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僕は、最後にチョコザップのカラオケボックスでオペラを歌いたい。

いつもトレーニングしながら、カラオケを聴いている。

近所のチョコザップは、トレーニング器具はほとんどないのだが、洗濯機や、エステ、カラオケボックスと、なかなかの充実っぷりだ。人の気配はするんだけど、誰もトレーニングしていない、ということがある。
おそらくエステやホワイトニングで個室にいるのだろう。
なんとも不思議な気持ちになる。なんとも形容し難いこの気持ちはチョコザップでしか味わえない。

谷川俊太郎は「この気持ちはなんだろう〜」と詩に書いているが、
僕もチョコザップにいると、そんな気持ちになる。

だが、気配を隠せないのが「カラオケボックス」だ。
近くにカラオケできるところはいくつかあるのだが、チョコザップに行くと、ほとんどの確率でカラオケボックスが稼働している。

なぜ、チョコザップで歌うのか。

ひとつは、会費で賄えるから、ということだろう。トレーニングもしたいしカラオケもしたいということだ。

だが、防音能力はほぼない。
そして、カラオケ屋(なんと言えば良いのだろう)だと、たとえ防音能力が低くても、みんな歌っているのだから、なんとなく紛れるし、誰が何を歌っているのかなんて気にならない。歌声がまざって印象にすら残らない。

でね、やっぱり上手くないとダメだわ。
ついつい聴いちゃうもん。
あと、曲も王道な感じが多い。
最近はミセスグリーンアップルが男女問わず多い気がする。

まあそうだよな、あまりに下手なのも困るし、かといって急に「まいごのまいごのこねこちゃん〜」
なんて始まったら、トレーニーたちの力が抜けて怪我につながる。
おそらく強制退会になるだろう。


僕は、音楽科を卒業しているので、専攻ではないものの声楽には多少の心得がある。というと、いやいや、嘘つくなよと言われるが、人を見た目で判断してはいけない。まあ、普段はのんびり喋るからね。

だが、カラオケがめちゃくちゃ苦手である。たぶんマイクを通した自分の声を聞くのが嫌なのだ。

僕は決めた。
チョコザップのカラオケボックスで、プッチーニ作曲のオペラ「トゥーランドット」より「誰も寝てはならぬ」を歌いたい。
トリノオリンピックで荒川静香さんがイナバウアーした曲ね。

だが、オペラを発動したら、もう恥ずかしくてその店には行けない。
だから良いのだ。

引っ越しが決まったら、チョコザップでオペラを歌う。

立つ鳥跡を濁さず、というがそんなこと知るか。
むしろそのくらいやってしまったほうが、気持ちよくその土地を去ることができそうだ。

時々、精神がおかしくなって、狂いそうになって、メチャクチャなことをしたいと思う。だけど犯罪はしたくない。当然だ。
合法的に暴れる。暴れているわけではないけれど。

僕は決めたのだ。
最後にチョコザップでオペラを熱唱して、自身で門出を祝おうではないか!

ちょっと元気が出てきた。


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守田樹(もりた)
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