空腹　#毎週ショートショートnote

森の中をさまよっていると、巨大な穴を見つけた。
中から肉が焼けるいい匂いが漂ってくる。

オレは、思わず声をかけた。

「おーい、誰かいるのかー？」
「おーい！」
人がいる！

「腹がへっているんだー！」
「それは難儀だなー」
「何か食べさせてくれないかー？」
「いいぞー！」
ありがたい。

「今、そっちに行くからー！」
「どうやってー？」

言われて穴の淵を見ると、つるりとした垂直な岩壁で足掛かりがない。

「君はどうやってそこに降りたんだー？」
「オレは落ちたんだー」

え？
深さもよくわからないこの穴に落ちて、よく無事でいられたもんだ。

「怪我はないか？」
「問題ない。快適だ。飯もある」

オレはもう一週間も飯を食っていなかった。

「落ちても平気か？」
「場所を選べば、大丈夫だ」

穴の中からは俺が見えているようで、飛び込んでも大丈夫な場所を指示される。

「ここでいいのか？」
「いいぞ」

俺は飛び込んだ。
飯だ！飯が食える！

落ちたところは、硬い岩盤だった。
ああ、そうか。
穴の中の君に贈る、我が肉体。
糧にして生き延びるがいい。

【毎週ショートショートnote】『ショートショート書いてみませんか？』お題発表！12/4｜たらはかに（田原にか） @tarahakani #note 

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