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「最近の若い奴は……」を言い続けた結果、部下に見限られた話

「森野さん、どうして言ってくれなかったんですか?」

営業チームの最若手、高橋が目を潤ませながら私を睨みつけている。その顔は、怒りとも悲しみとも取れる微妙な表情だった。

数日前、高橋に任せた資料に致命的なミスがあった。クライアントの名前を誤記したまま提出してしまったのだ。結果、私はクライアントに直接謝罪をする羽目になり、高橋は何事もなかったかのように机に向かっていた。

「どうして僕を叱らないんですか!僕が悪いって言えばいいのに!」

その言葉に、私は一瞬言葉を失った。叱らないことが逆に彼を追い詰めているのか。新世代の感覚に、私は戸惑いを覚えた。

デスクに戻りながら、私は同期の佐藤に愚痴をこぼした。

「最近の若い連中はどう接したらいいんだか……。叱ればふてくされるし、叱らなければ責められる」

佐藤は笑いながら肩をすくめた。「俺たちが新人の頃は、叱られて当然だと思ってたけどな。今は時代が違うんだろうよ」

頭では理解しているつもりだったが、胸の内は晴れない。このままではチーム全体のパフォーマンスに影響が出る。何かを変えなければいけないのはわかっていたが、その具体策が思いつかない。

翌週、マネジメント研修に参加する機会が訪れた。講師は、社員教育の第一人者として名高い人物だった。

「今の若い世代には、具体的な指導と小さな成功体験が必要です。そして、一歩踏み出した勇気を認めてあげること」

講義の内容は目から鱗だった。これまで私は、新人には自分で考えさせるべきだという信念を持っていた。しかし、それが彼らを動けなくしていたのだ。

講義の終盤、講師が放った一言が胸に刺さった。

「失敗するのを怖がるのは彼らだけではありません。上司だって、部下に失敗させることを怖がっていませんか?」

翌日、私は高橋をランチに誘った。彼は最初、戸惑ったような表情を浮かべていたが、次第に打ち解けて話し始めた。

「僕、いつも間違えるのが怖いんです。森野さんが何も言わないと、それがさらに怖くなるんです」

彼の言葉に、私は改めて自分の指導方法を見直す必要があると感じた。その日から、具体的な指示と小さな成功体験を積ませる指導を始めた。

「高橋君、このデータを調べてみてくれ。それが終わったら次の作業を頼むから」

最初の頃は戸惑いながらも、彼は次第に自信をつけていった。そしてある日、クライアント向けプレゼン資料の作成を彼に任せることにした。

「森野さん、本当に僕に任せていいんですか?」

「失敗したっていい。それが成長につながるから」

プレゼン当日、高橋は少し緊張しながらも堂々と自分の提案を説明した。途中、クライアントから鋭い質問が飛んだが、高橋は冷静に答えた。

会議が終わり、クライアントが笑顔で握手を求めてきた。

「素晴らしい提案でしたよ。このプロジェクト、ぜひ進めましょう」

その瞬間、高橋の顔に浮かんだ安堵と喜びの表情を、私は一生忘れないだろう。

数日後、デスクで仕事をしていると、高橋が新人社員を指導している姿を見かけた。

「最初は具体的な目標を一つずつクリアしていくんだ。失敗なんて怖くないよ」

その言葉に、私は思わず微笑んだ。

「あいつ、少しは成長したな」心の中でそう呟くと同時に、私自身も彼から学ばせてもらったことを実感した。

その日の終業後、佐藤が私のデスクにやってきた。

「森野、お前、最近雰囲気変わったな。若い連中との接し方、コツでもつかんだのか?」

私は少し考えた後、こう答えた。

「まあな。奴らに教えてやってるつもりが、逆に俺が育てられてる気がするよ」

佐藤は大笑いしたが、私は本気だった。

新人たちとの関わりを通じて、自分自身もまた成長を実感していた。

私のテーマは「人生の試練が教えてくれたリアルなストーリ」を1日1話発信。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう!
@morizo_23


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