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久しぶりに育児が自分ごとになって、恐怖が押し寄せてきた漫画

noteから「連休中に読みたいマンガ」というお題が出ていたのだが、書く前に読みたいマンガを読み終わってしまった。
そのうえ、連休も今日でおしまいだ。
申し訳ない。
が、これぞという作品を満を持して紹介したい。

とにかく、読ませる引力が、すごい。
怖いのに、先を知りたくないのに、止められない。

「コミックDAYS」で数日の間、ちびちびと読んでいたのだが、待ちきれなくて、全巻一気買いしてしまった。
世間から何周も遅れている気もするが、そのタイトルを言わせてほしい。

「青野くんに触りたいから死にたい」 椎名うみ

現在10巻まで発売中だ。
以下ネタバレを含むので、本作を最新巻まで読まれた方だけ、続きをご覧になってほしい。(読んでもたぶん、伝わらないと思うが、それはそれでかまわない)


第一部の作中、どう見てもおかしいのは、メンヘラ気味のヒロイン優里ちゃんで、その恋人・青野くんは普通の好青年(幽霊だけど)に見えていた。
なのに、現在、展開している第二部では青野くんの、これまで表に出てこなかった負の内面が、暴かれていく。
彼が育った歪な幼少期のストーリーが、描かれるのだ。

最愛の夫を突然亡くし、息子二人を一人で育てることになった、青野くんのお母さん。
だいたいこういう時、王道人情漫画では、お母さんは細腕一本で、自分の楽しみなど後回しに、ハードな仕事をこなし、子どもたちを守り、立派に育て上げるものだ。
母は強しという、母性信仰である。

青野くんのお母さんは、そうはできなかった。
弱い人は、どう頑張っても弱いのだ。
彼女は、唯一の支えだった夫を亡くし、心を真っ黒に病んでいく。
そして、母親が壊れたひずみは、彼女より弱い、2人の息子に向かっていくのである。

子どもにとって、壊れた親が最悪なところは「好きでいさせてくれない、嫌わせてくれない」ところだと思う。
憎んでいいところで憎ませてもらえないと、正しく愛することもできない。

「青野くんに触りたいから死にたい」10巻54話より

私は、子育てしていた頃、世間をにぎわす悲惨な虐待事件が起きるたびに「これは、私だったのかもしれない」とよく思った。
親であらねばと抑圧され、自己犠牲を強いられるあまり、一歩間違えば、暴発して子どもを虐待死させてしまいそうな自分が怖かった。
パートナーに気持ちを理解してもらえない、孤独がしんどかった。

それは、私だけの心情ではなく、ネットにも同じような匿名の叫びがあふれていたので、みな同じように虐待の恐怖と闘いながら、孤独な日々を過ごしていたのだろう。
ギリギリのところで、踏ん張っていたのだなあと思う。
そして、踏ん張り切れなかった人たちが、たまたま、子どもを殺したのだろう。

崖っぷちで指一本ぶら下がっているような、あの気持ちを理解できないまま子どもを育てられた人は、幸せな人だと思う。
そして、たまたま殺されてしまった子供たちには、何と言って謝ったらいいのかわからない。
何もできなかった、助けられなかった。
力が無くて、ごめんなさい。

青野くんのお母さんが、壊れていく過程を見ることは、そんな昔のしんどい気持ちを思い出させることだった。
子育てが終わり、もう、当時の記憶を封印していいだろうと思っていたのに、いきなり生々しい塊を取り出して、顔面に押し付けられた気分だ。

ホラーマンガを読んで、自分の子育ての記憶が甦るとは思わなかった。
こういうマンガが世の中に出てくる要因がある限り、子育てを他人事として、自分から切り離してはいけないのだろう。
戒めだ。

「青野くん――」は、自分の一番見たくないところに引き戻され、向かい合わされるトリガーになるマンガなのだろう。
だから、こんなにも怖いのだと思う。

外にある闇より、内にある闇の方が怖い。
外の世界は知らないことがあっても当たり前なのに、自分の内側は知ってるつもりなのに真っ暗な物陰に何が潜んでいるかわからないのだ。
それを「見ろ、見ろ」と言われて、怖くないわけがないし、見ずにいられるわけもない。

しばらく、影響を受けることになるだろうな。
やだやだ。
でも、今一番続きが気になる漫画である。

**連続投稿459日目**

#連休中に読みたいマンガ

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はんだあゆみ
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