鉄筋老人コンクリート 全編
1.同級生は疾風のごとく
昨夜、35年ぶり?に中学校の同級生から電話があった。
覚えのない電話番号であったが、自宅を販売しているため、てっきり不動産会社からの電話だと思い出たんだが全く見当はずれの相手だった。
「とみちゃん久しぶり。元気にしてたか?俺や岩本や、ガンや。覚えてるか?」
懐かしい関西弁の響きでわかった。
同級生とは成人式以来。あの時は、大人数の怖い輩の皆さんを引き連れ、今と同じことを俺に言った。
「とみちゃん久しぶり。元気にしてたか?岩本や、ガンや。俺、やくざになってしもうたんよ。」と。
その同級生が今頃になってなぜ電話をかけてきたのか。
「とみちゃん会社退職したんやろ?この前ユカに聞いたわ。20年前に現役引退して今、老人ホームやってるんよ。笑うやろ。税理士と契約はしてるけどそっち方面まったくあかんやん俺。
俺のまわりで頭ええ人間ってとみちゃんしかおらんやん。今、仕事してなかったら手伝ってくれんかな」
意外だった。
まさか老人ホームを経営してるとは。組織を引退したからってどうやって立ち上げたんだろう。なぜに老人ホームなんだろ?少し興味がわいた。
「仕事しとるんか?」
「い、いや。まだ失業保険にお世話になっているので、そのうち探そうかと・・・」
「だったら手伝ってくれへん?給料そんなに出されへんけど頼みたい」
あまりに唐突だったので即答はできなかった。
私とは住む世界がもちろん違った。私的には想像もできない異世界で生きてきた同級生。
ほんとに手伝いだけが目的なのか?もしや退職金が目的なのか?
お盆明けに一度、話だけでも聞いてほしいとの意向だったので渋々了承した。
中学3年の時、父の仕事の関係で引っ越しを余儀なくされた。
高校受験の年なのに公立中学に転向するなんて、私の心は不満が満ち溢れていたと思う。
転校初日、今まで男子校だったので、女子がいるのに少し戸惑ったが、それ以上にまったく存在しなかった不良と呼ばれるであろう人種が、同じクラスにいるなんてドラマのようだと少し感動した。
転校生あるあるなのだが、不良の方々は、ドラマの影響か、転校生を呼び出す。それをリアルに実践されたのだが、体育館裏でなく屋上に呼び出された。
このパターンって殴られるんだろうか?転校早々気が滅入る。
逃げてもいつかはやられるのだろう。
かっこよく、転校生が返り討ちみたいなことは、もちろん期待なんてできるはずもなく。ましてや喧嘩は小学校低学年の1回きり。
とりあえず殴られてすぐ倒れよ。被害は、最小限に。
こんなことを思いながら屋上に向かった。
4人の不良たちが待っていた。
転校生に対する不良の常套文句がこだまする。
「おまえなまいきだよ」
今日初めて会って会話も何もしていないのにいきなり。
少し笑ってしまった。
「何笑ってんだこいつ」
「殺すぞ」
その時。
いきなり扉が勢いよくガチャンと開くと、ガタイのいい人が不良たちに突進し、一人をぶん殴った。
見る見るうちに2人目、3人目を殴り倒し、リーダーのような方だけが残った。
「こいつは俺の友達になるやつや。おまえら手を出したら俺が許さん」
「友達になるやつってまだ友達でもないやんけ」とリーダーは息巻いた(確か)
うんうん不良のいう通り。今、初めてあなたに会ったんですが。
「友達になることは決定しとるんじゃ。文句あるんか?しばくぞ」自称友達は一切引きもせず言い放つ。
不良たちはそれ以上何も言わず、屋上から立ち去った。
自称友達は、
「あいつらアホなんや。手あたり次第人殴りよるねん。俺ガンって呼ばれとる。よろしくな」と自称友達はあの人たち以上に不良っぽいカッコをしてるけどさわやかな笑顔で言った。
「ありがとうございます。殴られずにすみました」
「ええねんええねん。それより友達になろうぜ。俺は用心棒になったる。私立中学から来たんやろ。頭ええんやろ勉強教えてくれや。」
同級生との出会いは、こんな感じからはじまった。
同級生との電話を終え、昔のことを思い出した。
超不良だったけど、一緒に笑って怒って悲しんだ記憶がわいてきた。
組織をやめて老人ホーム。どう繋がりがあるのかわからないが、話だけは聞きに行こう。ただ、スタッフも同様に組織をやめた方ばかりだったら怖いなぁ。どうしょう。
ただならぬ不安が芽生える。
2.bibiriオンパレード
休み明けに老人ホームへ向かった。
聞いていた住所に到着すると、思っていた建物とは異なり、マンションを改装してるような作り。
へぇ、こんな感じなのか今の老人ホームって
ほんとに老人ホームやってんだ。
少しばかり、なぜか嬉しい感情が芽生えた。
入口で迎えてくれた同級生は、白髪まじりではあるものの35年経っても昔のまんまだった。
「久しぶり、元気そうで何よりや。来てくれてありがと,無視されたらショックやったわ、俺の知り合いで頭よくてまじめなん、とみちゃんだけやったから、ほんまありがとな」
半時間ほど事業内容とサポートする内容の説明を受けた。
サポート内容は、事務全般。
週に2.3日。
出勤は、夜でも昼間でもOK
時間単金は1100円
単金は、安いけど何もしないよりはましか。
そうそう、なぜ老人ホームの開設に至ったのかを聞いとかなきゃな
「一つマジに聞きたいんだけど,なぜ老人ホームなの?」
同級生は、一呼吸おいて話はじめた。
「うちのバァちゃん死ぬ時、俺アホやから刑務所に入ってたんよ。1人で亡くなってたんや。
コタツでテレビ見ながら。寂しかったやろな。
ほんま俺アホや。
だから1人でも寂しがらんようにしたんねん」
疑いのない同級生の魂が込められた言葉だった。
決めた。手伝うことに決めた
同級生は満面の笑みで何度も何度も私の手を握りしめた。
今日勤務のスタッフ7名に同級生から紹介された。
「今日から総務部長の通称とみちゃんがきてくれたんや。みんなよろしくやで、とみちゃん一言よろしく」
スタッフ皆さんの目をみてやる気を見せようと思ったものの、実際近くで皆さんを見ると、とても目をあわせて挨拶などできないような怖さ。
挨拶もカミカミになるほど、頭が真っ白になってしまった。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。」と軍隊、いや組織的に7名が声を揃えていったのでさらに驚いた。
スタッフの一人のおばちゃん(まだ当時名前をおぼえてなかったのでごめんなさい)がチキンのような私に
「あっ、睨んでる顔ではないよ、この顔。みんな真剣に聞こうとしている顔だから」
最後に自称「総務部」と表札のある部屋に通された。
3畳ほどの小さな部屋だったが「総務部」というこの場にそぐわないような企業的な言葉に違和感を覚えたのだが。
まぁ、初日からビビりオンパレードであった。ふぅ~
次回は
3.刺青の偏見
「母をこんな所に置いとけません。ホームを変えさせてもらいます。」
チサトさんの娘さんが吐き捨てるように言った。
本人のチサトさんは、下を向いたまま首をうなだれていた。
3日前
「明後日、娘夫婦と孫がくるの」
夕食の時、チサトさんは、笑顔で皆に言った。
「良かったね」
「久しぶりじゃない」
「うっくんにも娘紹介するね」
「では、よろしく」
少し凄みのある声でチサトさんに応えると
「そんな凄んだ声で言ったら娘怖がっちゃうわ」
「あははは、ちゃんと挨拶しますよ」
今日の食堂は、いつもより、更に笑い声が響き渡っていた。
土曜日の午前中にチサトさんの娘さん夫婦が来た。
車が止まると子供たちが「おばあちゃ〰️ん」とチサトさんの車椅子に駆け寄った。
さぁ、これからの時間は家族みずいらずの時間だな
午後をまわり、私も仕事が一段落したので食堂にコーヒーを飲みに言った。
ちょうど、チサトさんの部屋から皆さんがでてくるところだったのだが、朝とはウラハラに様子がおかしく思えた。
チサトさんの顔からは、笑顔がなくなり、元気なくうなだれており、娘さんは顔をこばらせている。
何かあったのかな?
娘さんは、近くのおばちゃんスタッフに園長を呼んでくるように伝えた。
「園長さん、わざわざ挨拶にきてくれたんだけど、うっちゃんさんでしたっけ、あの方刺青をしてるじゃないでか?他の男のスタッフの方も刺青の方多くないですか?母や入居者の方がとても怖がってるようなのですが、どうなっていらっしゃるのでしょう。このホームは?」
皆は慣れているので怖がってはいないけど、外から来たら違和感あるんだろうな。私も最初驚いたもの。
「はい、刺青いれているスタッフは多いですね。最初は、皆さん驚かれますね。でも、うちのスタッフは、誠心誠意皆さんに対応しており。よく働きますよ」
「そんな戯言を言ってるのではありません。怖がっていると言ってるじゃないですか。」
「誰が?怖がってるんだい?」
話を聞いていたのかヨキバアが問いかけた。
「そりゃあんた、人それぞれ過去はあるわさ。でもここの皆んなは家族同然に接して世話してくれてるよ。残り少ない命の私を毎日楽しませてくれる。それ以上に何を要求するんだい。あんたもチサトちゃんをホームに出してんじゃないのかい」
「出してるだなんて、いずれにしろ母をこんな所に置いとけません。ホームを変えさせてもらいます。」
「やめて!ちひろ」
チサトさんが大声で、いや、怒鳴った。
「私はここがいいの、あんたたちが家を建てかえるからホームに入ってほしいって言われた時は、お父さんと守ってきた土地だけど、残り少ない人生だからあなたに譲るべきと思ってここに来たわ。最初は、もちろん不安で刺青も怖かったし、孫たちにも会いたい。どうしてるんだろうとか泣いたこともあった。けどほんとに笑顔にすぐなれた。
それはみんなのおかげなの。毎日楽しくて」
旦那さんがチサトさんの車椅子に優しく触れ
「お母さん申し訳ありません。皆さんにも嫌な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。妻はお母さんのことを気遣って言動が行き過ぎてしまいました。」
「こちらこそ、刺青を隠すなりすればいいのですが、ある意味、素の自分を出して他人に認められなければ意味がないと行動き、き何だっけ?」
「規範」
「そそ、ホームの行動規範にしてまして」
それからは、淡々と娘さんが頭を下げ、子供達チサトさんも笑顔が戻り帰って行った。
刺青の市民権はまだまだ先かな?
4. 鉄筋老人 11月中旬掲載
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