森山智仁

脚本家・フリーライター。NovelJam2018で小説家デビュー、山田章博賞受賞。劇団バッコスの祭(2002年結成→2016年解散)の脚本・演出でした。

森山智仁

脚本家・フリーライター。NovelJam2018で小説家デビュー、山田章博賞受賞。劇団バッコスの祭(2002年結成→2016年解散)の脚本・演出でした。

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日本縦走――39歳、徒歩で日本縦断登山旅

はじめに「今日はどこまで行けるか……」 「テントを張れる場所は……」 「次はどっちへ行こうか……」 「出会いに感謝!」  徒歩で日本縦断と聞いて、そのような冒険をイメージされた方には、この本はおそらく期待外れだと思います。  あらかじめ細かくスケジュールを立て、キャンプ場やテント場、旅館に行儀良く泊まり、あまり人に頼らず、なるべく静かに歩いてきました。  さらに断っておくと、完全な徒歩ではありません。4月スタートで9月ゴール。北海道で本格的に雪が降り始める前に終わらせるため

¥500
    • 掌編小説『ルートレス3』

      自分はNoveljam2018(第2回)で参加したOBです。先日開催されたNoveljam 2024には参加していませんが、「裏Noveljam」ということで勝手に書きました。 「初代がゴッチさんのおかげで売れたのは確かなわけじゃん」  御笠がいつになく強い声で言った。  二見はまばたきを一つ。  石室が座り直すと、高価なゲーミングチェアがギシリと鳴った。  時刻は24時。白い会議机の上はきちんと整頓されている。誰もタバコは吸わない。    ◆ ◆ ◆    インディーズホ

      • 推しの子の「感情演技」について

        演劇人が推しの子について語っているのを聞いたことがない――というのは僕が現役を退いて久しく、SNS上でのか細い繋がりしかないからだろうか。なんというか、すごく狭い檻の中にいるあの界隈が外から見つけてもらえるチャンスなのに勿体ないぞ……と、1期の頃から思っていた。 少なくとも僕が関わった20年間(部活含む)では「感情演技」なんて言葉は聞いたことがなかったし、推しの子で語られているそれは、演技に対して誤解を生むものですらあるとも思う。ググるとこちらの記事がヒットする。 「大げ

        • ロングトレイル「富士山大回転斬り」振り返り

          8月24日から9月10日、17泊18日の計画(実際に行動したのは14日間)で、富士山を左手に見ながら周りの山をぐるりと縦走して最後に富士山に登るオリジナルロングトレイル「富士山大回転斬り」をやってきました。 寸感と集計タテ方向の「縦走」では、歩いてきた道や山を振り返って見られるのはせいぜい3日前ぐらいまででした。それに対して今回は円運動なので、富士山を中心に「ここまで来た」と、進展を明快に感じられたのが良かったです。 総距離は277.9km、累計獲得標高は15722mでし

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        日本縦走――39歳、徒歩で日本縦断登山旅

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          何かを始めるのに遅いは、ある

          挑む者は20代で死ぬ。そういうイメージが、黄金時代に若き日々を過ごした先鋭的なクライマーの間では珍しくなかったらしい。先日参加した田中幹也さんのトークイベントで、そんな話を聴けた。 僕は、結論としては、30代後半になってから山を始めてよかったと思っている。学生時代は演劇部にいて、10代後半から30代前半は演劇人として過ごし、人間集団の負の側面をずいぶん見て、演劇に対して苦々しい思いを抱きながらの劇団解散となった。もし山岳部に入って集団の中で扱かれていたら、山を嫌いになってい

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          金が貯まらねぇんだ

          2023年秋、日本縦走を終えた時点では、「2025年春までの1年半、実家で暮らせば、次の旅の資金180万ぐらいは作れるだろう」と思っていた。 見積もりが甘かった。貯まりゃしねぇ。 けれど不思議がることでもない。 原因は明らかで、古くなった靴や雨具を買い直したり、月イチのペースで遠征に出かけたり、全然関係ない分野の機材を買ったりしているからだ。金は使えば出ていく。この記事だって仙台のホテルから投稿しているし、8〜9月には17泊の遠征を行う。 ひとまず、2025年に旅立つ

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          桃鉄プレゼン却下に思う、町おこしの難しさ

          却下された小学生のプレゼン小学生が「枚方を桃鉄に追加してください」とプレゼンし、大人がガチでダメ出ししたという記事があった。話題としては少し古いのだけれど、「良記事だったなぁ」で済ませられない何かがずっと自分の中に残っている。 講評の中で、 ・なぜ近いまちが入っていて、枚方が入っていないかを調べていない。 ・みんなと同じ視点では採用されない。 という指摘があった。 これは、町おこしに悩む、ほとんどの地方都市・田舎・過疎地域・限界集落にブッ刺さるのではないだろうか。 多

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          文学フリマ個人参加で約50部完売レポート

          このnoteでも販売している旅行記の紙版を作成し、 文学の同人誌即売会「文学フリマ東京38」にて、約50部の完売に成功しました。 「文学フリマ」のサジェストで「売れない」が出てくるような世界で、誰かとの合同ではない個人参加での50部は、まずまずの成功と言えるでしょう。 どうしてこんなに売れたのか、いわゆる手前味噌になりますが、ポジティブな反省会をしてみます。 ①事前宣伝Twitterでのまともな宣伝は、フォロワー4000弱の登山アカウントで1週間前に1度やったきりです。

          文学フリマ個人参加で約50部完売レポート

          塔ノ岳の大倉尾根が富士登山の予行練習におすすめの理由

          関東にお住まいで、「登山はやらないけど一度は富士山に登ってみたい」という方に、神奈川県の塔ノ岳(1491m)に大倉尾根ルートで一度登ってみることをおすすめします。以下、その理由や注意点を説明していきます。 ①標高差が同じぐらいだから「大倉」のバス停から塔ノ岳の山頂までの標高差と、富士山の五合目から山頂までの標高差がどちらも1300~1400mぐらいです。大倉尾根の紹介の看板にも「富士山に匹敵」と書かれています。 「六合目より上の小屋に泊まるなら、そんなにキツい訓練しなくて

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          高校生の精神年齢について

          旅行記に、高校生の頃は「典型的な陰の者だった」と書いた。 端的に言えば、Twitterで人気のチー牛である。  ◆ ◆ ◆ 最近、「高校生の精神年齢なんてまぁそんなもんじゃないか」と思う出来事があり、あとで「いやそれは自分が極端に幼かったせいでは?」と気付いた。  3年のクラス演劇で脚本・演出をやらせてもらい、最終的には文化祭最優秀賞を取って胴上げまでしてもらったのだけれど、思い返すとあの稽古期間は、大人たちの中で子供が一人、面倒を見てもらいながら演出家ごっこをしてい

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          偉大な二人の冒険家

          角幡唯介さんの『書くことの不純』を読み終えたタイミングで、阿部雅龍さんの訃報を知った。 お二人のことは著書でしか存じ上げないけれど、対極的だと思う。 角幡さんは内省的で哲学的。とある記者の「探検って社会の役に立つんですか?」というたった一つの問いに、本一冊分のレスを返すほど、物事を突き詰めて考える。他人が容易に近付けない仄暗い細道を歩き続けていて、我々はその背中に対価を支払っている。 一方で、阿部さんは底抜けに明るい。仮面ライダークウガに触発されて、名刺に「夢を追う男」

          偉大な二人の冒険家

          大人になってから改めてドラクエ5を遊んだ感想

          何年生の頃だったでしょうか。小学生時代、初めて遊んだ当時は、自分自身が勇者になりたい男子だったので、「自分じゃなくて息子が勇者であること」を少し残念に思った記憶があります。 逆に言えば、そう思うほどに夢中でしたし、ほとんどすべてのRPGにそのぐらい感情移入していました。ドラクエ5とは違って、自分が勇者ではあるんだけど「指揮官」という役割で、画面の中では戦えない『ダウン・ザ・ワールド』という作品では、せめてもの応援に、キャラのモーションに合わせて画面の前で棒を振っていました。

          大人になってから改めてドラクエ5を遊んだ感想

          バイトの現場で仕事の説明が上手い人、ほとんど存在しない説

          これはリアル、対面・口頭での話です。いくらでも時間をかけて準備できる文章や動画は対象外とします。 世の中、アルバイトの現場において仕事の説明が上手い人って、ほとんど存在しません。だから、次の春から初めてバイトをする学生の皆さん、説明を聞いて一発で飲み込めなくても、たぶんあなたの理解力が低いせいではないです。安心してください。 それでは、説明の上手い人が少ない理由を説明していきます。 ①全体像からでなく目先の作業を説明してしまうからこれが最大の理由です。会社あるいは店とし

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          ホームレスに差し入れをした話

          いつかの夏、とある駅前でフラフラと台車を押しているホームレスのばあちゃんがいた。僕は「あのままでは熱中症で死ぬ」と思い、コンビニでポカリを買ってきて、「いらんかったら捨てといてください」と、足元に置いた。 その時、名前を聞かれ、「忘れません」と言われたことが、こちらこそ忘れられないほど深く心に残っている。こんな品性のある人が何故、と。 恩を受けた時に名前を聞く。そして忘れないと伝える。品位ある人生を歩んでこなければ、とっさにこの対応はできない。 きっかけはささいな不運だ

          ホームレスに差し入れをした話

          好きなことで生きなくてもいいよね

          「好きなことで生きていく」というキャッチフレーズがキャッチーである背景には、「好きなことで生きていくのは難しい」という現実がある。プロのスポーツ選手になれるのはほんの一握りだし、漫画や音楽で生計を立てられる人はごく一部で、YouTuberは登録者1000人さえ難しい。僕は7年前、劇団を解散した。 いわゆる夢追い人を長い間やっていたせいか、こんな思い込みがあった。好きなことそのもので生きている人がピラミッドの頂点で、その「核」に近いほど上位にいる。たとえば小説なら、専業作家が

          好きなことで生きなくてもいいよね

          「個性を出そう」VS「自我を出すな」

          模倣が創造の第一歩である、という話はここでは述べない。 消費者・視聴者目線の話をしていく。 YouTubeはかつて若者のメディアだったと思うけれど、最近の若者は(知らんけど)TikTokとかを見ていて、YouTubeの視聴者は高齢化しつつある。 よく知られているように、人は歳を取るとだんだん新しい娯楽を摂取できなくなる。 脂っこいものを食べられなくなるのに近いだろうか。 好き嫌いの問題ではなく、消化機能が落ちているのだ。 誰も娯楽や食事でわざわざ疲れたくはない。 である

          「個性を出そう」VS「自我を出すな」