最近の記事

蝉、最終

「そのセミはダメだよ、まだ元気だから。なるべく死にかけのを選んでカゴに入れて。」 私はそう言われると元気に鳴くセミを木に戻した。 私はお寺の奥にある木が入り組んだ所でセミを捕まえているので、たくさんのセミが私を取り囲むオーケストラのように鳴いている。 死にかけのセミを集めて何が楽しんだ、と私は思ったが、祖父が知人に掛け合って私にこの仕事を与えてくれた訳で、文句を言う訳にはいかない。死にかけのセミの方が捕まえやすいし、楽で良いかと自分に言い聞かして、死にかけのセミを探した。

    • 悪は存在しますか?

      "悪は存在しない"だって? 存在するんじゃないかな、少なくとも俺は見たことがあるよ 悪がどこに存在していたか分からないって?いや、簡単に見れるんだから存在するって言っても良いだろうよ カレーを作るときに見たよ、ほら取らなきゃいけないじゃない そう、そのカレーだよ。カレーを作る時に悪を良く見るじゃない 特に困ってはいないな、なんなら上手くいってたよ いや悪がないとちょっと不安になるだろ、ちゃんと調理されてるのかって カレーのどこら辺に悪が存在してるかって言われても

      • ラーメンの湯気はファンタジランドへ通ずる

        「女将さん、醤油ラーメン、大盛りで。」 周りの客も同じものを食べている。ここの名物だからだ。ある人は今日の新聞を読みながら、ある人は野球のテレビ中継を見ながら、ゾゾっと麺を啜っている。 隣に座ってラーメンを啜っていたサラリーマン風の男がいきなり、大きな声を出した。 「うわっ、なんだよこれ!」 周りの客は麺を啜る手を止めずに目だけを動かして彼を見た。 「女将さん!これ!入っちゃってるよ!」 そう言うと男はラーメンの中からカネゴンのフィギュアを取り出した。女将さんは、 「いつも

        • "raw"のものと"well-done"のもの

          「すみません。ステーキの"raw"のものと"well-done"のものを2つ。"well-done"のものは彼女に、"raw"のものは私にお願いします。後、赤ワインのデカンタージュを1つ、グラスは2つお願いします。」 私はそう言い終えると、ウェイターは戸惑った様子で厨房に向かって行った。彼はきっと新人で、"raw"のものと"well-done"のものと言われてもさっぱり分からないから上司に聞きに行ったのだろう。と私は思った。目の前にいる彼女はこのようなレストランに連れてきて

        蝉、最終

          俺はリアムギャラガーファッキンりゅうじ

          おう初夏だぜ 俺は元気かって?そんなことを聞く暇があったらマンチェスターシティーを応援しろ。 ファッキンファッキン。 俺はリアムギャラガーの生まれ変わりだ 見れば分かるだろう? ファッキンファッキン。 俺の目の前で痰を吐くんじゃねぇクソジジイ ファッキンファッキン。 テメェらセックスの話を歌うんじゃねえ あと前髪を切れ。 ファッキンファッキン。 最終電車に急いで乗り込んでくるんじゃねぇ 「乗れた〜‼️😁」じゃねぇよクソ お前らは襟足を切れ。 ファッキンファッキン

          俺はリアムギャラガーファッキンりゅうじ

          水道が止められたからカルディに行った

          ご覧の通り、水道が止まった。いくら蛇口を捻っても錆びた蛇口からは水が出ない。ここに越してから3ヶ月目である。何をするでもなく窓から顔を出していると隣人が話しかけてきた。元気かとその隣人は聞いて、私はぼちぼちであると答えた。季節は春の終わり頃で、歩くだけで汗が湿ってくる日も増えてきた。隣人は高齢で、手にはうちわとタバコを持って一本いるかと私に聞いた。私は快くいただいた。「実は、水道を止められてしまって」それだけ言うと隣人は「カルディに行きなさい。あそこには全てがある。」といって

          水道が止められたからカルディに行った