
読書の記録(64)『ちっちゃな科学 好奇心がおおきくなる読書&教育論』かこさとし 福岡伸一 中公新書ラクレ
手にしたきっかけ
先日、『最後の講義 生物学者 福岡伸一』を観た。
私たちの体の細胞は日々入れ替わっているのに、同じ人間であり続けるのって、当たり前だけど不思議。わかりやすく話してくださる福岡先生のお話はとても興味深い。高級車1台分の予算を費やして経過を追い続けたマウスの例も興味深かった。
4年生が理科で体のしくみを勉強するのに合わせて、図書の時間に『ほねはおれますくだけます』を読み聞かせた。
お二人の話や作品に触れたこともあり、図書館で書架をぐるっと見ていたときに、この本が飛び込んできた。
心に残ったところ
以前に読んだ『もりあがれ!タイダーン ヨシタケシンスケ対談集』を思い出した。
ヨシタケシンスケさんもそうだし、鈴木のりたけさんもかこさとしさんに影響を受けたことが書かれていた。『カラスのパンやさん』や『かわ』の素晴らしさが解説されていて、絵本作家さんの視点を知り、なるほどそういうことか…と、だから子どもたちの心を掴むし、何度でも読み返したくなるし、隅々まで絵を見てしまうのか…、とすごく納得した。大人になって絵本を読んでワクワクするのは、見ているつもりで見えていないものを見せてもらったり、知っているはずのことを本当に知っている?と問われている感じがするからなのかと腑に落ちた。
顕微鏡でのぞくようなミクロの視点と、空高くから地上を眺めるようなマクロの視点。理系、文系に簡単に分けられない世界の仕組み。それを子どもにわかるように、絵本という形で伝えてくれている。だから、かこさとしさんの絵本は何回読んでも発見がある。新たに教わった知識とつながるとさらに深いことを知りたい!と知的好奇心をかきたてられるのだと思った。
冒頭『人生で大事なことは、昆虫から学んだ』にある、福岡伸一さんの傷ひとつない蝶の標本を作る過程に衝撃を受けた。そうか、そうしないと完璧な標本にはならないのか、というのが急に理解できた。ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』に、エーミールがクジャクヤママユをさなぎからかえしたという描写があった。それなのに、エーミールの蝶への情熱や、費やしている時間や、美しいものを完璧な形で残したい、という思いまでは理解が至っていなかった。幼虫にえさとなる新鮮な葉をせっせと与えて、さなぎになるまで注意深く飼育し、羽化したらその命を絶って完璧な標本にする。小学生が嬉々としてとして教室でアゲハチョウを幼虫から育てていて、その姿をここ数年目の当たりにしていた。子どもたちは蝶になると自然に返していたので、完璧な蝶を育てるという思いで飼育するという視点がすっぽり抜け落ちていた。福岡さんとエーミールが同時代に同じ地域にいたら、きっと心から通じ合える友達になれただろうなあと思う。お互いの宝物を讃え合って、情報を交換し合って、より高みを目指したんだろうなあと、そんなことを考えた。
蝶を美しいと思う気持ちは文系とか理系とかで分けられない。世界を知りたいという思いも分けられない。探究したいという気持ちも分けられない。子どもたちが好きなことに出会う入り口に、絵本があるとことをなんて素敵なんだろうと思った。体験や絵本から始まった興味を深める場所として図書館があることをもっともっと知ってもらいたいと思った。
まとめ
昨年、いろいろな高校の進路説明会に行った。1年の頃から、定期的に実力テストを行い、2年生からは文系・理系に分かれて大学に向けての受験対策をしますということを売りにしている学校が多かった。一方、理科は生物・科学・物理・地学、4科目全てを学習しますという学校もあった。高校に入ってたった1年やそこらで文系・理系に分かれるのがいいのか?受験を最優先に進学先を決めるのがいいのか?などと考え出したら、進路を考えるのってすごく難しいなあと思った。
voicyで、のもきょうさんや平川理恵さんの放送を聞いていて、本当の学力って何だろう、生きる力って何だろう、公教育の意味は、などと最近グルグル考えている。
本当に勉強がやりたい子は進学して学べばいい。勉強はそこまで好きでなくて他にやりたいことがあるのなら、それをとことんまで追究させてやりたい。だけど、そこまで好きなことがなかったら? そこそこ勉強ができてなんとなく進学塾に行き始めちゃったら?『翼の翼』みたいなことになっちゃうこともある?と思うとなかなか悩ましい。
とがった子はその道を応援すればいい。『博士ちゃん』みたいな子は少ないから『博士ちゃん』というくくりが生まれるのであって、大半は普通の子だ。『博士ちゃん』みんながみんな好きなことを仕事にするのではないだろうし、趣味として時間をかけて探究していく子もいるだろう。
何が幸せなんだろう。正解がないから、いろいろな本を読んだり、話を聞いたりして、いろいろと考え続けている。