創作大賞感想 ホラーであっても、静森あこを読みたいと思った。
ホラーだなんて予想していなかった。人間が暗がりを歩くようでいて、切なくとも心灯る文学が来ると予想していた。受け入れるしかない。
私は、静森あこさんの文章が好きである。これは単純に好みの問題だけなのかも知れない。しかし、彼女が表現の一言を突き詰めて戦っているのが読めるから好きなのだ。彼女の表現はとてもキレイなのにどこか棘がある。退廃していそうで光っている。人間を信用しているようでしていないのかも知れない。そういう人が書く文章を読むのが好きなのだ。彼女の作品を読むのにいつも深呼吸が必要になる。流して物語を読むだけのものでなく、彼女だけの表現を味わいながら読むものばかりだからだ。
彼女の作品は、単体であっても世界観が独立していて、短冊に短く書かれた言葉を繋ぐようにキレイな短文が続く。それを短い文章だと感じることはなく、むしろ充実して今まで読んでいた。キレイな文章のその裏に感じる暗い部分が出ているからだ。短編にしてもどうしてこういう物語になったのかと考えたくなる。だから長編を書いたことがないのが信じられなかった。
私はホラーと聞いたのであまり感情を感じないように読み進めた。私は物語に入ってしまうタイプなので、怖いものを読むと怖い感情のまま挙動不審になるタイプだからだ。可愛いタイプなのだ。
物語を客観的に読むように遠ざけた分だけすぐに引き込まれてしまった。彼女の文体は、読み手をホラーに誘うのが似合っているのかも知れない。坦々と語られる主人公の綾香の心情がこれから始まる物語の怖さを増長させる。物語は、同窓会での成り行きで男と寝るところから始まる。
こういう場面を導入に自然に入れ込むのも好きだ。現実での人間は、ほとんどその場の空気に流されて動いている。頭と生き物としての自分は違うそれぞれの生き物だと表現している。
ここですでに、物語が現実と真実は違うと言っているようだった。男と寝たことで、引き金となって綾香が徐々に思い出すのは好きだった男の真実だ。
起きたことと、伝えられた真実と現実に挟まれた人間達は真実を隠して、現実を塗り替えて忘れ去ることでその後の時間を生きる。
そこを、受け入れられないのは被害を受けた側だ。記憶をたどる綾香は、自分の記憶と意図的に塗り替えた記憶と現実が違うことを知っていく。この流れのまま、真実が暴かれていくのかと思っていた。
とんでもなかった。
彼女が創る世界は、さらに別の世界と繋がっていて奇妙な時間と世界の連続になる。読み手が置いていかれそうな展開になるのだが、表現が補う。残酷な場面を描いてもキレイに感じてしまうから不思議だ。
私はもしかしたら今の私がいちばん綺麗なのかもしれないと思った。
これを感じる場面がとんでもない。
これは、残酷な場面で生きる言葉だと初めて知った。
彼女の表現は、見えないものを追いかけている気がします。この物語は、短期間で仕上げています。その過程も物語を投稿する合間のつぶやきで読めます。
どれだけ頭を回転させたか分かりませんが、ここまでの物語を創作するのは、なかなか出来ません。かといって、推敲に悩んで時間をかけたから良いものが出来るとも限りません。私が出来るのは、どんな理由だろうと完成されたものを読むことだけです。
その中でも、彼女の表現をいっぱい味わうことが出来て楽しかったです。物語の残酷さや怖さからするとおかしい感想になりますが、彼女の作品を読むのが楽しいです。
この物語は、もっと怖くもっと残酷に人の暗部を描けると思います。ホラーは、話の筋も必要ですが、彼女みたいに表現出来る書き手も必要だと思います。怖さの中にキレイを出せて感じるのが、映像とは違う文学の良さでもあると思います。私が好きな彼女の作品も一つ載せます。
もし私の感想が誰かに届くなら、この作品も読んで欲しい。エッセイの表現がまるで文学です。
なんのはなしですか
読んでもらいたい一心で書きました。と人生で二度と言われることはないセリフを言われて、ドキドキするだけで感想を書かないのは私の美学に反するので、全力を投じました。