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【書籍紹介】決定版 戦略プロフェッショナル 三枝匡 著

本書は、経営コンサルタントとして著名な三枝匡氏が自身の実体験をもとに執筆した企業変革ドラマです。本書は、事業戦略の立案と実行のプロセスを具体的に描き出し、戦略的思考の重要性を説いています。

物語の概要

本書は、著者自身をモデルにした主人公が、20代から30代にかけて戦略経営者を目指して歩み始める様子を描いています。大企業就職から始まり、ボストンコンサルティンググループへの転職、MBA取得、そして30代早々に日米の合弁会社、新日本メディカルに米国側の責任者として送り込まれ、戦略経営者として不振事業の再生に取り組みます。

戦略の要諦:「絞り」と「集中」

本書で強調されているのは、戦略の核心は絞りと集中にあるという点です。

  1. 戦いの場を絞る。会社の体力を考慮し、戦う市場セグメントを絞り込む。

  2. エネルギーを集中。絞り込んだ領域に社内のリソースを集中投下する。

著者は、小さくても良いから一番になることが成功への第一歩だと説いています。広すぎる戦場では資源が分散し、効果的な戦略の実行が困難になるためです。

戦略立案のプロセス

本書では、以下のようなステップで戦略を立案・実行していく様子が描かれています。

  1. 業績の確認。自社の現状を把握する。

  2. 市場規模と成長率の分析。プロダクトライフサイクルや事業の成長ルートを整理する。

  3. 競合分析。競合と比較して優位性や価格、利益構造をチェックする

  4. 自社の強み弱みの分析。ヒアリングにより現状のシェアが拡大していない理由を明らかにする

特に、何を捨てるかの決断プロセスが重要視されており、これは絞りと集中の考え方に直結しています。

市場の成熟度と戦略の変化

市場の成熟度に応じて、効果的な戦略が変化することも指摘されています。

  1. 導入期および成長期初期。製品内容による優位性が重要。

  2. 成長期。営業体制やアフターサービス網の面展開が決め手

  3. 成熟期。複合的優位性が支配的になる。

戦略の実行と組織文化

戦略の立案だけでなく、その実行においても重要な示唆が提供されています。

  1. トップの戦略的思考。企業変革の前提条件として、トップが戦略的な判断力と見識を持つことが不可欠。

  2. シンプルな目標設定。戦略はシンプルでなければ効果が出ない。

  3. 情報の活用。必要な情報は往々にして社内に存在しており、それに意味づけして発信することが重要。

  4. 組織文化の重要性。勝っている組織と負けている組織では文化に明確な違いがある。内向き志向の組織は衰退のリスクが高い。

戦略プロフェッショナルの心得

本書では、戦略を立案・実行する上での重要な心構えも示されています。

  1. リスクを恐れない。失敗を恐れずに挑戦し続けることの重要性。

  2. 継続的な学習。常に新しい知識やスキルを吸収し続ける姿勢。

  3. 客観的な視点。マクロな市場環境を含めて、できるだけ正確に現状を認識する。

  4. 時間軸の設定。競争の認識を正確に行い、適切な時間軸で戦略を立てる。

戦略経営者とは、経営者自身が、戦略コンサルタントと同等レベルで、新しい戦略の論理と視点を更新し続け、それを使って社内幹部の戦略発想を刺激し続け、部下と共に戦略ストーリーを立案し、それを確実に組織に落とし込み、その実行と結果に責任を負う

組織に落とし込むとは、改革者が立案した戦略ストーリーを、組織の上から下まで今そこにいる人々に、できるだけシンプルに、かつリーダーの熱い語りで伝える。それによって、その場で聞いた部下たちが心を揺さぶられ、つまり一発で認識を変え、事業の現状に対する自分の責任と役割を理解する。その結果として、今そこにいる人々が皆で心を合わせ、新戦略の実行に向かっていく

具体的な改革ステップ

改革のステップは、以下の5段階で取り組む。

1.トップが自らハンズオンのスタイルで事業組織に立ち入る。
2.経営幹部に対する戦略教育を行う。彼らの戦略リテラシーを画期的に上げることを狙う。
3.それを受けてトップと幹部は、熱くなって新戦略を立案する。
4.その戦略を彼らは、自らの手で、組織一体になって、実行に移す。
5.このステップで事業革新を目指すと同時に、経営者人材が育成される。

ボトルネックの特定とブレイクスルー

ジュピターという画期的な自動検査機械。これを導入することで病院側は大幅な人員と時間の削減が可能。更に、従来500円だった検査薬を250円で提供可能な為、1,000万円の機械を導入しても1~2年で投資回収が可能。

検査薬は、機械化により大幅なコストダウンが実現できており250円で販売しても販売者である新日本メディカルに十分な利益が出る。

これだけ買い手にも、売り手にもメリットが高い商品であるが、思い通りに販売ができていない。そこで営業にヒアリングをしたところ、以下の5点が課題として挙げられた。

1.病院側が自動化及び機械の導入に乗り気でない。
2.機械の価格が高く導入の障壁となっている。
3.新しい機械を入れることに病院側に抵抗感がある。
4.興味があっても予算化していないので導入に至らない。
5.営業が機械に不慣れで十分に売り込めていない。

このうち、1~3に関しては本質的な課題ではなく、単に営業が機械の導入メリットをきちんと顧客に説明できていないだけ。

予算化していないので、すぐには導入できない。あるいは、高額なので予算化のハードルが高いといのは事実。

そこをブレイクスルーする策として、アドオン方式を導入。検査薬を250円から420円に価格改定することを条件に機械を無償で設置する。この時点では販売者である新日本メディカルの資産。差額の170円を機械の分割払いであるとみなし、累計額が機械の購入代金に達したら、機械を病院側の資産として所有権を移転する。

このアドオン方式を核に、セグメンテーションを通じたアプローチする顧客の明確化、販売代理店制度の見直し、営業インセンティブの見直し、商談状況の見える化、販促キットの充実等を組み合わせることでブレイクスルーを起こし、V字回復を実現した。

結論

本書は、単なる理論書ではなく、実践的な戦略立案と実行のプロセスを具体的に描いた貴重な書籍です。絞りと集中を核とする戦略思考、市場環境の客観的分析、組織文化の重要性など、多くの示唆に富んでいます。

本書は、経営者やビジネスリーダーだけでなく、キャリアを通じて戦略的思考を磨きたいすべての人にとって、有益な学びを提供しています。戦略の本質を理解し、実践に移すための指針として、繰り返し参照する価値のある一冊と言えるでしょう。

著者の実体験に基づく生々しい描写と、戦略論と歴史観を織り交ぜた構成は、読者に深い洞察と実践的な知恵をもたらします。熱き心と元気な会社を取り戻したいという著者の思いが、読者の心に響く内容となっています。

最後に、本書が教えてくれる重要な点は、戦略とは単なる計画ではなく、組織の能力と密接に結びついているということです。どんなに優れた戦略でも、それを実行する組織の能力が伴わなければ意味がありません。戦略の革新性と組織能力のバランスをどう管理するかが、組織を率いる経営者として最も重要な課題の一つであると言えるでしょう。

■動画版は、こちら。


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マルセロ| 事業プロデューサー
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