【Whiskey Lovers】ジェムソン カスクメイツ IPAエディション ハイボール編
世の中には、一言で終われない事だって存在する。丁寧な無駄にこそ遊び心を込めたい。
「ウイスキー始めませんか?」
お気に入りのお店でカウンター越しに、確かにそう誘われた。
「好んで飲んだこと無いけど。よくわからないんだ。体質的に合わない気がするし。ハイボールを飲んだら、次の日頭痛が残る」
僕は、財布と相談して体よく断るつもりで軽く流した。
日に日にそのお店にウイスキーが増えていたのは知っていた。単純に青年はウイスキーが好きなのだろうと思っていた。
「コニシさん。女性が好きですよね。僕、ちょくちょくコニシさんの文章を読みますけど、ウイスキーに向いていると思うんです」
僕は、女性が好きだと数回しか書いていないのに、ちょくちょくしか読まない青年がなぜ、僕が女性を好きだと分かったのか理解に苦しみながらも、その反応を悟られないように返事した。
「もちろん、すべての女性が大好きだ」
青年は、その言葉に反応はしなかったが、大事な言葉を放つタイミングを逃さなかった。
「どういう女性か。そういうことをウイスキーでも、表現出来るんです」
僕は、青年が放つ言葉に引き寄せられているのを感じつつ、冷静を装っている。
「例えば、コニシさんがさっき言ったハイボール。あれは、文章で言うなら、起承転結の承と転がない、始まりと終わりのみを味わう、良いとこだけをいただく感じなんです」
僕は、青年が話すウイスキー論に妙な艶を感じながら、その話の続きが気になっていた。
「もっと、コニシさんには、全部を知って物語って欲しいです」
マスター・オブ・ウイスキーを目指している青年は、僕に背けたくなるような純粋な視線を送ってくる。僕は、その視線から反論出来ないように答えた。
「それは、私が女性の表面だけの良いとこどりしかしていないって言いたいのかい?いいかい?私は、今回の人生で女性の良いとこどりだけをして、我が人生に一片の悔いなしだなんて、次回の人生に向けて到底叫べないんだ」
僕は、僕の女性遍歴をそのまま語りたくなったが青年はそれをさせてくれなかった。
「良いとこどりのハイボールも、その全部を知っているワケではないですよね?だから頭痛が起きるんです」
青年は、僕の前に薄氷タンブラーを出した。飲み口が薄いグラスは、口当たりを邪魔しない。キレイに並んだタンブラーからその一つを私の前に置き、石川県のクラモト氷業から仕入れている純度が高いスティックアイスを容れてグラス全体が冷えるようにステアで回す。
グラスが冷えたら一度氷が溶けた水だけを捨てる。この一手間が、グラスと氷とウイスキーを近付ける。
そこへウイスキー30mlをそっと氷に当てないように、最初から氷と一緒に隣り合って存在していたかのように注ぎ、ステアでその熱を冷ます。
炭酸水の蓋を開け、120mlから130ml
をその門出をお祝いするように全体へ馴染ませる。ステアで決して引き裂くような手荒なマネはしない。そっと差しのべるくらいの混ぜかたでいい。邪魔にならないように。
炭酸は、8℃以上の空間では、その拍手を止めてしまうように、居なくなってしまうのだという。だから、グラス全体を冷やす一手間が大事なのである。
青年の手から完成されたハイボールが僕の元にやってきた。
純度が高い氷は、氷が存在しないようにその姿をウイスキーに寄せる。周りを気泡の祝福が補っていた。
「質がいいビールの樽で寝かせているので、キレがありハイボールによく合います。そして、この瞬間が一番美味しい時です」
僕は、人に誘われるままそのまま動くことを望まないタイプだが、ハイボールが放つ甘美な誘惑には勝てなかった。
裏にある苦労を感じさせない爽やかな後味が、近付けそうで近付けない女性の去り際を感じ、少し悔しくなった。
「10歳も年下の君に、私の女性遍歴を語らなくて本当に良かった。少なくとも、表面だけを見ていた私が味わうのには、もったいないくらいキレイだ。そっと見ているくらいがいい。そしてたまに触らせてくれたらもっといい」
青年は、少し間をあけて静かに頷いた。
「ね。もっとその全てを知りたくなったでしょ。それと、ウイスキーは蒸留されているお酒だからキレイで、身体に負担はかからないです。だから適量なら頭痛や二日酔いは軽減されます」
飲み過ぎ、手を出し過ぎと怒られた僕は、何事もほどほどにと誓いつつ、それが思う通りにいかないことを知っている。
なんのはなしですか
今回使用したウイスキーはこちらです。
ハイボールの飲み方は実践してみてね。
伊勢原でウイスキーを美味しく呑めるお店はこちら。
この街が楽しくなるのにやらない理由はない。
神奈川県伊勢原市沼目3-1-45
C'est la vie.(セラヴィ)
著 コニシ 木ノ子
監修 ちひろ