コテンラジオの前人未踏の挑戦
動画版は、こちら。
みなさん、コテンラジオをご存じでしょうか?様々な歴史書を網羅的に読み込み、世界の歴史を中立な立場で伝え、それを人文知として社会に活かしていくことを志したポッドキャスト番組。母体は深井代表率いる株式会社コテン。
先日、サイバーエージェントと業務提携し、サイバーエージェント社内に人文知研究所を設立する旨、発表がありました。
更に岡野バルブからも同様のリリースが発信されています。
素晴らしい取り組みですね。深井代表も、まだどれだけビジネスに貢献できるのか未知数である新しい取り組みに、リスクを取ってベットする同社に対し感謝と尊敬しかないと放送の中で述べています。
そして、コテンに関しては、ちょうど1年前に斬新な資金調達法が発表され、その時も驚愕しました。
ESG投資からインパクト投資へ。どちらも社会課題解決に向けて、どうお金の循環を変えていけば良いかという試行錯誤から生まれて来た。投資家が適正なリターンを得られつつ、より社会課題解決に繋がる事業にお金が集まるような世の中にする。
逆に言うと、脱炭素(環境問題)や児童労働(人権問題)への取り組みが見られない企業にはお金が集まらない。就職先としても人気がなくなる。生活者も、そういう企業が提供する商品やサービスは購入しなくなる。
という反論の余地がない社会善の裏側に米国や中国に対する欧州(EU)のしたたかな生存戦略が見え隠れする。。。
ところが、コテンラジオの取り組みは、残念ながらESG投資やインパクト投資(環境保全から更に一歩踏み込んで社会に対するインパクトを定量化・具現化した企業に対する投資)の枠組みでは成立しない。
なぜなら、コテンラジオが目指す「世界の歴史を客観的・網羅的にデータベース化し、人類の進化に貢献する」というゴールが「定量化」にそぐわない為。正確には、できなくはないが、そうしたくないし、すべきではないと考えるから。
インパクトの定量化とは、未来予測に基づきロジックを積み重ねパフォーマンスを算出する試み。それに対する歴史の教えは「これまでの人類史上、未来を正確に予測できた事例はない」というもの。
そもそも定量化は、何の為になされるのか?定量化には2種類ある。
予測及び企画の確度を高める為の定量化
コンセンサス形成の為の定量化
前者の「予測及び企画の確度を高める為の定量化」は絶対に必要。そこが甘かったり、軽視している経営者に資金は集まらない。
問題は後者のコンセンサス形成の為の定量化。これは、誰も未来を正確に予測できないという前提に立つと、本来意味がない。こういう前提で、こういう活動を行うことで、将来これだけの利益が得られますと。
ところが、実際にVCから資金調達する際には、VCを説得する為の定量化、更にはVCへの出資者であるLPにVCが説明・説得する為にも定量化が欠かせない。
そこには、こういうロジックや数字があれば、VCやLPが安心して出資できるという一定のフォーマットが存在する。起業家は、そのフォーマットに適合した事業計画書を作成する。
この一連の定量化プロセスを、コテンの深井代表は「現代の呪術」であると解説。皆が本音では誰も未来を予測することは不可能で、必ずしもこの通りになる訳ではないと理解しながら、マネーゲームに参加している。コンセンサスを得るための儀式が定められているという点において宗教と同じ。
「世界史のデータベースを作る」ということに対し、「呪術的な事業計画を作成することはいくらでも可能」であるが、それはしたくない。例えば、「経営者が事業判断の際に活用できるデータベース」と定義づければ、その前提でのマネタイズは可能。
ところが、そう定義した瞬間、経営者が事業判断の際に活用できるデータベースを作ることが目的化し、自分が本来作りたかったデータベースとは乖離していく。
自分の考えているデータベースは、そんな小さなものではない。もっと様々な活用が可能な人類の叡智であると。
従って、そういう理念を丁寧に説明して回り、それに賛同いただける出資者を募るのに1年かかった。
誤解して欲しくないのは、利益を出さなくて良いとは思っていない点。サステナブルな事業運営を行うには、利益は絶対に必要。価値あるものを提供するには能力のある人材を集め、高い報酬を支払う必要がある。それには高い収益性が欠かせない。
ただ、具体的にこういうタイミングで、こういう事業を通して、いくらの利益を出すというコミットはしたくない。それは、自らの事業の可能性を狭めてしまうからだ。
究極論として、今の社会で一番欠けているもの。それは、「人的資源の最適配分」。ESG投資やインパクト投資により、資金の最適配分は実現されつつある。優秀な人間が社会価値創造に繋がる事業に配置されるという人的資本の再配分が進めば、社会はもっと良くなる。
コテンラジオの挑戦は、「人的資源の最適配分」への挑戦でもある。
という壮大エンディングで締めくくられます。