしたらいいのだろうか・・・と思ってたところへ、『カーネーション』の再放送が始まったのでした。ばんざい!歓喜!
『カーネーション』は初演・・・じゃないか、最初の放映当時にも見たが、スゴいなあ・・・と思ったのは主人公がちゃんと失敗するところなのだ。それもおばあちゃまが大事にしている花瓶を割ってしまったとかいう可愛らしいやつではない。糸ちゃんは、ばりばり元気、やる気もあり、才覚もあり、常に前向きであるが故に、前を向けない状態にある人たちをえらく傷つけてしまうんですよねえ・・・。借金まみれのになった幼なじみの奈津とか。徴兵され復員した同じく幼なじみの勘助とか。
雨が降る中、勘助のお母ちゃんが般若の形相で乗り込んでくるところは、初回も今回も、何度見てもすごかった。そしてそれだけ強くねじ込まれてもしかたないことを、確かに糸子はしたのだ。
そして、主人公だけではない、脇役の人たちの演技がホントに素晴らしい。再び徴兵される前、こっそり糸子の様子を見に来る勘助。勘助の兄は町内きっての二枚目であるという設定で、勘助は割とコメディリリーフ的役どころなのだが、ファニーフェイスなこの役者さんが真顔になるとかなりの男前で、ちゃんと兄役の役者さんと似ているというのも、今回よくわかった。
ただ、日頃おちゃらけている人が真顔になったら、その先ろくなことはないのである。糸子を見つめ、ひとり汽車に乗る勘助の顔。それは、悲しみ、絶望、無力感、せつなさ、はかなさ、覚悟。そういうものが全部詰まっている悲しい悲しい顔だ。
この回含め、『カーネーション』の戦争中を描いた回はどれも誠に重厚であって、特に終戦の日の回などは、15分とは思えない。2時間くらいの映画を見たような気がした。
もひとつ、私の印象に深く残っているのは、主人公の母を演じた麻生祐未である。『カーネーション』を見るまでこんなにいい役者さんだとは思っていなかった。失礼。謝るので許してください。
糸子の母の千代さんは、神戸の大金持ちのお嬢さん。彼女にとっては、日々の生活や娘たちも副産物みたいなものであって、とにかく夫が大好きで、彼に惚れぬき、愛し抜くことが人生だったのだろう。と言うととんだ色ぼけみたいですが、そうじゃないのよ。
この夫がまたえらい甲斐性なしで、そんな大店のいとさんを嫁にもらっておきながら、必死で働くでもなし、酒に酔っては怒鳴りつけるようなとんでもない男なのだ。でもいいのだろう、とにかく千代さんは夫が大好き。
夫が自分の商売をやめ、娘に店を譲るとき。娘名義のオハラ洋装店の看板が掲げられるのを見ているときの、千代さんの大きな目。これ以上もう見開けないくらい、ぱっちりと見開かれた目が潤んでいる。あの目が、あの人の人生の全てなんだろう。
どんなにダメな人だっていていいし、その人のことをとにかく愛してるんだ、という人もいていいのだ。
バリバリ働く甲斐性のある娘より、しょうもない、この人について行ってどうするんだよという夫をひたすら愛する。そういう人生もあっていい。その愚かさもまた、美しさである。
『カーネーション』は厚みがあり、かつ華やかであって、なんかグランドピアノみたいだなあ・・・と思うのでした。
『カムカムエブリバディ』も外せない
さて、こう来たらカムカムですよ。こちらも再放送してますね。
『カーネーション』とカムカムを同時進行で追いかけることになったから、わたしゃ『虎に翼』ロスなんて言ってる場合じゃなくなった。めっぽう忙しくなった。
このドラマを見てるととにかくおはぎが食べたくなるよね。
朝ドラ主人公にもいろいろなタイプがいるけれども、安子ちゃんは非常にトラディショナルなのではないだろうか。
家族思いで優しく、けなげ。夢を聞かれて「自転車に乗れるようになりたい」と答える素直さ。
戦前の、というか、ほんの一昔前まで日本の女の子はこうだったんじゃないだろうか。寅ちゃんや糸子みたいなのは少数派だろうね。
そして、カムカムはもうねー、稔さんです。ミノ↑ルさんね。「ノ」で上がるんだよね。
安子と稔さんの恋の顛末がたまらない。「なんで泣いてるん?」なんて聞かれたたらどうする、もう。言われた瞬間に号泣しちゃうよね。キャー!!あなたが素敵すぎるからですよ!!
そしてこのドラマも、安子ちゃんの両親や祖父母をはじめ、周りの人たちが素晴らしいんだよなあ。勇ちゃんもいいよね。稔さんの両親も・・・。優しい人がいっぱいで、なんか心洗われるなあ・・・と思うんですよ。
あと、英語学習のやる気が出るのも、このドラマのいいところ。
朝ドラ主人公は複数がよいのでは
で、全く大きなお世話なんですけど。
ご存じの通り、朝ドラは1回あたりは15分と短いが、月~金の週5回、半年の長丁場です。
このあたりを考えますと、やはり話の複々線化といいますか、視聴者の心を捉える人物が、主人公以外にももう何人かいるといいんじゃないかと思えてきました。
『虎に翼』は寅ちゃんとよねさんで両A面という感じですし(この例え伝わりますかね)、『カーネーション』は糸子と奈津がいる。最終回、奈津とおぼしき老女が朝ドラを見るところ、ああいう入れ子構造は大好き。しびれます。『カムカムエブリバディ』は、構造的にも親子三代、3人の主人公がいるわけだしね。『あまちゃん』も好きな作品ですが、アキちゃんとユイちゃんの2枚看板だったなあ。
毎日少しずつ、長期間接する、と考えると、隣の部署の人みたいなものか。ひとりしかいないよりは、何人かいた方が、「あの部署ってこういう感じなんだなあ」とわかるもんね。味わいが深くなると言うか。ああ、それにしてもやっぱりおはぎが食べたくなりますね。
おまけ
そういえば・・・と思って、みんなが生まれた年を調べてみました。
『虎に翼』の寅ちゃんのモデル、三淵嘉子は、1914年(大正3年)生まれ。
『カーネーション』の糸子のモデル、小篠 綾子は1913年(大正2年)生まれ。
『カムカムエブリバディ』の安子は架空の人物だけれども、10年年下って1925年(大正14年)生まれ。
確かに、寅ちゃんや糸子は、戦争中はまさに現役バリバリ、働き世代だったけれども、安子ちゃんはひとまわり若くて、これから結婚という年齢なんだなあ。
ついでに『ブギウギ』の主人公、福来スズ子のモデルとなった笠置シズ子は1914年(大正3年)生まれでした。寅ちゃんとスズちゃんは同い年なんだね。
どの主人公も、自分が置かれた場所で、自分の人生を必死に生きた。タイプは違うけれども、その誠実さ見る人の胸を打つんだろうなあ。
まもなく新年を迎えますけれども、自分も、あんまりあれこれ考えすぎないで、ひとつひとつ、ちゃんとやっていこうと思うことでした。
仕事などは転職2年目で、やはりまだまだ「は?」ってことが時折あるんだけど(そのせいで正月休みに入るのが1日遅れたのだ)、『ブギウギ』の礼子さんがスズちゃんに言った「自分がいる場所を好きになってね」という言葉を胸に頑張ろうと思う自分でした。
さて、長い文章を読んでくださってありがとう。よき年になりますように。私はおはぎを買いに行ってきます。
※各氏の生年月日はWikipediaより