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【掌編小説】魔法(378文字)
「わたし、魔法がつかえるんだ。」
少女は何にでも七味をかける、牛丼、豚汁。
「だから平気、魔法があれば平気。」
牛丼にかけられた七味の量と薄汚れた制服のシャツが切ない。
「魔法使えるのすごいね。」
「おばさん信じてないでしょう。」
手負いの母猫のような眼差しで見られると声がつまる。
「魔法を受け入れるキャパないの、ごめんね。」
と素直に謝る。
「みんな信じないから慣れてる。」
うなだれる少女が七味でむせないか、心配になって伺っているとふと目が合う。
魔法で何ができるのか興味がでてきたが、これ以上尋ねたらさらに傷つけるような気がした。
「お家には帰ってるの?」
「帰らない。魔法で独りでも行きていけるから。
牛丼ゴチになりました。」
軽やかに店から出てそのまま飛んでいきそうな
少女は魔法を使って見ず知らずのわたしに
牛丼を奢らせたのかもしれない、豚汁も。
そんな考えが去来し頭を振った。