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【書籍紹介】仮説思考 内田和成 著

著者の内田和成さんは、ボストンコンサルティンググループ(以下BCG)で日本代表を4年間され、その後、早稲田大学大学院で教鞭をとられた方。著者が、BCGで駆け出しコンサルタントの頃、徹底的に教え込まれたのが仮説思考。すべてのコンサルタントの必須科目であり、ビジネスにも欠かすことのできない仮説思考の全貌を余すことなく解説した1冊です。

仮説とは、まだ証明はしていないが、最も答えに近いと思われる答え

仕事の早い人、仕事ができる人は仮説思考を実践しています。まだ十分な材料が集まっていない段階、あるいは分析が進んでいない段階で、自分なりの仮説を持つ。この仮説を証明していくというストーリーに沿って分析を進め、最終的にプレゼンテーションに仕上げる。

仮説を立てることで、やるべきことがクリアになり、無駄な分析に時間を割く代わりに、論点を深く考えることができます。結果、早く正確に問題点を発見し、解決策を導くことができます。

仮説思考の対義語が網羅思考。思いつくかぎりの課題をすべて並べて順番に力技で検証したり、関連する情報を網羅的に収集したりするため、問題の本質を見極めるのに膨大な時間を要し、その割に質の高い成果に繋がらない。

何を隠そう、駆け出しの頃の著者のことであり、当時「枝葉の男」と呼ばれていたというエピソードが紹介されています。

著者は、ビジネスパーソンにとって特に重要な資質として、①先見性、②決断力、③実行力の3点を挙げています。仮説思考を習得することで先見性と決断力を大幅に向上させることができます。

プロイセンの将軍で傑出した軍事参謀として名高いクラウゼヴィッツが、著書「戦争論」の中で以下の通り述べています。

 精神が予想外の事態を乗り越えてこの不断の戦いに勝つためには、二つの特性を必要とする。ひとつは、暗黒においても内なる光を灯し続け、真実を追究する知性であり、もうひとつは、そのかすかな光が照らすところに進もうとする勇気である。

先見性、決断力、実行力の重要性を説いた言葉であると著者は解説します。

仮説思考の使い手として、天才棋士、羽生善治の事例も紹介されています。自著のタイトルにもなっている決断力こそ、将棋で最も大切な資質であると羽生名人は断言します。

将棋には、ひとつの局面に80通りくらいの指し手の可能性があるが、その80をひとつひとつ、つぶさに検証するのではなく、まず大部分を捨ててしまう。80のうちの77、78については、これまでの経験から、考える必要がないと瞬時に判断し、そして、これがよさそうだと思える2、3手に候補手を絞る。

羽生名人は、直観に従って絞り込みを行います。これまでの対局経験の蓄積から、無意識に浮かび上がる直観の7割は正しいと語っています。直観に従って仮説構築をしていると言えます。

判断のための情報が増えるほど正しい決断ができるようになるかというと、必ずしもそうはいかない。私はそこに将棋のおもしろさのひとつがあると思っているが、経験によって考える材料が増えると、逆に、迷ったり、心配したり、怖いという気持ちが働き、思考の迷路にはまってしまう。将棋にかぎらず、考える力というのはそういうものだろう。

これは、ビジネスシーンにも応用ができます。問題の原因と解決策について、あらゆる可能性を考えるのではなく、経験に裏打ちされた直観に基づき、最初に仮説を立てるアプローチが有効であることを示唆しています。

ノーベル経済学賞を受賞し、人工知能の生みの親とも言われているハーバート・サイモンは、経済学、認知心理学、工学的デザイン論など広範な領域を統合して論じた書籍「システムの科学」の中で、直観とはすっかり習慣化された思考であると述べ、意思決定における直観の重要性を支持しています。

本書では、以下の4点について詳しく解説されています。

  • 仮説思考を身につけることによって、どんなメリットがあるのか。

  • どうしたら仮説を構築することができるのか。

  • 立てた仮説を検証し、進化させていくにはどうしたらよいか。

  • 仮説思考力を高めていくには日常どんなことをしたらよいか。

コンサルタントとしてビジネスの現場に長く携わった著者ならではの豊富な事例と仮説例が提示されており、具体的なビジネスシーンを想起しながら、仮説思考に関する理解が深まること間違いなしです。

ちなみに、仮説思考を高めるトレーニングは、日常のあらゆる場面で訓練する習慣をつけることと著者は説いています。これは、表現は違えど、脚本家の小山薫堂さん、マーケターの池田紀行さん、西口一希さんも同様のアドバイスをされており、これ以外の方法はない真理であると思います。

本書を読んだ私の所感は以下の2点です。

  1.  これは、まさに私がビジネスの現場で実践してきたことである。私自身、短時間で課題の本質を見抜き、ラフなストーリーを作ることを得意として来ました。

    ダウンサイドとしては、細部の詰めが甘いので、網羅思考の人から揚げ足を取られて苦しみました。その際、仮説思考という言葉を知っていれば、理論武装して反論できたのにと悔やまれます。

    本書の中で、日本の大企業では網羅思考の人が権力の座にあることが多く、それが成長を妨げているという趣旨の記載があり、首がもげそうなくらいうなずきました。

  2. 先日読んだ、「イシューからはじめよ」安宅和人著と極めて似ているなという印象を持ちました。発売時期は仮説思考が先なので、「イシューからはじめよ」は、仮説思考の重要性をベースに、仮説設定の手前にある問題設定をイシューと言い換えフィーチャーした本であると理解しました。あくまで、私個人の解釈です。

    「仮説思考」を先に読み、その後、「イシューからはじめよ」という順番で読むのが、より理解が深まるのでお勧めです。

■動画版は、こちら。

■「アウトプット思考」内田和成著の書籍紹介は、こちら。

■内田和成さんのお勧め書籍。





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マルセロ| 事業プロデューサー
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