記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

読書の記録(57)『翼の翼』朝比奈あすか 光文社

手にしたきっかけ

市内の学校図書館司書が集まる研修会で他校の司書さんが取り上げられていて気になった。昨年、長男の高校進学の時にやきもきしたことも思い出した。本の帯に「なぜ我が子のことになると、こんないも苦しいの?」とある。確かに教員をしていたときに他所の子のことは客観的に見られていた。いざ我が子のこととなると、いろいろ不安になったなあと思い出した。

心に残ったところ

私の中ではこの本はイヤミスの部類かな?後味がすっきりしないというか、ざわざわすると言うか…。noteに残そうか迷ったんだけど、それだけ心をえぐられるというか掻き立てられたので、そのことは書き残しておこうかと思った。

翼が追い詰められていく様子が辛くて、途中で読むのを一旦辞めて、他の本に逃げた。まだ3分の1ぐらいしか読んでないし、もう読むのをやめようかなあと思うぐらいしんどかった。

かつて国立の中学校で1年生を担任していたときの生徒を思い出した。朝、教室のロッカーのところでシクシク泣いていた。多分2学期の始め頃だったと記憶している。その生徒の話をよく聞くと、「小学校の時に、勉強ができて、楽しくて、なんとなく塾に入った。そこでもよくできて、誉められて嬉しかった。塾の中でも成績がよかったから、この学校を受験することになった。でも別に地元の公立の中学校でもよかった。特別にこの学校に来たいわけでもなかった」と泣いた。

もちろん、その子は勉強もよくできたし、友達からも慕われていたし、学校生活で何かにつまづいているわけでもなかった。でも、「自分より何でもできるすごい人がたくさんいる」と泣いている姿は切なかった。その子は2~3日ほど、学校を休んだけれど、その後自信を取り戻して、元気に通ってくれた。不適応を起こして、自信をなくして、不安になった一時的な落ち込みだったんだとは思うけれど、頑張って合格したのに、こんなに悲しい思いをするのってなんなの?と思った。

『翼の翼』は最後は光が見えるというか、希望が持てる終わりだった。そこに至るまでの母親と父親の狂気の部分がとにかく長くて辛かった。最後の方で先に目が覚めたかと思った母親がママ友と語るシーンで、感情を爆発させるシーンもきつかった。ようやく翼が自分の意思も持てないぐらいに何も考えられなくなっている状態にまで追い詰められていると気づくところも、読んでいて苦しくなった。

読んでいると、高専が出てきた。途中はさらりと出てきたので伏線なのかな?と思っていたら、ママ友たちに翼が脱落したと告げる場面で再び出てきた。次男が小学6年で中学受験を辞め、地元の公立の中学校に進学した楠田は「塾を一日休むぐらいで「脱落」という言葉を使うなんて」と言う。親子で、すったもんだの合った末に中学受験を辞めた次男は兄が高専に通っているのを見て、同じところを目指すという。『高専』がお受験の先にある進学校なのではなく、自分が勉強したいことを勉強できる学校であるという位置づけが対照的で象徴的だと思った。いわゆる御三家とか偏差値を是とするのか、本人が学びたいことを是とするのか、という本質的なことを問われている気がした。

まとめ

のもきょうさんのVoicy『東南アジアから未来が見えるラジオ』を聞くようになって、東京の中学受験の様子なんかを知るようになった。少子化で先細りが見えている教育業界隈も必死だし、いろいろ情報が錯綜する中で子育てする親も必死なんだと思った。

ただ、自分が嫌だったこと、自分がやらないこと、自分にはできないこと、自分はやってこなかったことを子どもにさせるのってどうなんだろう。「あなたのためを思って…」というのは一歩間違えれば教育虐待にもなるし、親のエゴだなあと思った。。

子どもが本当に勉強したいと思えることを、一緒に探して一緒に見つける伴走者でありたいと思う。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?