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【書籍紹介】Harg Things に学ぶ解雇、降格、引き抜きの処方箋

シリコンバレー屈指のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者であるベン・ホロウィッツが、ラウドクラウド社立ち上げから事業売却までの苦闘の歴史を赤裸々に語ったスタートアップのバイブルから学ぶ、難題解決の処方箋です。

本書の概要は、以下の記事にて公開済です。

本記事では、本書に書かれているいくつかの難題に関する処方箋を紹介します。

■人を正しく解雇する方法。

米国で新規事業に取り組む際、避けて通れないひとつがレイオフ。著者もご多分に漏れず、計3回で約400名のレイオフを実施しています。一方で、レイオフを繰り返しながら、10億ドル以上で売却された稀有な事例との評価も得ています。

そんな著者が解説する正しいレイオフのステップは以下の通り。

1.自分の頭をしっかりさせる。

膨大な時間と資金をかけて採用し、育成した社員を解雇するには大きな重圧を受ける。また、社員の陰口が漏れ聞こえることもある。過去が重くのしかかってくる中、自分の頭をしっかりさせ、未来を考える必要がある。

2.実行を先送りしない。

レイオフを決断してから、実行までの間があくと、その情報が漏れ伝わり、社内の混乱を大きくしてしまう。

3.レイオフの理由を自分の中で明確にしておく。

今回のレイオフはビジネスをシンプルにし、課題解決に役立つかも知れないといった耳障りの良い理屈に逃げてはいけない。レイオフするのは、会社が失敗したからであり、前へ進む為に優秀な人達を手放さなくてはならないという現実と向き合う必要がある。CEOが自らの失敗を認めることが、失った信頼を取り戻していく第1歩となる。

4.管理職を訓練する。

レイオフ実行のもっとも大切なステップが管理職の訓練。訓練なしで不安定な状況に送り出せば、ほとんどが失敗する。訓練は、マネジャーは自分自身で部下をレイオフしなければならないという黄金律から始まる。

レイオフされた日のことは必ず覚えているので、毅然とした態度で、自分を信じ、自分のために精いっぱい働いた社員たちと真摯に向き合う必要がある。

具体的には、以下の準備が必要となる。

  • 何が起きたのか、そしてこれは個人ではなく会社の失敗であると簡潔に説明する。

  • 社員には本人がレイオフの該当者であり、交渉の余地がないことを明確に伝える。

  • 会社が提供する予定の給付金や支援について、すべて詳細に説明できるように準備する。

5.全社員に説明する。

レイオフ実行に際し、CEOは全社員に伝える必要がある。状況を適切に説明する全体メッセージを伝えて、マネジャーのための上空支援をしなければならない。

会社に残る人たちは、CEOが同僚たちをどう扱うのか深く気にかけている。レイオフされる人たちは、会社に残る人たちとのコンタクトが継続する前提で、敬意を払う必要がある。ただし、会社は前へ進まなければならないので、誤りすぎないことも大切だ。

6.みんなの前にいる。

レイオフの発表をおこなった後、CEOは従業員から見えるところにいること。社員はCEOに会いたがっている。CEOが気にかけてくれているかを知りたがっている。従業員の努力に感謝している気持ちを伝えよう。

■幹部解雇に至る際の根本原因。

幹部の解雇に至る場合、多くの場合は幹部の失敗ではなく、面接及び融合プロセスの失敗である場合が多い。具体的には、以下の理由が考えられる。

  • 役職の定義がそもそも間違っていた。

  • 長所ではなく、短所のなさを理由に採用した。

  • スケーリングを急ぎ過ぎた。

  • 期待値を明確にせず、一般的な役職で採用した。

  • 幹部が間違った野心を持っていた。

  • 幹部を会社になじませられなかった。

一方で、規模拡大による特殊なケースが存在する。会社の規模が4倍になり、その成長に幹部がついて来れなかったケース。規模が数倍に拡大した際、それに相応しい資格も再定義が必要となる。運よく、同じ人物が適応できる場合もあるが、多くの場合、新しいポジションに最適な人物を雇う必要がある。これは、幹部の失敗でも、システムの失敗でもない。そういうものなのだ。

■幹部解雇の手順。

1.理由をはっきりさせる。CEOは解雇について深く考えてきたはずだ。言葉を濁したり、取り繕ったりしてはいけない。CEOには、解雇理由を明確に伝える義務がある。

2.明確な言葉を使う。結論を出さずに議論を終わらせてはいけない。これは、勤務評定ではない。解雇通告なのだ。私はこう決めたとはっきり伝えるべきである。

3.退職金の承諾を取り、説明する準備をしておく。解雇通告を受けた幹部は、もはや会社のことには関心がなくなり、自分と家族のことに集中するので、退職金の詳細を説明できるように準備しておく。

4.解雇される幹部の自尊心に配慮する。著者の経営の師匠であるビル・キャンベルは「きみは彼に仕事を続けさせることはできないが、彼の自尊心を守ることは、間違いなくできるんだよ」とアドバイスした。

どのCEOも、自分がすばらしい会社を経営していると言いたがる。その主張が真実かどうかは、会社またはCEOが本当に困難な状態に直面するまでわからない。幹部の解雇は、それを試す良い機会だ。

■親友を降格させる際の留意点。

大切なことは、全社の利益を考えて優先すること。その結果、親友を降格させる必要があるのであれば、それに向き合わなければならない。

伝える際には、屈辱と裏切りという2つの感情に配慮する必要がある。

  • 屈辱:屈辱という感情の大きさを軽く見てはならない。降格される友達の友達、親戚、そして同僚の誰もが、現在の彼の地位を知っている。彼がどれだけ一生懸命働き、会社のために犠牲になってきたかもみんなが知っている。自分はもう経営チームの一員ではなくなるなんて、周囲にどう説明できるというのか。

  • 裏切り:降格された親友はCEOに対して、間違いなくこう思う。私は最初からここにいた。いつもきみと一緒に働いていたのに、どうしてこんなことができるんだ。きみだって、仕事を完璧にこなしてきたわけじゃない。どうして、私を裏切って平気でいられるのか。

こういうときの感情は強烈なので、激しい議論を覚悟しておかなければならない。感情的な議論の秘訣は、議論から感情を抜き去ることにある。自分が何を決断し、何をしたいのかについて、非常に明確な考えを持つ必要がある。

友人を降格させる際に留意すべきなのは、現実は現実であり、CEOが何を言おうと、それで何かが変わったり、ひどく動揺する事態を止められる訳ではないということだ。CEOの目標は、痛みを和らげることではなく、誠実、明瞭かつ効果的であることだ。友達はすぐには理解してくれないかもしれないが、時間と共にわかってくれるだろう。

■友人の会社から採用しても良いか。

CEOは一般的に、ビジネス上で多くの友人を持ち、友人の会社を侵略することは確実に友人をひとり失う方法であることを知っている。にもかかわらず、多くのCEOが友人の会社から社員を引き抜くかの決断を迫られる。そこには、以下の構造がある。

多くの場合、その対象者は、元々、転職を考えていた。最終のCEO面接で友人の会社の従業員であることを知る。その際、どうせ転職するなら、ライバル会社に行くのではなく、友人の会社に行った方が良いのではと都合よく解釈する。

ところが友人は、そうは考えない。一般に社員が会社を辞めるときは何かがうまくいってない時だ。つまり、友人は会社の存続をかけて戦っていると考えるべきだ。この状況で、優秀な社員を失うことほど友人を深く傷つけることはない。なぜなら、優秀な社員の退社は会社の終焉の先行指標であると解釈されることを恐れるからだ。更に、友人の会社の社員は、自社の社長は、友人に社員を引き抜かれることも阻止できない無能なCEOであると思うであろう。こうして、論理的な問題が、感情的な問題に変貌していく。

友人には、彼が最初で最後だと説明し、理解を得る。ところが、誰かが会社を辞めるということは、その会社に問題があるケースが多く、先に転職した社員を追って、他の社員も、あなたの会社の面接を受けるという事態が起こる。

その結果、友人の会社のマネジャー達が、あなたの会社が自分の部下をどんどん引き抜いているというクレームに発展し、友人は激怒する。そして、あなたと友人との間に大きな亀裂が入り、修復不能となる。

こうした事態を避ける解決策は、CEOの承認を得ずに採用していけない会社のリストを作成し、ポリシーとして運用することである。

■ヒト、製品、利益を大切にする。この順番に。

ネットスケープ時代の著者のボスの教え。ヒトを大切にすることは、3つの中でも頭抜けて難しいが、それができなければあとのふたつは意味を持たない。

ヒトを大切にするということは、自分の会社を働きやすい場所にするという意味だ。ほとんどの職場は、良い場所とはかけ離れている。

組織が大きくなるにつれ、大切な仕事は見過ごされるようになり、熱心に仕事をする人々は、秀でた政治家たちに追い越されていき、官僚的プロセスは創造性の芽を摘み、あらゆる楽しみを奪う。

良い組織では、人々が自分の仕事に集中し、その仕事をやり遂げれば会社にも自分自身にも良いことが起こると確信している。こういう組織で働けることは真の喜びだ。誰もが朝起きたとき、自分のする仕事は効率的で効果的で、組織にも自分にも何か変化をもたらすとわかっている。それが、彼らの仕事への意欲を高め、満足感を与える。

一方で不健全な組織では、みんなが多くの時間を組織の壁や内紛や崩壊したプロセスとの戦いについやしている。自分の仕事が何なのかさえ明確になっていないので、自分が役割を果たしているかどうかを知るよしもない。

■動画版は、こちら。

■本書で紹介されている教育、人事、社内政治に関する処方箋。







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マルセロ| 事業プロデューサー
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