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バイトの現場で仕事の説明が上手い人、ほとんど存在しない説

これはリアル、対面・口頭での話です。いくらでも時間をかけて準備できる文章や動画は対象外とします。

世の中、アルバイトの現場において仕事の説明が上手い人って、ほとんど存在しません。だから、次の春から初めてバイトをする学生の皆さん、説明を聞いて一発で飲み込めなくても、たぶんあなたの理解力が低いせいではないです。安心してください。

それでは、説明の上手い人が少ない理由を説明していきます。



①全体像からでなく目先の作業を説明してしまうから

これが最大の理由です。会社あるいは店としてどういうフローになっていて、何がしたくて、そのために何をどんな優先順位で行っているのかーーという全体像を最初に説明されれば、頭のいい皆さんなら初日から効率のいい動きができるはずです。ところが、この説明をできる人は滅多にいません。少なくとも僕が出会ってきた中では皆無です。

せめて「Bという目的があってAを行う」と言ってくれれば、Aという作業の解像度が格段に上がるのに、みんな「とりあえずAやって」と言ってしまうので、そこにどういう目的があるのか、指示された側はおいおい察していくしかありません。僕の考えでは150%不要な戸惑い期間です。昭和脳のじいさんたちが初々しさを眺めたくてわざと石化しているのではと疑うレベルです。

しかし、僕にも身に覚えがあります。

劇団の演出家をやっていた頃、「目先の細かいダメ出しじゃなくて、作品の全体像を伝えてほしい」と度々言われていましたが、なかなか改善できず、細部の調整ばかり言い続けていました。指示が具体的なので、初心者を短期間で中級に押し上げるには適した指導だったはずですが、ある程度経験を積んだ役者なら当然物足りなくなります。

全体像を説明できない理由としては、なんかそんな改まったことを言うことへの気恥ずかしさ、神は細部に宿ると言われているのだから細部から全体を察してくれという思い上がり、その二つの合算のようなものだったと思います。指示される側に回ってみると、目先のことしか言えないダメさがよくわかります。

念のため補足しておくと、全体像というのは、「企業理念」とか「今月の目標」みたいなフワッと薄っぺらく現場にとっては何の意味もない精神的なやつではありません。そういうのは壁にでも貼っておいてください。たとえば搬入・陳列・在庫管理が具体的にどういうフローになっているのかという話です。僕の演出は具体的過ぎましたが、業務の説明は具体的でなければいけません。


②新人を賢さを信じていないから

これは、目先の作業にかまけて全体像を説明しない理由の一つでもあります。

新人が「何も知らない」のはまぎれもない事実ですが、なぜか「論理的思考力を持っていない」と決めつけている人が大勢います。実際、論理的思考力が低い新人はいるでしょうから、もう全員低いものと決めつけてマニュアルを組んでいるのかもしれませんが、僕の経験上、相手の頭は良いものと仮定したほうが物事の説明は上手くいきます。

人は、相手が自分のことをどう思っているか、結構敏感に察するものです。初対面からバカだと決めつけてくる相手を尊敬しませんし、その人のために尽くそうとも思いません。逆に、「この人は自分のことを賢いと思っている」と察すると、自然と敬意が湧き、不思議なもので実際に賢さも上がります。


③説明には特殊能力が必要だから

「1.仕事ができる」と「2.人が良い」と「3.話(独白)が上手い」と「4.話(対話)が上手い」と、「5.説明が上手い」は、全部別々の能力です。

自分自身は仕事ができても、それを上手く他人に説明できるかどうかは別の話です。大きな障壁となるのが自分はすでにわかっているという事実です。そして、多くの人間には「当たり前過ぎることは話したくない」という性質があります。

たとえば、受験生に対して「受験頑張ってね」とは言いませんよね? 何を頑張るのかは明白なのだから普通は「頑張ってね」とだけ言うはずです。ちなみに、下手くそな脚本だと、相手が受験生であることを会話の中で説明しようとして「受験頑張ってね」と書かれていることが珍しくありません。俳優はさぞ苦労するでしょう。

僕が現在本業で関わっているインタビューの仕事でも、人間当たり前過ぎることは言いたくないんだなと感じることがしばしばあります。媒体が業界人向けの専門誌ならともかく、一般人向けなので、「相手にとっては当たり前過ぎるであろう事柄」を、平易な言い換えを含む相槌や、「〜ですよね?」という文法で確認しています。

仕事を上手く説明するには、自分にとっては当たり前過ぎる、本能的には言いたくない内容を今さらわかりやすく話す能力が求められます。ある意味、仕事がバリバリできる人ほど苦手かもしれません。

独白が上手い人は説明も上手いのではないかと思われるかもしれませんが、逆まであり得ます。何故なら、説明は相手の様子からより適切な言葉選び・順序を適宜修正していくことが重要だからです。独白は聴衆向けのエンタメであり、説明とはまったく別物です。

人が良いことや、対話が上手いことは、イコールではないけれど説明の上手さと親和性があります。説明は一方通行で済むものではなくコミュニケーションだからです。極端な話、説明が下手でも、質問をしやすい空気があり、聴く側の質問が上手ければそれで解決です。


④上手い説明を受けていないから

人は基本的にオリジナル技を編み出しません。自分が新人の時に受けた説明を踏襲します。その説明が上手かった確率は低いので、下手な説明が代々継承されていきます。


⑤何とかなっているから

新人が「上手い説明さえあれば一発で理解できるようなことを何日もかけてじわじわ察していく」というのは、本人にとってはクソ期間で、客観的に見て実に愚かしいことでありますが、企業にとっては大した問題ではないのでしょう。収益に響くなら優先的に改善しているはずであり、そうではないから放置されているのです。

多くの場合、ほとんど仕事はすでにルーティン化され、それで勤務時間が埋められており、新しい問題を見つけて解決しようと取り組むと、
・問題内容の調査
・解決策の研究
・実験及び検証
・マニュアルの制作や変更
と、なんだかんだで面倒なことになります。よって、軽微な問題は捨て置かれがちです。

これは企業に限らず、人間が二人以上いる時、常にそうです。そもそも「何か問題がある」と申し出ることで亀裂が生じかねません。だから、多くの場合、問題を放置して、我慢してしまいます。

一人なら気楽なものです。「これは問題だ」と感じたら、誰にも相談せず、誰の承認も評価も必要とせず、さっさと解決に向けて動くことができます。人間が一人でできることは限られていますが、機動力に関してはソロが最強で、集団は頭数が増えるほど鈍重になるものです。


以上、仕事の説明の上手い人が少ない理由の説明でした。文章なのでスラスラと書いてきましたが、これを口頭で澱みなく話す自信は僕にもありません。

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