
オレゴンからどうしても日本に持って帰りたかったもの
今から約3年前、アメリカのオレゴン州から帰国する時どうしても日本に持って帰りたいものがあった。それはガーデン、仲間が集って野菜や果物を育てる菜園だ。オレゴン暮らしの中でガーデンはかけがいのない存在だった。美味しいものが詰まったガーデンは私たちの食卓を豊かに彩ってくれた。
西海岸にあるポートランドから車で南下して2時間の所に位置するユージン市、自然に囲まれた大学街は学生時代の留学を合わせると5年間暮らした故郷の一つだ。夏はあたり一面がエメラルド色に輝いているようなところだが、悲しいことに今年の夏は前代未聞の山火事でオレゴンは炎に包まれた。たくさんの人が家や大切な人を失い、多くの森林は燃えてしまった。灰と化したガーデンもたくさんあるはずだ。災害からの一日も早い復興を願いながらこの回想録をつづりたい。
エディソン小学校の菜園
ユージン市には市民が集う素敵な菜園がいたる所にあった。校庭、大学のキャンパス、公園、空き地、家の庭などでガーデニング仲間がお喋りしながら土を耕し色んな野菜や果物を育てていた。
ガーデンは眺めるだけでもワクワクする。ランドスケープ・デザイナーのネルソンさんが、エディソン小学校のために設計したスクールガーデンは、子どもたちが楽しく庭仕事ができるようなデザインが素晴らしかった。5月と6月に撮ったこれらの写真からもわかるように、美観に十分配慮されている上遊び心もいっぱいだ。一目でこのガーデンのファンになった。野菜の標識からは子どもたちの絵ごころが伝わってくる。
シュガースナップピーのツルが麻ひもに絡まって空へ向かって上っていく。マメ科のお花は格別にいい香り。チェリートマトは赤や黄や橙色のが大きくて艶やか、とても甘い。オレンジ色のナスタチウムや淡い紫色のハーブの小花ではミツバチがぶんぶんと歌いながら花粉浴をしている。手作りの木製ベンチでは子供たちがゆっくりと植物を観察したり味見したりできる場所だ。ふかふかのウッドチップのじゅうたんも足元に優しい。美しく心地よい空間になるよう植物の配置が工夫されている。
このガーデンはお気に入りのお散歩コースで、特に夏の夕日と星を一緒に見られる時間帯に娘とよく夕涼みに出かけた。深呼吸をすると5感が解き放たれる。収穫されず地面に落ちているサンゴールドトマトを「ラッキー!」とつぶやきながら拾って大切に持ち帰った。夏の野菜は色鮮やかで力強くエネルギーをたくさんもらえる。
このスクールガーデン、このまま日本の小学校に持って行ってあげられたらと何度も思った。美味しくて食べられる菜園があったら子供たちも喜ぶだろうな。日本の学校で見かける花壇はPTAや近所の人が丁寧に手入れしていて色んなお花が植えられている。それも素敵だけど、そこに美味しいものが植えてあったり植物と戯れられる空間だったらどんなに楽しいことだろう。
そうだ、ガーデンのお持ち帰りは無理でも、それを作って育てるための知識とスキルを身につけて持ち帰れるかもしれない。私は当時在籍していた大学院の仲間たちに勧められてスクール・ガーデン・プロジェクトというNPOのお手伝いをすることになった。(続く)