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【書籍紹介】イシューからはじめよ 安宅和人 著
2010年発売以降、知的生産のバイブルとして全ビジネスパーソンの必読書とも呼び声の高い本書。累計60万部のロングセラーの改訂版が2024年9月に発売となりました。
ビジネスシーンでは課題解決に注目されがちですが、本当に重要なのは正しく課題設定することであるというのが本書のメインメッセージ。間違った課題設定を行い、そこにたどり着くために費やされた膨大な努力は無駄になる。これを著者は本書の中で犬の道と表現しています。
知的生産の現場において空気、常識、権威で判断することや、努力すればなんとかなるという根性論を終わらせ、本当に向き合うべき課題に取り組む人が増えることを期待して本書を書いた。日本はイシューからはじまる社会に近づいているのだろうか。残念ながら、手応えは今ひとつだ。
イシューという言葉自体はずいぶん浸透したが、日本社会で行われているのは、今もなおイシュードリブンではなく空気ドリブンだ。ひとつ断っておくと、僕は空気を読む力を否定しているわけではない。重要なのは、空気はあくまでファクトと論理の上にあるべきだということだ。
では、イシュードリブンな社会に移行するには何が必要なのか。かつて電気や化学が登場し今や当たり前になったように、データやAIがない世界に戻ることはないだろう。価値観の刷新と新しい行動は避けられない。一人ひとりの行動変容が不可欠だ。
著者が圧倒的に生産性の高い人たちを観察して得た答えが、生産性の高い人は正しくイシューを設定する能力に長けているということ。決して、同じタスクを他人の何十倍のスピードでこなせる超人という訳ではない。
イシューとは、本当に取り組むべき課題であり、具体的には以下の2つを満たすものと定義しています。
2つ以上の集団の間で決着のついていない問題。
根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題。
イシューを正しく設定し、バリューのある仕事を実施することで高いアウトプットに繋がり、知的生産性を高めることができます。
バリューのある仕事とは、イシュー度(どれだけ良い課題を設定するか)と解の質(どこまで明確な答えを出せているか)が高い仕事と定義できます。
ここで大切なことは、イシュー度を高めることが先で、決して先に解の質を高めようとしてはいけないということ。一心不乱に大量行動することで課題を解決しようとする犬の道では、正解にたどり着くことはできません。
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世の中で、問題かもしれないと言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ。
■良いイシューの条件
1.本質的な選択肢である。
良いイシューは、その先の方向性に大きく影響を与えたり、行動の変化を生み出すものである必要があります。例えば、売上低迷から脱却するには、ブランド価値をあげることが重要だというイシュー設定はどうでしょうか?言われなくても当たり前のことであり、これを設定したからと言って具体的な行動に繋がりません。なぜ、売上低迷になっているのかを突き止め、イシューを分解して正しく設定する必要があります。
2.深い仮説がある。
深い仮説とは、常識を覆すような洞察があったり、新しい構造で世の中を説明していたりするものを指します。天動説に対する地動説は常識を覆す洞察。万有引力の法則は新しい構造の発見に該当します。プロジェクト開始時にその分野の有識者にインタビューを行い、業界の常識を把握することを推奨しています。
新しい構造を発見する際の着眼点として以下の4点を挙げています。
共通性の発見
関係性の発見
グルーピングの発見
ルールの発見
「科学が役に立つのは先を見て推理を働かせる道具になるからだ」とノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンは述べています。
3.答えを出せる。
本質的な選択肢であり、深い仮説があっても明確な答えを出せない課題は良いイシューとは言えません。当たり前に思えますが、世の中には重要であっても、既存の手法や技術では答えの出せない問題がたくさんあります。
答えを出せる範囲で最もインパクトのある問いこそが良いイシューと言えます。
ノーベル賞受賞の生物学者である利根川氏は、この嗅覚に優れた方であったようです。同氏は、以下のように述べています。
トネガワはそのとき利用可能なテクノロジーのぎりぎり最先端のところで生物学的に残っている重要問題のうち、なにが解けそうかを見つけ出すのがうまい、というんだね。
いくらいいアイデアがあっても、それを可能にするテクノロジーがなければ絶対にできない。だけど、みんなこれはテクノロジーがなくてできないと思っていることの中にも、そのときアベイラブルなテクノロジーをぎりぎりまでうまく利用すれば、なんとかできちゃうという微妙な境界領域があるんですね。
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■イシュードリブンに欠かせない仮説設定
イシューの設定には仮説の設定が不可欠です。仮説の設定とは、言い換えると自分なりのスタンスをとるということ。
仮説設定の重要性として、以下の3点を挙げています。
1.イシューに答えを出す。
そもそも具体的にスタンスをとって仮説に落とし込まないと、答えを出し得るレベルのイシューにすることができません。
2.必要な情報及び分析すべきことがわかる。
仮説を立てない限り、自分がどのレベルのことを議論し、答えを出そうとしているのかが明確にならず、それが明確になっていないことにすら気づかない。仮説を立てて、はじめて本当に必要な情報や必要な分析がわかります。
3.分析結果の解釈が明確になる。
仮説がないまま分析を始めると、出てきた結果が十分なのかそうでないのかの解釈ができません。無駄な労力がかかることになります。
著者は、仮説とイシューを言語化する重要性を強調しています。言語化することで、自分がそのイシューをどのようにとらえているのか、何と何についての分岐点をはっきりさせようとしているのかが明確になるからです。言語化することは、チームメンバーとの誤解を防ぐことにも有効です。
イシューと仮説は紙や電子ファイルに言葉として表現することを徹底する。当たり前に聞こえるかもしれないが、多くの場合、これをやれと言われてもうまくできない。なぜ言葉にできないのかといえば、結局のところ、イシューの見極めと仮説の立て方が甘いからだ。
■イシュー特定のための情報収集
ビジネスの現場では、イシューを明確化し、肝となる検証をスピーディーに進め、仮説を刷新するということを高速で回していくことが求められます。
本書では情報収集の3つのコツが紹介されています。
1.一次情報に触れる。
情報があふれている時代だからこそ、他人のフィルターを通っていない一次情報に価値があり、差がつきます。新しいプロジェクトに際しては、数日間、現場に赴き集中的に一次情報に触れることを著者は推奨しています。
2.基本情報をおさえる。
一次情報と並行して、世の中や業界の基本常識はきちんと網羅する。例えば、ビジネスの事業環境レビューであれば、マイケルポーター提唱のファイブフォースをベースとした以下の7点をおさえると良い。
業界内部における競争関係
新規参入者
代替品
事業の下流。顧客と買い手
事業の上流。サプライヤー
技術とイノベーション
法規制
3.集め過ぎない、知り過ぎない。
情報収集は一定のレベルを超えると、それ以上集めても成果創出に貢献しなくなります。更に、知り過ぎはもっと深刻で、一定以上知り過ぎると、自分ならではの視点を失い、優れたアイデアを出せなくなります。
ビジネスの世界でコンサルタントに期待することの1つは、こうした知り過ぎ対策としての外部視点となります。業界の常識に縛られることから開放したり、自分たちにとっては当たり前でも、外部からみたら価値のあることを発見する形で貢献します。
■イシュードリブンな考え方とは?
最後に、知的生産性を劇的に上げるイシュードリブンな考え方5箇条を紹介します。
1.問題を解くより問題を見極める。
2.解の質を上げるよりイシューの質を上げる。
3.知れば知るほど知恵が湧くより知り過ぎるとバカになる。
4.一つひとつを速くやるよりやることを削る。
5.数字のケタ数にこだわるより答えが出せるかにこだわる。
■動画版は、こちら。
■併せて読む。
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