「最恐上司との闘い」──理不尽な日々との決別

その日、私はパソコン画面に映る報告書を何度も見直していた。ようやく完成したにもかかわらず、心は晴れない。不安がぐるぐると頭を駆け巡る。理由はただ一つ──黒木部長だった。

黒木は、社内で恐怖の代名詞とされる存在。あの冷たい視線、そして部下を無慈悲に追い詰める姿勢から、陰で「鬼の黒木」と呼ばれている。彼に目をつけられた社員が笑顔で戻ってきた例など、聞いたことがなかった。

突然、彼の低く冷え切った声が背後から響く。「報告書はまだか？」不意打ちに心臓が跳ね上がる。振り向くと、鋭い目が私を鋭く見据えていた。

「…はい、準備ができ次第すぐに…」答えようとしたが、声が震えている。

「準備？」黒木は鼻で笑う。「時間がないと言っただろう。すぐに持ってこい！」冷酷な命令口調が私を押しつぶすように響く。

冷や汗を背中に感じながら、私は報告書を手に、彼のデスクへ向かった。黒木部長の怒りを買えば、自分のキャリアは簡単に壊されてしまうことを誰よりも知っているからだ。

黒木のデスクに近づくと、彼は私を冷たく見下しながら、報告書を手に取った。一枚一枚をじっくりと読み進める顔は、まるで狙いを定めた獲物を逃がさぬ鷹のようだ。

「これは何だ？」突然、彼が報告書の一部を鋭く指差しながら問い詰める。私の中で緊張が一気に沸騰する。

「その部分は数値を訂正したばかりで…」言葉を詰まらせながら答えるが、黒木の目は更に冷たくなる。

「訂正？お前がその程度の訂正で何か変わるとでも思っているのか」冷笑を浮かべながら、黒木は私を侮蔑するように睨む。報告書がまだ不十分だと感じていることは知っているが、それを一瞬で全否定するその口ぶりには、理不尽さと敵意が滲んでいた。

心の中で反論しようとしたが、黒木の鋭い視線に言葉が喉で詰まった。「…この人には、絶対に勝てないのかもしれない」と、逃げ出したい気持ちが込み上げてきた。

その夜、どうしても気持ちが収まらず、同期の田代と居酒屋で飲むことにした。田代は、頼りになる友人であり、社内でも数少ない黒木の影響を受けずにものを言える存在だ。

「黒木さんにビビってる場合じゃないって。お前はもっと自分の力を信じていいんだよ」田代はビールを注ぎながら、私に一筋の希望を与えた。

「でも…黒木部長のやり方に異を唱えると確実に潰される。今まで反論した社員がどんな目に遭ったか、知ってるだろ？」

田代は静かにうなずき、「じゃあさ、逆に考えろ。黒木さんの思いもよらない角度から攻めるしかない。何かアイデアがあるだろ？」とアドバイスをくれた。その言葉が胸に響き、私は翌日から黒木部長の盲点を突く提案を練ることにした。

ついに、提案を発表する日が来た。会議室に入ると、黒木の視線が私を貫くように見つめている。冷や汗が背中を流れ、喉がカラカラに乾いていたが、田代の言葉を胸に必死に自分を鼓舞した。

「この提案の目的は、従来のプロセスを変更し、コスト削減と生産性の向上を図ることです」黒木が気づきにくい点を強調し、彼のやり方を暗に否定する内容を少しずつ盛り込んだ。

「ふん、だが実行に移せるのか？」黒木は冷たく嘲笑し、こちらを試すように口元を歪める。

「はい、その準備は整えてあります」私は視線を外さずに答えた。全員が黒木の反応を見守る中、彼は数秒沈黙し、冷たくうなずいた。

「まぁ…試してみる価値はあるかもしれんな。」しぶしぶといった口調で言ったが、確実に黒木の意に反する提案を認めさせた瞬間だった。

私の提案が採用されたプロジェクトは順調に進み、期待以上の成果を上げた。しかし、数週間後、思わぬ知らせが舞い込んだ。黒木部長が異動になったのだ──新しいポジションは営業部門の管理職。実質的には左遷であり、社内でも噂が飛び交っていた。

「黒木部長が…あの鬼の黒木が左遷？」社内で囁かれる言葉に、私はどこか不思議な安堵を感じていた。

そして、異動の前日、黒木部長が私の前に現れた。あの冷たい眼差しではなく、どこか虚ろな目つきで、ひと言だけ呟いた。

「お前、いつか俺のようになるなよ…」

彼が何を思ってその言葉を口にしたのかは、今も分からない。彼が抱える苦悩や、その裏にあるものを知る機会は二度とない。しかし、私は自分を信じ、成長することを心に決めた。黒木のように部下を追い詰めず、正面から挑戦を乗り越える強さを持って。

私のテーマは「人生の試練が教えてくれたリアルなストーリ」を１日１話発信。ビジネスや人生に役立つヒントや気づきをお届けします。迷いや悩みが生まれた時は、一緒に地図を広げ、進むべき道を探していきましょう！
@morizo_23