発音習得のゴールデンタイムとは?「臨界期」の神話を超えて!
洋楽や映画などが続いたので、ここではちょっと真面目な話でもしましょう。発音の「臨界期」についてです。
言葉の臨界期については、1959年 Penfieldという人が神経科医としての経験より「9歳以降、人間の脳は柔軟さをどんどん失い、言葉の学習に向かなくなる」と述べたことがはじまりです。
このある年齢を過ぎると発音や文法にアクセントやエラーが残るというその「ある年齢」を「臨界期」(critical period)あるいは「敏感期」(sensitive period)と呼んでいます。
また、1967年Lennebergは「思春期以降、新たな言語の習得は幼少期に比べきわめて困難となり、単に目的言語に接するだけで自動的に習得されることはなく、外国語の習得には大変な困難が伴い、アクセントは容易に克服できない」と述べています。
このように元々は、第一言語すなわち母語についてでしたが、多くの言語学者たちにより、外国語教育の視点から移民や外国人の第2言語獲得に関する研究調査も行われるようになりました。Lennenbergの主張は当初は支持されましたが、脳と言葉の複雑な関係が解明されていくにつれて臨界期の証明は想定されていたほど単純ではないことがわかってきました。
発音に対する臨界期の研究
Oyamaは米国移民を対象に研究した結果、入国年齢がアクセントの有無と高い相関関係を持つが、滞在年数はほとんど相関がないことがわかったと述べています。
また、11歳までに米国に移民した被験者は、英語母語話者に匹敵する発音、聞き取り能力を身につけているが、12歳を超えるとその差は明らかとなり、さらに16歳以降はネイティヴ話者との差は顕著になると報告しました。
Tahtaは英国に2年以上暮らしている移民約100名を対象にリサーチを行いました。アクセントに関してはやはり入国年齢がもっとも大きな要因となり、6歳までに英語学習を開始(渡英)しているものは全員アクセントなしという結果が出ました。7歳から9歳までに渡英したものはアクセントなしの確立が比較的高いが、9歳から11歳のグループの被験者ではアクセント有無の確率は五分五分であり、12歳以降のグループになると、アクセントなしの判定はほとんど出ませんでした。
上記のような研究結果より、発音には特に「臨界期」の存在が顕著であるとされるようになりました。アクセントのない外国語の発音の習得のためには、第2言語開始年齢は早ければ早いほどよいとされています。これらの研究の対象となっている被験者のほとんどは、移民や長期滞在の外国人の子供であり、第2言語を教室内で「習得」したというより、むしろ学校やコミュニティーを中心とした日常生活を通じて、自然に「獲得」したと考えられます。
ということで、言語習得には「臨界期」仮説という、一定の年齢を超えてしまうと、ネイティヴレベルの習得はできないという仮説があります。特に音声については、6歳頃までに学習を開始した場合はネイティヴレベルの発音になるけれども、12歳を過ぎると何らかの形で外国語のアクセントが残ってしまうという仮説です。
ただ、何となく直感的にみんなそう思って信じていますが、まだ立証はされていません。
実は「臨界期を過ぎても完全に訛りを消し去ることはできないまでもネイティヴレベル(ニアネイティヴ)の発音習得は可能である」という調査結果もあります。例えば、日本語の学習を始めたのが18歳、日本に初めて来たのが22歳で、ネイティヴレベルの発音習得を達成した人がいます。調査を進める中で、こういう人が複数見つかりました。
彼らにインタビューをしてみると、それぞれ独自に学習の工夫をしています。特に、高い習得度を達成している人には、学習方法に共通性があります。テレビ、ラジオ、映画など、リソースを最大限に活用する。そして、例えばドラマや映画を見ながら、その役柄になりきったつもりで、聴こえた台詞をすぐにリピートする。聴いた言葉をすぐに繰り返すことを「シャドウイング」と言いますが、シャドウイングの実践が、語学学習の成功者には、特に共通してみられました。
なかには、いつも日本人が喋るのを見ながらクチパクをしながら小さな声で真似ているために、「気持ちが悪い」と言われたという人もいました。この人の場合、いつもいつもやっていたために、クチパクがすっかり日常のクセになってしまっていた。また、いつも鏡に向かって、ドラマの主人公などの役になりきって練習している人もいました。
これは日本語を勉強している人のケースですが、「ワタシが日本に住む理由」というテレビ東京でやっている番組に登場するさまざまな国籍(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアetc)の英語母語話者たちを見ていると、皆、臨界期をとっくに超えた20歳以降に日本にやってきているにもかかわらず、それはそれは見事な日本語発音です。ニアネイティヴどころかまるで日本で生まれ育ったかのような人も今やめずらしくありません。
外国語の音声習得に成功した人たちへのインタビューで分かったことですが、自然な会話、自然な文脈で出てきたものを、そのまま繰り返し発音して練習していました。高い習得度を達成した学習者は、難しくても意味が分からなくてもいいから、とにかく耳に入った音声を自分でも発音していたのです。
この「声だし」が、日本人英語学習者には決定的に欠けています。文字で見て「理解」。そこで終わっています。声に出したとしても数回程度。実際の場で無意識に発音「できる」まで昇華させていないのです。
「知識」から「運用」。つまり「わかる」→「できる」になっていない。この「→」が「声だし」というわけです。1日を振り返ってみてください。どれくらい毎日「声だし」していますか?
これが発音習得と深くかかわっているのですね。お気に入りの発音練習素材を使って毎日「声だし」してみませんか?3か月もやれば見違えるほど違ってきますよ。
素材については、こんな風に話したい、この人みたいにしゃべれるようになりたいというモデルを見つけて(別に英語ネィテイヴである必要はありません)、その人を一途に追っかけるというのも十分ありです。同じ日本人で英語上級者になった人であれば親近感も沸くし、具体的な学習方法も参考になるのでお勧めです。
なお、英語の音声ルールに則った聞きやすいクリアーな発音を身につけることのメリットについては、以下の記事(有料から無料に変更しました)でも触れています。関心があればどうぞ。