「もう時代遅れなのか?」若手社員が忘年会に参加しない本当の理由とは
40代後半にさしかかった私は、社内で若手との距離が広がっていくのを肌で感じていた。
部署の忘年会の案内をしたが、若手社員から返ってくるのは、「すみません、今年は参加しません」の無機質な返事ばかり。顔を合わせた時も、彼らの目には「忘年会なんて業務でもないのに…」という冷めた視線が見える気がする。長年「忘年会は大事な場」だと思ってきた私にとって、これほどの衝撃はなかった。
「これが今の時代か…。Z世代だなんだと呼ばれる連中には、もう俺の考えは通じないのか?」
深い溜め息が出る。焦りと虚しさが入り混じり、次第に私の中に疑問が膨らんできた。私の経験ややり方が、もう古くさくて通用しないものなのか? 迷いを抱えたまま、私は新橋にある行きつけの居酒屋に向かうことにした。
カウンターに座り、一口目のビールを飲み干したところで、田代が現れた。入社以来20年の付き合いだ。悩みを打ち明けるときは、いつも彼だ。
「また若手のことで悩んでるんだろ?」田代は、私が声をかける前からすべてを見透かしていた。私はビールをもう一口飲むと、焦りと苛立ちが混じった言葉が自然と口をついた。
「忘年会の誘いを断るなんて、俺の時代じゃ考えられなかった。もう俺の考えは通用しないのか?若手にはただの時代遅れの上司ってことなのか?」
田代はビールを持った手を止め、眉間にしわを寄せて私をじっと見つめた。
「森野、お前本気で言ってんのか?」
田代の問いかけに、私は言葉を失った。田代は私の反応を見て静かに続ける。
「よく聞けよ。今の若手が忘年会に消極的なのは、業務時間外で付き合う意味が分からないからだ。そもそも、忘年会って絶対じゃないぞ」
「絶対じゃない…?」私はつぶやいた。田代は頷き、言葉を重ねる。
「俺たちの時代じゃ、『忘年会は会社の一員として当然の場』だったが、今はそうじゃない。むしろ、彼らが必要としているのは、無理に参加する場じゃなくて、自然にコミュニケーションを取れる場所なんだよ」
彼の言葉に、頭をハンマーで殴られたような衝撃を覚えた。「ただ形式だけで若手を巻き込むのではなく、本当に彼らが話しやすい場を作るべきなんだ」と私は気づき始めた。
田代の言葉が胸に突き刺さる。翌日、私は若手社員に、「今年の忘年会は自由参加だけど、もし集まりたいと思うなら、他の形も検討している」と伝えてみることにした。
その日の昼休み、部下の浅井が私のところに近づいてきた。
「森野部長、ちょっと相談なんですけど、業務時間中にみんなで話せる場があったら、忘年会より気軽でみんな嬉しいかもしれないです」
若手の一人から聞いたその言葉に、私の胸に小さな希望が灯るのを感じた。彼らが自然と話せる場、それは形式にとらわれない新しい集まり方だ。
年が明けてから、私たちの部署では「ランチ交流会」を始めることにした。業務時間内での短い交流の場だが、思いのほか若手も含め多くの社員が集まってくれた。これまであまり接点のなかった社員同士が自然と打ち解け、想像以上の反応に私は驚いた。
ある日、浅井が突然声をかけてきた。
「部長、こういう場があると気軽でいいですね。実は、忘年会や新年会って気を使ってしまうところもあって…」
彼がぽつりと漏らしたその言葉に、私は思わず笑顔を浮かべた。これまで「古い」などと揶揄されていた自分が、若手と自然に話せる場を作れたのだ。気を張らずに、心から話せる場を彼らも求めていたのだと知り、安堵と誇らしさが胸を満たした。
その夜、再び田代と居酒屋で一杯やりながら、ランチ交流会の成功を報告した。
「田代、ありがとうな。お前のおかげで若手ともいい関係が作れたよ」と告げると、田代はニヤリと笑った。
「だから言っただろ?若手を巻き込む方法は一つじゃない。お前の言葉が彼らに響いたってことさ」
私は軽く肩をすくめた。「また次は、さらに面白い場を作ってみせるよ」
田代と乾杯し、これからも続くであろう彼らとの交流に思いを馳せた。
次の日、出社すると浅井がまた私のもとへやってきた。
「部長、今度は新年会も、業務時間内で軽く集まる程度で…」
私は笑いながら、「お前もずいぶん馴染んできたな」と肩を軽く叩いた。
こうして、若手との関係は少しずつ前向きなものへと変わっていくのを感じた。
私のテーマは「人生の試練が教えてくれたリアルなストーリ」を1日1話発信。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう!
@morizo_23
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