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産業再生機構 冨山和彦氏が語る日本企業の病理と処方箋

冨山氏は、旧産業再生機構の最高執行責任者としてカネボウ再生に辣腕を奮った後、大手企業の社外取締役や政府の各種委員会の委員としてもご活躍されています。

数々の企業再生の現場での経験を通じ、現在の日本企業が抱える病理に関し、鋭い指摘をされています。1960年代に確立した日本型経営モデルは、既に時代遅れになっているにも関わらず、従来のモデルに固執し、現在の環境に相応しい形に対応できていないと指摘します。

1960年ごろ、私が生まれて以降ですね、そこからは大量生産、大量販売の時代。改善や改良が大事にされ、欧米に追いつけ追いこせでキャッチアップするということでやってきました。それで、欧米に追いついき追いこした、ジャパンアズナンバーワンなどと言っていたら、結局、日本の成功モデルはすでに古びてしまっていた。

出典:The Asahi Shimbun Globe+

そもそも、日本式企業の仕組み、つまり終身雇用や年功序列といった高度経済成長期に作られた会社の仕組みは、ネットワーク化が始まった1990年代で終わっていなければいけないものでした。それが、30年も引きずって今日に至ってしまったのは、会社の仕組みに合わせて社会保障を含めた社会全体のシステムが作られていて、違うシステムに移行できなかったからです。

出典:Venture for Japan

冨山氏は、経営を担うリーダー層の脆弱化が一番の問題であると指摘します。問題が起きた際、真っ先に責任を取らなければならないのが経営者。残念ながら、自分の地位や立場、保身などを第一に考える最も経営に向いていない人たちが経営を担ってしまったことが問題であると産業再生機構での実体験から指摘します。

産業再生機構は、41の企業グループを支援しました。支援対象を決定する際には、デューデリジェンス、 つまり会社の資産や経営の状態を詳しく調べます。支援をした会社は41でしたが、実はその倍以上、100以上の会社のデューデリジェンス、すなわち健康診断を我々は行いました。

何らかの打診だけで終わった会社は実はさらにその倍以上になります。デューデリジェンスが終わると処方箋を書くことになります。このくらいに債務を圧縮する必要があると銀行に突きつけなければなりません。企業に対してはこの事業は将来性がないので売却撤退するべきだ などかなりの外科手術的な提案をします。さらに言えば多くの場合、会社を窮地に落とし入れた経営人は替わらねばならないという処方箋になることがほとんどでした。

100以上の会社のデューデリジェンスをし、処方箋を書きましたがその処方箋について銀行と対象企業の経営者の両方から承諾いただけたのが41件しかなかったのです。一番多かったのが経営者自身が支援の依頼を取り下げたケースでした。どうして会社が窮地に陥ったのかを 顧みることなく、経営者は自らのポジションに 文字通りすがりついたのです。

出典:書籍「会社は頭から腐る」

冨山氏は、個々の経営者を責め立てることに意味はない。むしろ問題は、なぜこういう人たちが経営をする国になってしまったのか。 なぜこういう人たちを起用することが許される企業統治システムになってしまったのか。この点を考えなければ、問題の本質的な解決にはならないと指摘します。

そして、問題の根源は日本独特の会社幕藩体制による人材登用システムにあると論を展開します。

こうした歪みを生んだ背景の一つが会社幕藩体制における人材登用育成システムだと私は考えています。大きな会社があり、その下に中小企業が下部構造として存在する。真ん中に幕府のように政府がある。ここでは学歴が重視され、年功序列、終身雇用の名門企業群が経済を引っ張っていく形になっています。

最大の問題は、この体制による繁栄が30年余り続いたことにより、経営人材の選抜育成の仕組みが、予定調和型に陥ってしまったことにあります。環境の変化に関係なく会社幕藩体制のあるべき姿に合わせて誰もが行動してしまったのです。旧来のシステムの中から、お行儀の良い優等生が選抜され、その後優等生リーダーたちは旧来のシステムとその中で形成された既得権構造を否定できない。

株式会社も社会体制も、そもそもそれを使いこなす人間様が、よりよく生きるための道具にすぎません。我が国における20世紀型の社会システムも経営モデルも同様です。その関係が繁栄の惰性の中で逆転していたのかもしれません。

これこそが日本の環境不適応、機能不全の要因の一つになったのではないかと私は見ています。そして、企業は何のために存在しているのか、真のリーダーはどのようにして選ばれるのかさえ体制の予定調和の中で本質が忘れ去られてしまったのではないでしょうか。

出典:書籍「会社は頭から腐る」

冨山氏は、日本は個々の人材は優秀で強い現場力を有する為、経営人材の再生、そして日本型経営の刷新がカギを握ると説きます。

日本企業の根幹的な競争力は、多くの場合、マネジメントの優秀性ではなかったように思います。現場の強さにこそあったのです。 しかし、社会の上部構造の脆弱化を放置していると、現場力という根幹の競争力を食いつぶしてしまいます。

産業再生機構での4年間、私は経営の難しさ、怖さを嫌というほど思い知らされました。だからこそ、経営力の大切さ、経営人材の重要さも痛感させられたのです。

今、世の中心を担っている私たちの世代は、自らも含めて脆弱化した経営人材を作り直していく、あるいはもう一度鍛え直せるような社会の仕組みを作っていかなければなりません。21世紀的な脈絡における経営人材の再生、そして真の意味での日本企業の経営力の再生。 それがなされて初めて日本経済は21世紀モデルへとバージョンアップできるのです。

出典:書籍「会社は頭から腐る」

動画版は、こちら。

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マルセロ| 事業プロデューサー
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