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【書籍紹介】ビジョナリー・カンパニー・ゼロ 。「リーダーシップ」編

本書は、ビジョナリーカンパニーシリーズが登場する以前、著者のジム・コリンズ氏が初めて書いたビヨンド・アントレプレナーシップに大幅な加筆をした改訂版となります。

ビル・ラジアーの教え編、人材が最も重要な経営資源編に続き、今回はリーダーシップ編となります。

偉大な企業への道を阻むのは往々にして無能なリーダーだ。どれほど最先端のテクノロジーがあっても、優れた戦略があっても、そして業務の遂行力があっても、リーダーシップスタイルがお粗末であればどうにもならない。

著者のジムコリンズ氏は、2012年から2年間、ウエストポイント、米陸軍士官学校でリーダーシップ研究に取り組む機会に恵まれ、そこで大きな学びを得ました。

ウエストポイントは優れた人格を持つリーダーの育成に取り組む、世界有数のリーダーシップ教育機関。著者は幾度も現地に足を運び、士官候補生や教員との交流を通じてリーダーシップの本質、どうすればリーダーを育成できるのかを学びました。

まずはっきりさせておきたいのは、リーダーらしい人格というものはない、ということだ。今は有名人を崇めたて、人格をことさら重視する時代だが、人格とリーダーシップを混同するのは危険だ

リーダーシップとカリスマ性は別物である。人を動かし、偉業を成し遂げるのに力強いカリスマ的人格は必要ない。権力もいらない。真のリーダーシップとは、従わない自由があるにも関わらず、人々がついてくることだ。単に権力を行使しているだけなのに自分にはリーダーシップがあると勘違いしてはいけないと著者は諭します。

その代表例として教育NPO、ティーチフォーアメリカの創設者、ウェンディコップを紹介しています。

TFAは、どのような過程、どのような地域に生まれたにかかわらず、すべての子供がしっかりとした教育が受けられることを目指したNPO。そして、一流大学を卒業した若者たちを米国で最も貧しい地域に最低2年間、教師として派遣するプログラムです。創設以来、50万人を超える若者がプログラムに応募し、6万人以上を実際に教室に送り込んで来ました。

立ち上げ当初、組織の理念に魅力を感じる有能な人を集め、教師やリーダーとして現場に解き放つことに集中しました。活動を通じて、全員参加型リーダーシップというビジョンを持つようになりました。生徒、保護者、教師、校長、学区の教育長、政策当局、産業界、医療従事者などあらゆる立場の人が共通の目的に向かって協力し、子どもに関わるエコシステムを構築し、大量の人員を動員しました。

コップには、組織的な権限もなければ、社会のヒエラルキーの上位にいたわけでもなく、立派な肩書があったわけでもなく、政府のお墨付きがあったわけでもない。金銭的報酬によって人材を集める力もなく、実際、TFAに参加した者の多くは、他の仕事につけばもっと多くの収入を得られる状況であった。

コップには、魅力的なビジョンを明確かつ簡潔に表現でき、不可能な夢を実現できると思わせる才能があった。多種多様な人材を集め、協力的な雰囲気を醸成し、真実が語られる文化を生み出し、最高のアイデアが選ばれる組織をつくる才能にも恵まれていた。

リーダーシップとは、部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である。

この定義には3つの重要な点があります。

  1. やらなければならないことを見極めるのはリーダーの仕事である。

  2. 重要なのはやらなければいけないことをやらせるのではなく、やりたいと思わせること。

  3. リーダーシップとはサイエンスではなくアートである。

偉大な企業を動かす要因について研究を続けるなかで、歴史に残る偉大なビジネスリーダーには、カリスマ性など一切持ち合わせていない人物が何人もいることがわかった。カリスマ性などなくても正しい人材を過酷な現実と対峙させるリーダーのほうが、魅力的な人格で信奉者を破滅へと導くリーダーよりよほど良い。

本書では、有能なリーダーに共通して見られる7つのリーダーシップスタイルを紹介しています。誠実さ、決断力、集中力、人間味、対人スキル、コミュニケーション能力、常に前進する姿勢

誠実さは、恐らくもっとも重要な資質であると言えます。健全な会社では、リーダーの語る言葉と心の中で抱いている思いに矛盾がありません。価値観はリーダーのからだからにじみ出て、日々の活動を通じて、組織に刷り込まれていきます。

ビルヒューレットとデイブパッカードはHPを創業したとき、一番カネになる価値観はどんなものかと話し合ったわけではない。敬意を持って社員に接するべきだと心から信じ、その信念にもとづいて行動した。彼らにとって、それは息を吸うぐらい自然なことだった。

著者はウエストポイントでリーダーシップ研究をしていた際、そこで出会う士官候補生の多くがスタンフォード大学で教えていたMBAの学生より幸せそうであることに驚いたと述べています。

大きな理由は、ウエストポイントでの生活は奉仕の精神、すなわち自分という存在を超える大義へのコミットメントによって支えられていたためだと思う。しかもただの奉仕ではない。究極の奉仕だ。候補生たちはその過程で命を落とす可能性さえあることを知っていたのだから。 

ビジョナリーカンパニーの研究を通じて偉大な企業へと飛躍させたリーダーは、第5水準の資質を持ち合わせていることがわかった。それは、個人を超越する大義のために尽くすことができ、謙虚さと不屈の意思という矛盾する資質を併せ持つということである。

第5水準のリーダーは野心的だ。一心不乱に、たゆみなく全精力を注ぐ。ただ、その野心は自分を利するためのものではなく、大義、会社、目的の達成に向けられる。ちなみに、第1水準:個人的スキル。第2水準:チームワークのスキル。第3水準:管理スキル。第4水準:リーダーシップスキルとなります。

決断力も極めて重要な資質です。ジョージマーシャルは、リーダーにとってもっとも大切なのは意思決定能力だと指摘しています。実際の経営において、完璧な情報が揃っていることなどなく、不完全な情報で決断をくだす能力、困難を乗り越えて意思決定をする能力は、優れたチームやリーダーに欠かせない資質です。

物事をじっくり分析するのは良いことだが、分析マヒの状態に陥るのは禁物だ。あらゆるリスクを排除できるほど、あるいは迷いなく判断を下せるほど十分な情報やデータが集まることはめったにない。それに加えて、あらゆる経営分析は前提をどう置くかによって結果がまるで変わってくる。まったく同じファクトを分析しても、人によってまったく異なる結論に達することも多い。それぞれがまったく異なる前提にもとづいてファクトを見ているからだ。 

無分別な行動や、思いつきでやみくもに動くことを勧めているわけではない。データ、分析、可能性の評価はいずれも意思決定に必要だ。ただあくまでも目的は分析を尽くすことではなく、意思決定を行うことだと頭に入れておこうと著者は述べています。

判断をしないことは往々にして、誤った判断をくだすより悪い結果につながる。問題と正面から向き合おう。コーナーに追い詰められて選択肢がなくなる前に攻撃に出よう。

ところが、実際は人間は間違えることを恐れるので、このアドバイスに素直に従えない。バカにされること、責められること、批判されること、笑われることを多くのヒトが心底恐れている。時に、失敗による心理的悪影響のほうが、実際の悪影響を上回ってしまい判断を躊躇してしまう。

著者はコンセンサスに関する誤解についても、以下の通り指摘しています。

コンセンサスとは全員一致ではない。あまりに多くのマネージャーが、コンセンサスとは100%の意見の一致だと誤解している。全員の合意がコンセンサスの条件ではない。全体としての合意が必要なだけだ。全体としての合意とは、51%よりはかなり高いが、100%の全会一致には届かない。コンセンサスとは数値化するものでなく感じ取るものだ。コンセンサスがまとまれば、議論のプロセスで反対した人はそれを受け入れるか、組織を離れるしかない。

意思決定に関しては、以下の点も重要となります。

  • 最善の判断は、とびきり優秀な人を集めてアイデアを集めたときに生まれる。周囲を優秀な人材で固めて、意思決定に参加させれば、正しい判断に行きつく可能性は高まる。

  • 最終的に重要なのは意思決定そのものではなく、そこから生まれる行動だ。意思決定を事後的に受け入れさせるほうが、最初からプロセスに関与させるより時間がかかる。

  • イノベーティブな会社は、意思決定をできるだけ組織の下位階層に委ねる傾向がある。あらゆる階層の社員に早く動き、自身のクリエイティビティを活かし、知性を発揮し、責任を引き受ける機会を与える。

  • 本当に重要で大きな意思決定、とりわけ失敗したら重大な悪影響が生じる際、全員の意見が一致したという安堵感を得ることを目標にしてはいけない。優れた判断をくだし、それをきちんと遂行することを目標とすべき。

  • 重大な意思決定のほとんどは、反対意見が存在するなかでくだされる。それでもひとたび決定がくだれば、他の選択肢を熱心に推しているヒトも含めて誰もがその実行に全力をあげなければならない。

  • 必要なのは、会社を成功させたいという一途な思いから意見を述べ、議論に参加する者、自分のためではなく組織やその理念のために最善の判断を導き出そうとする者だ。自分の主張が通ってチームが負けることより、自分の主張が負けてもチームが勝つことを望む者、意見だけではなくファクトやエビデンスを持って対話に参加する者だ。自分が反対した決定であっても、その成功に全力を傾ける責任を受け入れる者、決定を受け入れがたいと思うならば、自らバスを降りる責任を引き受けられる者だ。

著者は、創業した会社を歴史に残る偉大な企業へと育てた起業家は、現場主義とエンパワーメント型の両方のスタイルを実践していたと総括しています。会社の規模がどれほど大きくなっても、社員との強い絆を持ち、現場で何が起きているかを常に意識し、戦略的課題には直接関与した。逆に、戦術的な細かい問題への好奇心を失い、社員の気持ちへの興味を失って執務室にこもるようになったら衰退のサインであると警鐘を鳴らします。

企業経営に際し、ポジティブなフィードバックしか与えないというのは不可能だ。批判的フィードバックが必要な場面もあるのは明らかだ。そして、当然ながら、正直なフィードバックしかしてはならない。誰かを安心させるためだけに偽りのポジティブなフィードバックをしたら、信頼を失うことになります。

ビルウォルシュは著書、NFL王者の哲学に下記の通り記しています。

かっこよくて親切で、おおらかで親しみやすい選手に寄りそうコーチでは、やるべきことの80%しかできない。残る20%をやり遂げるには、困難な決断をくだし、高いレベルのパフォーマンスを要求し、期待に応え、細部への注意を怠らず、必要な時にはしっかりしろと選手を叱咤する能力が必要だ。

優れたリーダーには楽観性と粘り強さも必要である。心理学の研究では、生産性が高く幸福な人ほど、基本的に未来に対して楽観的であることが明らかになっており、企業についても同じことが言えます。

リーダーシップパートは、以下のメッセージで締めくくりたいと思います。

リーダーは社員の理想の姿を思い描き、いずれ彼らがその理想に到達できるという揺るぎない確信を抱く。リーダーは社員の魂をつかみ、表へ引っ張り出し、目覚めさせる。自ら期待する理想像を示すことで、社員に自己認識の変革を迫る。

私たちは、社運を賭けた大胆な目標を達成する。私にはその確信がある。なぜなら私はあなたたちを信じているからだ。これが、リーダーが伝えるべきメッセージだ。

■動画版は、こちら。












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マルセロ| 事業プロデューサー
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