
【書籍紹介】なぜ倒産 令和粉飾編。破綻18社に学ぶ失敗の法則
本書は、1984年創刊の企業経営者向け月刊誌「日経トップリーダー」の人気企画を書籍化したものです。輝く時代を経て、転落、倒産した18社の事例を経営者のインタビューを通じて紹介しています。
幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。
ロシアの小説家、トルストイの名作アンナ・カレーニナからの一節を引用し、企業経営に関しては、むしろ逆なのではないか。成功している企業の成功の形はそれぞれに異なり、バラエティー豊かであるのに対して、企業が駄目になるときには、お決まりのパターンがあるようだという問題提起から本書は始まります。
駄目になっていく会社というのは驚くほど似ています。30年にわたって倒産を取材していると、いくつかの類型があることにおのずと気づかされます。そんな失敗の定石を学べば、最悪の事態だけは避けられるはず。そういう絶対に踏んではならない地雷こそ知りたい。そう願う人は経営者だけでなく、一般のビジネスパーソンにも多くいると思います。と30年続く人気コラム、「破綻の真相」の編集チームは語っています。
放漫経営だったり、無理な事業拡大だったり、すべて事実なのだろうが、どれも、まともな経営者のやることとは思えない。冷静に自社を客観視できれば避けられることばかりだ。という意見も多数寄せられ、一面の真理だと思います。
倒産に限らず、あらゆる失敗がそうだと思いますが、致命的と思える失敗のほとんどは、全く予期していなかったところに突然、起きるものではありません。本人も薄々、このままだとまずいことになるんじゃないかとどこかで感じる、よくない状態がもともとあり、しかし、何らかの事情でその状態を放置してしまった結果として起きるものです。第三者の目から見ればおそらく、問題点はもっと容易に、明確に見通せるでしょう。
本書では、経営破綻を経験した経営者の証言も多く紹介しますが、その中に、このような証言があります。経営していて不安に感じ始める部分は、いわば病巣。初期の段階で解消する手を打つべきだったと痛感している。ずっと感じていた違和感を放置すべきでなかったという反省です。違和感を認識した後で、病巣を特定して取り除くのも簡単ではありませんが、漠然とした違和感を直視することが大きな失敗を避ける最初の一歩になるのでしょう。
本書は5章構成となっています。
第1章では、近年、目立つ粉飾倒産に焦点を当てます。会社の実態をよく見せたいという経営の嘘が破綻に至るプロセスを、2人の経営者の告白を軸に紹介しています。
失敗を隠すことが最大の失敗。その究極の行為が粉飾です。粉飾自体、法律に触れる行為ですが、その一線を越えたことで、経営者が会社のコントロールを失い、破綻に突き進んでいった2社の事例がリアルに描かれています。
粉飾をすることで、一時的に銀行を欺くことができても、抜本的に経営が改善していないので、どんどん資金繰りが厳しくなり、資金をショートさせないことに意識が集中するあまり、ビジョンを掲げて将来を見据えた経営どころではなくなってしまいます。
会社を成長させて粉飾した分を取り戻そうとする当初の意気込みは失せ、会社を何としてでも存続させなければという守りの姿勢になった時点で、まともな経営判断ができなくなっていました。
また、機関投資家からの厳しいプレッシャーや、金融機関が自身のノルマ達成を目的に粉飾をほのめかす事例についても語られています。
粉飾の更に恐ろしいところが、経営者が粉飾した決算を正しいと思い込むという状況です。
経営者は粉飾すると、現実から目をそらしてしまう。融資を受けて、一時的とはいえ窮状をしのげるから危機感がなくなるのは当然だ。根本的な問題解決に着手しないから状況は変わらず、粉飾を毎年繰り返すようになる。そこが一番怖い。
大抵の場合、粉飾した1つの決算書を税務署にも金融機関にも提出する。経営者はそれを正しいと思い込むようになり、本当の業績や財務状態が分からなくなる。不思議に思うかもしれないが、これが世の中で起きている粉飾経営の実態。
粉飾経営が4、5年も続けば、経営者は本来の業績や財務に対して、そもそも興味をなくしてしまう。
第2~4章では、経営破綻の事例を成長期の倒産、停滞期の倒産、突然の倒産という3類型に分けて紹介しています。企業の成長にはリスクも伴います。脚光を浴びた急成長企業が経営破綻することは多くあり、第2章では、その理由が解説されています。
第3章では逆に、創業当初の成長を支えたビジネスモデルが古くなり、陳腐化した後に起きる問題が語られています。第4章は、外注先とのトラブルや社員の不正などから突然、倒産したケースが紹介されています。あっけない倒産劇を分析すると、収益基盤のもろさやリスク管理の甘さが見えてきます。
第5章では、創業200年を超える和食器販売の老舗たち吉を事実上の倒産に導いた14代目が、詳細な経緯と胸のうちを告白した独占インタビューが掲載されています。
一世を風靡した老舗和食器販売業者が、主力販路であったデパートの凋落に対し、有効な手を打つことができず、景気の良かった頃の高コスト体質の改善も後手に回りました。
そんな中、メインバンクから融資の条件として送り込まれた高額の外資系コンサルタントが機能せず、そこに費やされた資金とリソースが無駄になってしまいました。
そこに2件の不祥事が追い打ちをかけました。商品の陶磁器から規制値を超える鉛が検出されるという品質トラブル。もう一件は、取引先に不当に在庫を所持させたという下請け法違反勧告。
これらの要因が複合的に絡み合い、経営不振から長期借入金が膨らみ、債務超過に陥って、私的整理を経た後に事業譲渡という形で幕を閉じました。
計画未達が続き、銀行に追加融資を依頼した際、融資担当者が半沢直樹ばりに、机をバンバン叩きながら、怒号を浴びせるシーンも経験されたそうです。
ちなみに、この経営者は、落ち目の会社の社長を引き受け、事業譲渡に至るまで、もがき苦しんだ5年間の経験を活かし、その後、中小企業の支援コンサルタントや社会保険労務士として活躍されているそうです。
この最後に掲載されている独白インタビューは、事業譲渡に至るまでの状況や感情、葛藤や後悔に至るまで赤裸々に描かれており一読に値すると思います。
■動画版は、こちら。
■関連記事紹介
いいなと思ったら応援しよう!
