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英語発音習得の秘密:「臨界期」を過ぎるともう遅いのか(3)
今日でこのシリーズも最後になります。
最後は、臨界期の賛成・反対両派がある中、外国語の音声習得に「成功した学習者」についてフォーカスを当てます。
仮に臨界期が存在するとして、その時期を過ぎてしまい、音声習得を不利にするような条件がそろっているにも関わらず、native-likeあるいはそれに近い訛りの少ない音声を作り出すことに成功する者も現実にいます。
そういった学習者に見られる年齢以外の要因を考えてみましょう。
Moyerは、年齢要因(age of immersion)は確かに顕著ではあるが、その他結果に影響を与える変数として、動機(motivation)と学習時のフィードバック(the presence of both segmental and suprasegmental feedback during the learning process) をあげています。
動機については、やはり仕事と直接かかわりがある場合は、音声習得の強い動機づけになることは容易に納得できます。目標言語が話されている社会に移住し、職に就いて生計を立てていかなければならない移民の例を見ても、習得そのものが死活問題に直結するからです。
その他、単に単語の発音だけでなく、イントネーション、リズム、ピッチといったプロソディーのトレーニングを受け、それに対してのフィードバックを受けていることも重要な要因であることがわかります。
Bongaeretsは、オランダ人の実証研究から得られた結果を基に、音声習得に成功した学習者について次のように述べています。
As the description of the participants in our studies showed, ……(略)…..They were all highly motivated individuals who reported that it was very important to them to be able to speak English or French without a Dutch accent, and they all received a large amount of input from native speakers from the time they entered the university around the age of 18.
そして、その要因を以下のように述べ、3つにまとめています。
……the combination of three factors: high motivation, continued access to massive L2 input, and intensive training in the perception and production of L2 speech sounds.
①高いモチベーション
②第二言語インプットへの継続的なアクセス
③第二言語の音声知覚と発音における集中的な訓練
また、Ioupは、英語母語話者で最初にアラビア語に接触したのが20代前半であったにもかかわらず、productionとperception両方において、その質がネィティヴあるいはそれにほとんど近い2名の女性の例を紹介しています。この2名はアラビア人と結婚し、エジプトで生活しました。
そして、その成功要因として
①高い動機
②目標言語が日常使用されている環境
③文形式の意識的な気づき
の3点があると。
②はtheir exposure to a naturalistic environmentとされ、これは英語で言えばESL(English as a Second Language)の環境に相当するでしょう。③の文形式の意識的な気づき、とは言語が使用される状況で、意味、形式、機能を通じ、学習者自らが“気づき(noticing)”を行うフォーカス・オン・フォームのアプローチに相当するものではないかと推察されます。
それではアジア系の言語の場合はどうなのでしょうか。
韓国語、中国語を母語とする日本語学習者について調査した研究では、フォローアップ・インタビューの結果、
1)音声的側面に焦点を当て、メタ言語として日本語音韻を学習していること
2)発音に対する意識化がなされていること
3)豊富なリソース(例:テレビ、ラジオ、ドラマ)を活用していること
4)音声化した発音学習方法(例:シャドーイング、音読)を実践し、
継続していること
5)学習初期にインプット洪水を経験していること
6)音声に関心があり、自ら高い到達目標を設定していること
などがその特徴として浮かび上がってきたといいます (戸田)。
そして、臨界期以降に音韻習得に成功した学習者には、年齢の他に、ある程度共通の要因があることがわかります。それらは、強い動機(strong motivation)、適切なフィードバック(appropriate feedback)、インプット量(massive L2 input)、プロソディーに特化した訓練(suprasegmental training)、短期集中訓練(intensive training) などです。
日本で、ネィテイヴライクな発音を効果的に身につけたい人は、こういう側面を念頭に置いてトレーニングを積むと効果が望めるかもしれません。
そこで私の独断と偏見で、日本国内だけで、外国語である英語の発音習得に成功した日本人を2名選出しました。帰国子女でもなければ、海外留学経験も全くない純粋な日本生まれ、日本育ちで、小、中、高と日本で普通の教育を受けた人です。いったいこの2名はいつ何を使ってどんな風に学習したのか。その具体的な学習方法を紹介しながら成功の秘訣を詳細に分析してみました。
それが、
です。音声を使っての具体的なレッスンも入れてみましたので、興味のある方はどうぞ。
さて、これで「臨界期」についてのお堅い話は終了にしたいと思います。長い間お付き合いいただきありがとうございました。
参考文献
Ioup, G. (1983). A Critical Period for Second Language Acquisition: Evidence from Brain and Behavior. Language Learning.
Moyer, A. (1999). The Effects of Age on the Acquisition of Second Language Phonology: A Review of the Literature. Second Language Research.
戸田 彰司.(1998). 「第二言語としての日本語音声習得における発音の誤り分析 ― 韓国語と中国語話者を対象に」『日本語教育研究』