破壊は電撃的に到来する─「破壊の形而上学 基本テーゼ」註解
あなたは、どのような日常を送っているだろうか?
毎日、学校や職場に行き、帰ってきて夕食を食べる。スマホに指を滑らせ、お気に入りのコンテンツをチェック。お風呂に入って、明日へ向けて眠りに就く。新たな朝は、またおなじように学校や職場へ向かうことによってスタートする。きっと、こうしたルーティーンがあるはずだ。
また、あなたが握るスマホ。そこには、いつもさまざまなニュースが表示される。だが、それらはどれも、いつかどこかで見たことがあるような出来事のたんなるバージョン違いでしかない。本質的になにも変わるところのない同型の出来事が、判を押したようにポンポンと世界に生まれてくる。
そうした出来事や事件に対して、SNSでも、判を押したような反応がポンポンと投稿される。怒ったり、共感したり、批評っぽいことを述べたり…。だれもが、いつかのだれかとおなじような仕方でコメントを投稿する。
わたしたちは、パターン化された出来事が生じる世界のなかで、パターン化された反応を示しながら、パターン化された日常生活を送っている。既知のものに塗り固められた日常。それはたしかに安全ではあるかもしれない。だが、どこか退屈だ。
この退屈な日常を叩き割り、新鮮さのそよ風を吹き込ませることはできないだろうか。日常のルーティーンを狂わせて、わたしたちを未知なる世界の冒険へと投げ込むような真の出来事。退屈を吹き飛ばし、生に興奮をもたらすような出来事。そうしたものがとつじょ到来することはないだろうか…。
わたしは、こうした意味での出来事を「破壊」と呼んでいる。ある状態を突き崩し、まったく別様な新たな状態をもたらす出来事が破壊だ。そして、破壊について探求する哲学的プロジェクトが、「破壊の形而上学」(以下、MODと略記)である。
拙著『暗黒の形而上学──触れられない世界の哲学』に収録された「破壊の形而上学 基本テーゼ (ver. 0.91) 」は、このプロジェクトの基本的な考え方を圧縮的にまとめた論稿になっている。本記事では、この「基本テーゼ」の内容を補足しつつ、そこから一歩進んだ新たな理論についても紹介することにしよう。
1. これぜんぶ破壊です
本記事が考える破壊は、通常のものとは異なった意味をもつ。通常の「破壊」概念がもつ限定性をぶち破り、はるかに拡張された意味で破壊をとらえることにしたい。「破壊の思弁に踏み入る者は、日常的な「破壊」概念を破壊しなければならない」(「基本テーゼ」1・5・1)。
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