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パンダが少しデカい。

いつもの散歩コースには、古い小さな団地があって、その中心は公園になっている。そこには滑り台、ブランコ、そして、動物を象った遊具がある。

団地は道路を挟んで向かい側にあって、実際に足を踏み入れたことはない。いつも5メートルくらい遠目で眺めているだけなので、実際のサイズは正確にはわからないのだけれど、パンダの形をした遊具が少しデカい気がする。

3歳4歳くらいの子が乗るにはやや勇気が要る大きさだ。

普通逆だよなあ、と思った。

昔の建物で感じるのは、天井の低さや、洗面所や台所が少し低いなあという、小ささ、コンパクトさのようなものである。

それならば、散歩コースに鎮座する、築年数が結構いってそうな団地の遊具も、あれ、最近の公園の遊具に比べるとちょっと小さいかな、となって然るべきである。

それなのに、なぜそのパンダはちょっとデカいのか。


遊具のハンダ、という名を聞いたことがあるだろうか。

ハンダは、日本の高度経済成長期に乱立した団地やその周辺にある公園の遊具製作で台頭し、1970年代では、公園などの遊具のトップシェアを誇ったとされる。

だが、1983年に試練が待っていた。

その年に東京ディズニーランドがオープンすると、人々はミッキーマウスに夢中になり、しかもディズニーのキャラクターと比べると、その絶妙なちゃっちさが目立つようになった。

次第に子供達は、「なんか、かわいくないし、いけてない」という、なんとも残酷な理由から、動物の遊具に乗ることをやめていった。

さらにその年にはもう一つ試練があった。

それはファミコンの発売である。
しだいにゲームに夢中になる子供達が増えていき、遊具で遊ぶことが減った。

時代の奔流には逆らえず、遊具の製造はピーク時の10分の1まで激減し、ハンダは過去の遺物となり、しだいに人々から忘れられていった。

どうやら、その団地にあるパンダは1985年に製造された、Zpp3型という最後の型のようであることがわかった。
といっても正確な情報ではなく、あくまでも写真で見比べてみて、おそらくそれだろうと僕が判断しているに過ぎない。

そこにはこう記してあった。

圧倒的な乗り心地。
より動物らしく、可愛いフォルム。
ネズミにもゴリラにも屈しない。

おそらくここにあるネズミは、ミッキーマウスのことであり、ゴリラとは、ドンキーコングのことであろう。

そして、乗り心地や、本物に近い形を追求した結果、少しデカい遊具が誕生したのだろう。



と、適当な空想をしながら僕は散歩をしていた。
そして、今日もそのパンダの遊具を眺めた。やはり少しデカい。

だが、パンダだとずっと思っていたが、後ろ姿しか見えていないことが判明した。
いつかみてみたい気持ちもあるが、そのためには団地の敷地に入らなければならない。


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守田樹|凡庸な日常
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