夜露に湿る靴のゆくえ
窓から朝の光が 新しい人をつれてくる
え?靴を片方だけ盗まれた?
えぇ?こちらには落ちてませんよ。
かっこう かっこう
四辺の静かさにこだまして聞こえる翠の棲む沢
バスから母親が 小さな息子を手まねきする
あ!靴が片方しか履いてないわよ?
あぁ!どこに落としたのかしら。
わんわん わんわん
嫌ったらしいほどのさえざえした赤のカンナ
sacaiの彼氏が cカールの睫毛を除く
ね?靴を片方脱いで指先で脛をつく
ねぇ?ここに落としてっていいよね
フィリリリ フィリリリ
草雲雀 一人芝居の空虚にちぎれた白い雲
フィリリリのリズムで歩くよ。
ここ何日も歩いている。
どこにいった片方の靴─
「どうしたんですか?」
白いナースシューズが映ずる
『ナース 善き時世からぬ 私に触れる』
ご近所ナースか学校ナースかお友達ナースか
おせっかいbbaか..
コレコレ、なんちゅうこという。
結束感一体感と相反する退屈さ
白白さを同時に抱きつつ嫌悪感
いや、潮泡の中に夜光虫が光るのを見た
月のない夜 しずかな渚の波 潮泡ほのかに光る
砂浜にあがる光の散乱
宝石 砕けた潮泡 闇にちりぢりばらばら
頭の芯にあるのは
『帰りの靴をどうしよう』
白いナースシューズと点滴
「その靴、片方貸してくれませんか?」
ソルデム3AG輸液ではなくて、
チルチルとミチルならどうするか?
sacaiよりgarçon好きか、
NIKEかNewBalanceを選ぶのか、
旦那より彼氏に電話するのか、
深く大きくしん!とすれば
あの子たちなら裸足で歩くのだわ、きっと。
よし。裸足になろう。
だが、裸足になっていたのは白いナース。
白いナースシューズを既に脱ぎ去っていた。
「両方 貸すから履いてきなさい」
しゃがみ込んだナースは
私の右足だけにある黒いラメ入りピンヒールを両手で丁寧に脱がしながら言った。そして、
「このヒール、夜になったら光るの?」
目をキラキラさせる白いナース。
「うん、まぁ、、」(どうかな?)
「ねぇ?!私にくれない?」
「えぇ?!片方しかないよ?」
返事を待たずに白いナースは片方だけ
黒いラメ入りのピンヒールを履き、
消えてった。
ヒールのある片足とない片足の交差。
ぎくしゃくしながら見送る後ろ両足。
とっくに夜なものでまるで片足夜光虫。
本当に光る靴なんだ。
私は白いナースシューズを履いてみた。
ソルデム3AG輸液を片手に持ちながら。
ナースも悪くないな。
空には下弦の月と星。
繁みからニャアと鳴き声
早すぎる生産性と範囲攻撃を持つ強力な量産アタッカー。ネコジェンヌである。
私は、あっ!と声をあげた。
ネコパーフェクトに進化したのだ。
私は片方のピンヒールの在処を思い出したのである。
喫茶店でsacaiの彼氏と喧嘩して、片方のピンヒールを彼のオデコへと投げつけてやったのだった。
私は急ぐ。彼の家へ急ぐ。謝るためではない。
彼が片方のピンヒールを持ち帰っているはずだから。あぁ、ナースシューズってランニングには向いてないや。痛いな、それでも走る。夏家事かな?サイレンの音が微かに聞こえてくる。
急がなきゃ。
片方の夜光虫ナースにもう片方のピンヒールを履かしてあげたい。彼女の光る両足を見てみたい。きっと最高に喜ぶし美しいはず。歩き方なら私が教える。ピンヒールの正しい投げ方だって。
代わりに、
ソルデム3AG輸液をどうするか聞かなければ。
白いナースシューズの洗い方もね。
だってすでに土まみれだもの。
走り過ぎたから。
「あ、ちょっと待って。
土まみれのナースシューズを背面から投げつけるってのもいいかもね?」
私の後を必死に着いてくるネコに聞いてみたが返事はなかった。