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【書籍紹介】ビジョナリー・カンパニー・ゼロ 。「人材が最も重要な経営資源」編

本書は、ビジョナリーカンパニーシリーズが登場する以前、著者のジム・コリンズ氏が初めて書いたビヨンド・アントレプレナーシップに大幅な加筆をした改訂版となります。

前回の「ビル・ラジアーの教え編」に続き、今回は「人材が最も重要な経営資源編」となります。

著者のジム・コリンズ氏が、偉大な企業について、四半世紀にわたって研究した結果、偉大な企業をつくるためのもっとも重要なスキルは、人材について優れた意思決定をする能力であるという結論に至りました。それを受け、ビヨンド・アントレプレナーシップの改訂に際し、新たな章を設けることにしたと説明しています。

なによりも大切で、絶対に失敗してはならないのが最初に人を選ぶ原則だ。あらゆる事業活動のなかで正しい人材をバスに乗せること以上に重要なものはない。私が研究チームとともに最初に人を選ぶ原則、最初に誰をバスに乗せるかを決め、それから目的地を決めるを発見したのは、「ビジョナリー・カンパニー2。飛躍の法則」を執筆していたときだ。

正しい事業のアイデアより、正しい人材の方がはるかに重要だ。特定の事業アイデアは失敗に終わる可能性が高いのだから、なおさらだ。あなたが今考えているアイデア、あるいは事業戦略にしか適性のない人材ばかり集めたら、そのアイデアが失敗し、別のアイデアに挑戦しなければならなくなったときどうするのか。反対に最初のアイデアが成功し、さらにスケールの大きい優れたアイデアが見つかったら、どう対処するのか。

特定の戦略だけに適した人材を採用するのは、最初から失敗の確率を高めるようなものだ。

著者は経営陣が追いかけるべき最も重要な指標は、バスの重要な座席のうち、そこにふさわしい人材で埋まっている割合であると断言します。

ちなみに、以下の3つのうち、いずれかひとつでも満たしていれば重要なポストであると定義しています。

  1. 人材に関わる重要な意思決定をする権限がある。

  2. この職務での失敗は、会社全体に重大なリスクあるいは大惨事を引き起こす可能性がある。

  3. この職務での成功は、会社の成功にきわめて大きな影響を与える可能性がある。

重要なポストを与えたが、期待通りの成果をあげられない場合、育成と交代はどちらが正解なのか?これについては、唯一の正解はなく、過去も両方のパターンが混在している。

唯一の正解はないという前提で、交代させるかどうかは以下の7つの項目に照らし合わせて判断すると良い

  1. この人物を重要ポストにとどめているために、他の人材が会社を去り始めていないか。特に、高い成果をあげているが会社のコアバリューに反する行動をする人の扱いは要注意である。

  2. 価値観の問題か、能力の問題か、意思の問題かを見極める。特に、そのポストのニーズを満たそうとする意志が欠如している、あるいは失ってしまった場合、改善は難しい。

  3. 窓と鏡の使い分け。うまくいっているときは窓を指し、他人のおかげだと言う。うまくいかないときは、鏡を指して自分の責任だと言う人間であるかどうか。

  4. 仕事を業務ではなく責任と見る。重要なポストにふさわしい人は、自分が与えられているのは業務ではなく、責任だと理解している。

  5. ここ1年で、この人物に対するあなたの信頼は高まったか、下がったか。

  6. バスの問題なのか、座席の問題なのか。今のポストが不適切なだけかも知れない。

  7. この人物が退社したら、あなたはどう感じるか。内心ほっとするのであれば、すでにバスに相応しくない人物であるとの結論が出ている。

交代の意思決定の際は、「厳格であれ、非情になるな」と著者は説きます。厳格な意思決定を行う勇気と、非情にならない思いやりを併せ持つことが重要です。

勇気とは、当たり障りのない理由を考えるのではなく、交代の理由を直接はっきりと伝えること。そして、その辛い役目を他人に押しつけないこと。一方で、声の調子や相手への敬意という形で思いやりを最大限に示すことが望ましい。

傑出したリーダーは、生まれながらもったカリスマ性ではなく、リーダーに相応しくなろうと努力した結果、立派なリーダーになっているケースが大半です。

スティーブジョブズも、若いころは気分屋で、すぐにキレて相手を侮辱し、自らのユニークなビジョンに賛同しない者を一切許容しない未熟な天才と見られていたことは有名です。

20代のジョブズの振る舞いと、自分がいなくても存続できる偉大な企業をつくろうとした50代のジョブズのリーダーとしての優秀さは別物です。スティーブジョブズの人生は成功物語ではなく、成長の物語と言えます。

リーダーの立場は特権ではなく責任だ。偶然ではなく決断、遺伝ではなく意思を持った行動の結果だ。学びつづけることで偉大なリーダーに成長するかどうかは、詰まるところ選択の問題だ。

著者は人生60年を振り返り、人生に決定的な影響を与えてきたのは出来事ではなくヒトである。メンター、教師、友人、同僚、パートナーとの幸運な出会いが、自身の人生を変え、進むべき道を示してくれたと説きます。

私の生き方を大きく変えたのが、まず目的を選ぶから、まず人を選ぶへの発想の転換だ。何かを成し遂げること自体にそれほど意味はなく、満足感は長続きしない。だが正しい仲間と協力しながら何かを成し遂げようと努力する過程には、途方もない満足感がある。

著者は、2年間、米陸軍士官学校でリーダーシップ研究に従事し、ユニットリーダーシップの重要性について学びました。

真に偉大な組織は例外なく、優れたリーダーの率いるユニットで構成されている。すばらしい成果はそこで生まれるからだ。ユニットレベルで傑出したリーダーシップが発揮されなければ、組織のトップにどれほど優れたリーダーがいても意味はない。真に偉大な企業をつくりたいなら、担当チームをまとめあげ、野心的目標に挑んでくれるユニットリーダーを大勢育成しなければならない。

ユニットリーダーとして、自らの率いるミニバスを傑出した成果に導く。成果が大きくなるにつれて、より大きな責任を負うことを求められる。目の前の課題に集中し、自らのミニバスを偉大な成果へと走らせる。その連続の結果、傑出したCEOになった事例が多く見られると著者は解説します。

アンハイザー・ブッシュ・インベブの立役者であるブラジル人実業家ジョルジ・パウロ・レマンは、ハングリーで情熱的な人材の集まる企業文化を生み出す才能を活かし、成功しました。

自分達の文化というオペレーティングシステムを武器に企業買収を繰り返し、それをインストールすることで未来永劫、成長を続けるモデルを確立しました。自分たちのすばらしい文化に賭けるべきであると考えたのです。

そこで小売業のロジャス・アメリカナスと、ビール会社のブラーマを買収した。レマンたちの仮説は正しかった。正しい文化的DNAを持った正しい人材を買収先に送り込む戦略は大成功した。3人は人材マシンの構築に集中した。積極的で野心的な若いリーダーを大量に採用し、現場に送り込むために訓練する仕組みだ。究極の戦略は、情熱的で意欲のある若者を見つけ、徹底的な能力主義の文化に放り込み、困難で野心的な目標を与え、最終的な成果の一部を還元するというものだ。3人はこれをドリームピープルカルチャーと呼んだ。

仲間に対する信頼は、時に金銭的なインセンティブを上回ると著者は説きます。米軍の特殊部隊シールズは、途方もない責任感、訓練、能力、判断力が求められ、時には命の危険にも晒される職場であるが、必ずしも金銭的報酬が高い訳ではない。金銭的報酬よりも重要なのは仲間からの敬意です。

シールズのチームでは評判がすべてだ。隊員の評判は訓練部隊にいるとき、部隊に配属されるとき、作戦に参加するときなど常についてまわる。狭い世界なので、誰もが知り合い、あるいは知り合いの知り合いだからだ。

金銭的報酬を設けるなという意味ではない。実際に多くの成功企業はインセンティブ制度を採用しています。制度が機能するのは、インセンティブが会社のコアバリューと合致し、報酬の基本的機能を果たす際です。言い換えると、会社のコアバリューを支持する意欲的で自律的な人材を引き寄せ、繋ぎとめるという機能です。

仲間に敬意を示し、助け合い、支え合う文化が醸成できている企業は強い。例えば、ブートキャンプは強靭な隊員を見つけることが目的と誤解されがちであるが、本当の目的は、極度のプレッシャーにさらされたときに周囲を助けるより、自分のことを優先する人材を排除することであるそうです。

四半世紀にわたってエクセレントカンパニーを研究して来た著者が導き出した、偉大な企業をつくるためのもっとも重要なスキルは、人材について優れた意思決定をする能力であるという主張は、実に説得力がありますね。

■動画版は、こちら。

■動画「ビジョナリー・カンパニー・ゼロ」 ビル・ラジアーの教え編







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マルセロ| 事業プロデューサー
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