たたるくらいの本気の、恋。
「いっしょに時を刻んでいこう」
そんな口約束をしたわけじゃ無いけれど。
なぜだか歴代の彼氏から、腕時計を必ず貰ってきている。
薄ピンクのベルトに、文字盤やロゴがキラキラした、チャーム付きのもの。
シンプルなシルバーベルトに、ピンクベージュの国産もの。
紺のベルトにピンクゴールドの部分使いがしっくりくる肌馴染みのよいもの…。
それぞれが、その時々の彼氏が思い描く私のイメージや、そうなって欲しい雰囲気を投影したものなんだろう。
大抵がバッグのポケットの中につっこまれ、よく分からない重さとなって肩にのしかかっている。
思えばベッド下の引出しから随分日の目を見てないものもあるなあ。
いつの間にやら、私は27になり
ある日用を足している最中にふと
あと3年で30という事実に発狂した。
思わずタメの女友達に確認してしまった。
やる事なす事、ちゃんとできているだろうか。
中高時代に眺めてた、ドラマの主人公よろしく都内で暮らすOLになり
カードホルダーぶら下げて、財布片手にランチ行くようになっていた。
それもある日、気づいたらそうなってた。
あっという間でもないけれど
それなりにその時々のあれやこれや、感じて来た筈なのだけど
30年という時が、数字が、重く立ちはだかっているんだ。
この会社に来てまだ2年も経たないっていうのに、人生もうすぐ30年経過ってどういうこと?
もののけ姫で「たたり神なんかにならない」というフレーズがあったけど
「たたり神みたいな彼女に、妻に、母親になんかならない」
考えつく女の役割を当てはめて念じてみた。でもそんなところで、気づかないうちになってしまうんじゃないのか。怖い、怖すぎる。
それはそうと、最新の腕時計をくれた彼と、つい最近お別れをした。さよならを言われたのは唐突で、クリスマスプレゼントをポチってしまった後の私は、たたり神と化す・・わけでもなく。物わかりの良い年上女を演じ、それが別れの要因の一つとうすうす気づきながらも、そうせざるを得なかったのだ、彼の前では。たたり神になることを恐れて、本気の好きを引き出すこともできずに終わっちゃったなあ・・。
これを書いている今この瞬間、私の左手首が緋色を纏い、過去が今を刻んでいるのだけど。
もしもまた、新しい腕時計を贈られたなら。
この倒錯した現実を繰り返さないように・・
たたるくらいの本気の、恋をしたいと思う。